はじめに
今回は、労働安全衛生法違反の送検事例を題材に、事業者の危険防止措置について考えます。
事件の概要
書類送検された企業:
㈱シーアンドシー(神戸市須磨区)
シカゴピザ神戸中央店を運営
≪平成28年8月24日送検≫
- カセット式ガスボンベの廃棄処分中、湯沸かし器を点火し続けた
- 室内に充満したガスに引火し店舗が爆発
- 周囲で作業をしていたアルバイト労働者に火傷を負わせた
違反法条:労働安全衛生法20条
検証
労働基準法違反を繰り返す企業はもちろんブラック企業ですが、労働者の安全を軽視するような企業もブラック企業と筆者は考えています。今回は安全を軽視したため書類送検に至った事例を検証します。
今回の事例は、周囲に火元があるのに、引火性のものを扱っていたという極めて危険な行為が原因で起こった事件です。店舗で爆発事故を起こし、まさしく正真正銘のブラック企業になってしまいました。カセット式ガスボンベの廃棄処分は、屋外の風通しが良くかつ周囲に火元が無いところで行わなければなりません。
この作業自体は、同社事業部長がおこなっていました。そのため、爆発で一番火傷を負ったのは、作業を行っていた事業部長です。しかし、法人のみならず火傷を負った事業部長自身も労働安全衛生法違反容疑で書類送検されました。なぜでしょうか?
そこで、次の条文をご覧ください。
労働安全衛生法第20条
事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険二 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険三 電気、熱その他のエネルギーによる危険
この事業部長はもともと本社勤務でしたが、同店店長の退職に伴い代行として同店舗を訪れていたそうです。そのため、この事業部長は事業者側の行為者に相当します。したがって、法人のみならず行為者である事業部長も労働安全衛生法20条に定められている危険防止措置を怠ったとして書類送検されたわけです。このように、労働安全衛生法には、法人そのものと行為者の両方が処罰される規定が存在します。この規定を、両罰規定といいます。なお、両罰規定は、労働基準法にも設けられています。
ここで、次の条文もご覧ください。
労働安全衛生法第26条
労働者は、事業者が第二十条から第二十五条まで及び前条第一項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。
この条文では、労働者が主語になっています。このように、事業者のみならず労働者も危険防止措置を怠った場合、処罰の対象となる場合があります。
今回のケースで例えれば、事業部長が「危ないからやめろ」と制止したにもかかわらずアルバイト労働者が爆発事故を起こしてしまったら、今度は逆に労働者のほうが処罰の対象となるということです。危険防止に関しては、事業者・労働者に関わらず決して怠ってはならない事項ですので気をつけましょう。
まとめ
事業部長が危険な行為に及んだ際、周囲にいたアルバイト労働者が制止しようと試みたかどうかは記事には載っていません。しかし、例え上司や目上の人であっても、その人が危険な行為に及びそうになったら、積極的に注意しましょう。自分の身を守ることはもちろんのこと、行為に及ぼうとしているその人の身を守ることにもつながります。労働安全において、上下の関係はありません。
そして、目上の人が制止を振り切ってでも行為に及ぼうとしたら、その場合は仕方が無いので自分の身を守るためにもすぐ逃げましょう。
ピザを焼くことも重要ですが、店舗を焼かないようにすることの方がはるかに重要なのです。