Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

雇用を流動化すれば長時間労働は解決する

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電通の書類送検が問題提起のきっかけとなった

 2016年末の電通の書類送検は、人々の働き方について考え直すきっかけとなる大きな出来事でありました。今般、働き方改革関連法が成立し、長時間労働の抑制すべく、時間外労働に罰則付きの上限が設けられることになりました。しかし、終身雇用制という雇用慣例を改めない限り、実効的な改革に踏み切ることはできないでしょう。 

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 終身雇用制は高度経済成長期の20年くらいの間に、形成されていった日本独特の雇用慣行です。しかし、経済状況の変化が著しい昨今、終身雇用制にこだわればこだわるほど自らが苦境に立たされることになります。この理由を具体的に考えます。

長時間労働の是正について

 長時間労働の問題は、正社員にとって重大な関心事です。そもそも、長時間労働の問題は経営者に広範な人事権を委ねた結果生じたものです。では、労働者が経営者に人事権を委ねる必要があった理由は、終身雇用を維持するためです。長期的な雇用を維持するためには、そこまでしないと経済状況の変化に対応できなかったのです。すなわち、終身雇用制の維持と長時間労働の是正とは両立し得ない概念です。

 長時間労働は確かに早急に解決しなければならない問題ですが、時間外労働の上限規制だけでは、根本的な解決には繋がりません。使用者と労働者との間で交わされた、長期雇用の約束広範な人事権の移譲とのバーターを解消しなければ、長時間労働の問題を根本的に解決することは不可能です。

同一労働同一賃金について

 同一労働同一賃金の実現は、非正規社員の方にとって重大な関心事です。ところが、終身雇用制の維持と同一労働同一賃金の実現も、互いに両立し得ない概念です。

 高度経済成長期に、終身雇用制の維持のため企業別に労働組合が形成されてきましたが、企業別労働組合は、正社員のための労働組合です。したがって、基本的に非正規社員は企業別労働組合の組合員になることができません。

 毎年春先から、「春闘」と言って、使用者と当該組合との労使交渉が始まりますが、賃上げ主体の経済闘争をおこなっています。そもそも人件費の総量は毎年決まっています。たとえ「春闘」で組合が賃上げを獲得したとしても、その分だけ非正規社員の賃金が減るような仕組みになっています。この慣例が存在する限り、正規・非正規の格差の解消すなわち同一労働同一賃金の問題は解決しないのです。

働く人ひとりひとりの意識改革が必要

 以上のように、正規・非正規双方にとって、「終身雇用制」は時代の要請に適っていません。最近、東芝の解体が取り沙汰されています。ほんの数年前だったら、人々が予想もしえなかった出来事でしょう。このようにほんの数年の先行きすら不透明な中、40年先のことなど到底予測し得ないのです。すなわち、終身雇用制という概念そのものが有名無実化しているのです。終身雇用制の問題を解決するためには、雇用の流動化を進める必要があります。

我慢すればするほどもっと苦しくなる

 労働法には、法による社会の構築と社会による法の構築の両方の側面があります。法が時代の要請に適っていないのなら、社会が法の構築を要請すればよいのです。長時間労働で体を壊しそうであれば回復するまで十二分に休めばよいし、もっと違う仕事がしたいと思えば転職すればよいし、会社の雰囲気が合わないとか上司のパワハラに苦しむのであれば我慢することなく辞めればよいのです。

 終身雇用という幻想にしがみついて我慢してしまうから、それが合成の誤謬となり、さらに我慢しなければならないような状況に追い詰められてしまうのです。

 いち早く終身雇用の幻想を捨て去り、働く人の意識改革が進めば、本当の意味での「働き方改革」につながるでしょう。