経済財政諮問会議において新浪剛史・サントリーホールディングス社長が発した意見について
今月15日の経済財政諮問会議において、一部の政府関係者から、「働き方改革」で残業代減少による消費減退への懸念が示されたとのことです。
「働き方改革」で残業代減少、政府部内にも消費減退の懸念|ロイター発 World&Business|ダイヤモンド・オンライン
経済財政諮問会議民間議員 新浪剛史・サントリーホールディングス社長
「働き方改革を進める上で、ともすれば企業は残業代を減らすことを目標としてしまう。残業代の削減が働き方改革の目的となり、それが社員にとってマイナスになっては、元も子もない」
新浪社長の意見は本当に正しいと言えるのでしょうか。「働き方改革」とは関係なく、ブラック企業は過重な業務を与え残業を余儀なくさせた上、あの手この手を使い残業代を減らそうとしています。賃金不払い残業(サービス残業)の問題です。本サイトでもこれまでにサービス残業の事例を紹介しました。 サービス残業は労働基準法違反です。新浪社長は、サービス残業の問題と生活残業の問題とを切り分けて考えるべきです。
そもそも残業(法定労働時間を超えて労働すること)自体、労働基準法32条によって禁止されています。しかし、法定労働時間だけでは、業務の繁閑に対応できないため、労働基準法36条に従って36協定を締結し行政官庁に届け出れば、残業(時間外・休日労働)が認められます。すなわち、残業は業務の繁閑に対応するためにあるのであって、金銭的インセンティブに基づいて残業するというのは法の趣旨に反します。
したがって、残業代を始めから織り込んでおいて、それが減るからといって消費減退に繋がるというのは間違った考え方です。そういう考え方はダラダラ残業を助長し、労働生産性を低下させるだけです。さらに、ダラダラ残業は、長時間会社に拘束されるという意味においては長時間労働と変わらず、健康障害にも繋がります。
そういう旧態依然とした考え方を早く捨てて、労働生産性を上げることに目を向けるべきでしょう。因みに、日本の労働生産性は2015年のデータでOECD加盟国34か国中21位です。アメリカの約6割の水準で、順位はギリシャより下です(出所:http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2015_press.pdf)。
カルビー松本会長の経営術にこそ21世紀型の働き方のヒントが隠されている
カルビーの松本晃会長兼CEOは、2009年の就任以来ずっと会社を増収増益へと導いています。以前、カルビー松本会長の名言から、20世紀型の日本型雇用の問題点について考えました。
そこで今回は、カルビー松本会長の名言から、21世紀の働き方はどうあるべきかについて考えてみたいと思います。2015年に、「ダラダラと残業しているあなたへ」と題した松本会長のインタビュー記事があります。
この記事から、松本会長の名言をいくつかピックアップします。
名言1
経営者として、残業手当を払うことなんてまったく惜しくない。あんなの微々たるもの。わずかなものでしかありません。それよりも、あなたがだめになってるよ、と僕は伝えたいんです。残業をしていても、人間がまったく進歩しないじゃないですか。そうでしょ。
松本会長は、さすが名経営者だけあって労働基準法の趣旨もよく理解されているようです。残業というのは定時に終わらないような突発的な事態に備えるために存在するものなのです。恒常的な残業というのは存在しません。ましてや、給料を増やすために敢えて残業するというのはもってのほかです。
名言2
だからカルビーでは、自分の仕事が終わったら、極端なことを言えば2時に帰ってもかまわないと言っています。朝は何時スタートでもいい。会社に来なくてもいい。そのかわり、終わったあと何をやるかと。それが自分のバリュー、価値を上げるんだと。
おそらく松本会長はホワイトカラーに限定してこの話を進められていると思います。ブルーカラー(工場労働者)にはこの点は当てはまりません。なぜなら、工場労働者の場合、労働時間に応じて価値を生み出すことができるからです。1時間に何個製品を完成させたかというように。したがって、工場では、8時間ごとの交代制を採るところが多くみられます。
しかし、ホワイトカラーの場合、自分が考え出した企画やアイディアがどれだけの利益をもたらしたかということが評価の基準であり、決して時間では図ることができません。そのためには何をすべきかということを言われています。
名言3
知識や教養を身につけて、家族と過ごす時間を大切にして、そして健康でいるために努力して。そうしたものを蓄積して、どんどん優秀に、魅力的になっていくんです。そのためには、一日を2度楽しめるぐらいの、仕事以外の時間が絶対に必要なんです。
これこそが21世紀型の働き方だと思います。長時間残業が恒常的になっている会社や、生活残業をやっている従業員が多い会社に未来は無いですね。