安倍首相の記者会見での言葉
平成28年8月3日、安倍首相は記者会見で次のように述べました。
「同一労働同一賃金を実現し、「非正規」という言葉をこの国から一掃します。」
「非正規」という言葉を理解するためには、その逆である「正規」という言葉の本当の意味を理解する必要があります。 以前、正規社員(正社員)の定義を述べたことがあります。
ここで、正社員の定義を再掲します。
- 期間の定めのない雇用
- フルタイム
- 直接雇用
この3つの条件全てを満たす雇用体系で働いている人を「正規社員」あるいは単に「正社員」と言います。したがって、1~3のどれかひとつでも当てはまらない人を「非正規社員」と言います。 ここまでだったら、多くの人が何となく気付いていることと思います。ところが、この他にあまり多くの人が知らない、「非正規」という言葉に込められた本当の意味が存在するのです。
「非正規」という言葉に込められた本当の意味
読者の皆さんは、「大企業には非正規社員が多く存在するのに、どういうわけか中小企業では非正規社員をあまり見かけたことが無い」と思ったことはないでしょうか。実は、ここに「非正規」という言葉に込められた本当の意味を探る手掛かりがあります。
答えを先に言ってしまうと、
「非正規社員」とは、企業別労働組合の「非組合員」
という意味です。反対解釈すると、大企業では、企業別労働組合の組合員のことを「正規社員」あるいは単に「正社員」といいます。つまり、企業別労働組合の組合員になるためには、上記1~3の条件全てを満たす必要があるのです。中小企業でも企業別労働組合が全く存在しないわけではなく、ごくわずか存在します。この場合でも、同組合の組合員を正社員というのであって、他の社員は非正規社員です。以上からわかるように、企業別労働組合は「組合員こそが正しい働き方をしている人たちだ」と暗に主張しているのです。
では、「正規社員」と「非正規社員」の間に、賃金や福利厚生など待遇の差が著しいというのはなぜでしょうか。企業別労働組合の組合員たる「正社員」だけが、使用者と賃上げや福利厚生などについて労使交渉を行っているからです。非正規の方はこの労使交渉に参画できません。この歪んだ労使交渉が存在する限り、正規・非正規の待遇格差の問題は決して解消できません。
したがって、安倍首相の言う
「同一労働同一賃金を実現し、「非正規」という言葉をこの国から一掃します。」
を実効性あるものにするためには、
「この国から、今の春闘のあり方を一掃します。」あるいは「この国から、ユニオンショップ協定に基づいた企業別労働組合を一掃します。」
と言い換えなければならないのです(ユニオンショップ協定については別の機会で説明します)。