日本型雇用慣行とは何か
世界的に類を見ない超人口減少社会が訪れるのが確実な日本にあって、かつてのような高度経済成長が見込まれる可能性は0です。高度経済成長期は1955年に始まり、その後20年ほど続いたとされています。高度経済成長期が終了してから、今に至るまで40年以上経過しています。すなわち、終戦直後から現在に至るまでの期間全体を俯瞰すると、高度経済成長期のほうが特殊な時代であったのです。
しかし、日本型雇用慣行はこのわずか20年のあいだに形成されたシステムです。バブル崩壊後20年以上が経過し、「失われた20年」と盛んに言われるようになった昨今、高度経済成長期の20年間に定着したシステムを無理しながら維持しようとしているのが現在の日本における雇用の姿なのです。
日本型雇用を特徴付ける要素には次の3つがあります。
- 終身雇用制
- 年功序列賃金
- 企業別労働組合
労働法の研究者はこの3つのことを「三種の神器」と呼ぶことがあります。この他に、日本型雇用を特徴付ける要素に「新卒一括採用」があります。
新卒一括採用は終身雇用制という雇用慣行を維持するための道具に過ぎない
世界的に見ると、労働市場は企業の枠組みの外に広く開かれています。労働市場が開かれているほど、経済状況の変化に柔軟に対応できるのは自明の理でしょう。しかし、日本では、労働市場は企業閉鎖的です。すなわち、自社の中で激しい景気変動に対応しようとしているのです。
この閉鎖的な労働市場に固執しているのが、企業別労働組合です。しかし、労働市場の成員が少なければ少ないほど、個人が受ける変動要素が大きくなります。例えば正規雇用労働者の場合、忙しい時には過労死するぐらい長時間働かされる一方で、暇なときには「追い出し部屋」に閉じ込められるというように。
これに対し、非正規雇用労働者には、「追い出し部屋」は存在しません。なぜなら、雇用が流動的であるからです。
広範な人事裁量権とは「無理難題」のこと
この企業閉鎖的な労働市場を維持するためには、広範な人事裁量権を使用者に委ねなければなりません。広範な人事裁量権とは要するに、「無理難題」のことです。企業別労働組合の成員すなわち「正社員」である以上、企業閉鎖的な労働市場を維持するためには、
- 全くなじみのないところに突然転勤させられる
- 全く畑違いの仕事をさせられる
- 忙しい時には過労死寸前まで働かされる
- 暇なときには、追い出し部屋に行かされる
これらの可能性全ての受け入れを余儀なくされるのです。
企業閉鎖的な労働市場の入口はどこにあるのか
では、企業別労働組合の成員になるための入口はどこにあるか考えてみましょう。もともと長期雇用を前提とし企業閉鎖的な労働市場を維持するためには、労働力の調達を最初の入口に求めるしかありません。この最初の入口こそが、「新卒一括採用」です。経済成長が鈍化した日本にあってなお「新卒一括採用」のシステムを維持することは、時代に合わない終身雇用制を維持するために、若い人たちが付き合わされていることに他ならないのです。
次回は、この事実を踏まえて、新卒一括採用システムがいかに時代錯誤的であるのかもう少し具体的にひも解いていきたいと思います。