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旭化成社長が40代前半の層が薄いことを20年後に気付いた模様   

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はじめに 

サヒ新聞の記事に記載されたアサヒ化成社長の発言が物議を醸しています。 

「40代前半の層が薄い」と。 

digital.asahi.com

次のようにツイッターでもこの発言に非難轟々です。 

旭化成社長は気付くのが20年遅いですね。 

20年前の状況 

40代前半層が新卒のころと言えば、今から約20年前の1990年代後半です。 

1990年代後半というと、平成不況の真っただ中。どの企業も新卒採用を手控え、社会的に就職難となりました。 いわゆる就職氷河期世代です。 

日本に限らず諸外国でも、好景気や不況の繰り返しは付き物です。 しかしながら、諸外国においてこのようにいびつな年齢構成を聞いたことがありません。 

なぜ日本だけ、このような現象が生じてしまうのでしょうか? 

いびつな年齢構成は終身雇用に起因 

終身雇用とは、新規学卒者を一括採用し、定年まで雇用を保障する制度です。 

終身雇用とは、「従業員が一旦就職した企業を辞めずに勤勉に働き続け」、「重大な不正行為や重大な経営危機がないかぎり従業員を解雇しない」という、従業員と使用者との間の責任と義務の交換を意味します。そして、高度経済成長がこの交換を容易にする条件として作用していました。 

このような雇用形態は、世界的に見ても日本にしか存在しません。しかもそれが有効に機能したのは、終身雇用が社会的に定着した1960年ごろからバブル崩壊の前年の1990年までの約30年です。 

ところが、1991年にバブルが崩壊し、日本経済が本格的な景気後退期に突入したことによって、「コミットメントの交換を容易にする条件」がすべて崩壊したのです。 

終身雇用が厳格に保障されているのは、日本においてもとりわけ企業別労働組合が存在する大企業です。 一方、中小企業のほとんどは企業別労働組合が存在せず、必ずしも終身雇用が厳格に保障されているとは言えません。 

www.mesoscopical.com

したがって、就職氷河期世代の多くは、そもそも終身雇用でない非正規雇用か、必ずしも終身雇用が保障されていない中小企業へと流れていきました。 

では当時、大企業において何が起こっていたのでしょうか? 

整理解雇の解雇回避努力について 

景気後退による企業業績の悪化など、使用者の都合によって正規従業員を解雇することを整理解雇といいます。 

企業業績が悪化すれば自由に整理解雇してよいかというとそうではなくて、日本の労働法制においては、厳格な要件が定められています。 

これを、整理解雇の4要件といいます。 

整理解雇の4要件の中の一つに、解雇回避努力というものがあります。 

解雇回避努力とは、なるべく解雇を回避するために事前に行われる措置のことで、具体的には次のような措置を指します。   

  1. 残業規制 
  2. 配転・出向 
  3. 新規採用の抑制・停止 
  4. 非正規従業員の雇止め 
  5. 希望退職募集など 

ここで、注目していただきたいのは、解雇回避努力の中に「新規採用の抑制・停止」が含まれる点です。  つまり、企業の業績が悪化した時は、新卒者の採用を手控えなければ、解雇回避努力を尽くしたとは言えないとされているのです。 

そもそも、裁判において整理解雇が有効かどうかは、整理解雇の4要件に基づいて判断がなされます。したがって、企業が、十分な解雇回避努力を尽くさずに整理解雇を断行すると、労働者から訴えられた場合、裁判で負けてしまいます。したがって、企業は、整理解雇を断行する前に、新規採用の抑制・停止などをおこなわなければならないのです。 

これこそが、中高年団塊ローパーが解雇されないで、これから社会に出ようとしている若者の就業機会が奪われていったという理不尽を生んだ最大の要因です。 

整理解雇の4要件は、第1次石油危機以降の経済不況のなかで1970年代後半にとられた大企業の人員削減をモデルにしています。したがって、今の経済情勢・社会情勢と合致していません。これまでに多少の修正がなされてきたとはいうものの、未だにこれらの4要素を重視して整理解雇の有効性判断がなされています。 

つい数年で景気がドラスティックに変動あるいは反転しまう昨今にあって、この時代に合致しない判例法理を維持し続けることは、今後、第2・第3の就職氷河期世代を生む要因になるでしょう。 司法がだめなら、何らかの立法的措置が必要です。 

整理解雇法理は企業のいびつな年齢構成を固定化させる要因 

終身雇用が厳格に守られるということは、裏を返すと、企業が現に雇用している正規従業員(内部労働市場)によって雇用調整が図られることを意味します。したがって、中途採用市場が発達しません。 

先ほどの、整理解雇の4要件のうち解雇回避努力には、残業規制や配転・出向というものもありました。 これらは、残業時間を減らしたり、転勤や異動を行ったり、子会社へ出向するという形で、雇用調整を図るというものです。 

では、再び景気が回復し、業務量が増えた場合はどうなるでしょうか? 

このときは、逆に残業時間を増やしたり、別の事業所や部署や子会社に移った従業員を呼び戻したりして対応します。 

こういった雇用調整のあり方は、中途採用市場が発達しにくい要因ともなっています。 

したがって、新規学卒時にたまたま景気が悪く、非正規雇用や中小企業へと流れていった就職氷河期世代は、2度と内部労働市場の成員として組み入れられないことになってしまいます。このようにして、大企業を中心に、年齢構成がいびつなまま固定化されるのです。

年齢構成がいびつなままだと技術継承が疎かになる 

日本企業では、新規学卒者を一括して採用し、OJTなどを通じて、その企業における技術やノウハウなどを先輩から後輩へと継承するやり方を採用しています。 

したがって、ある特定の年齢層のみにおいてぽっかり穴が開いてしまうと、正常な技術の継承がなされません。  

旭化成の小堀秀毅社長は、次のように述べています。  

当社では、30代後半から40代前半の層が薄くなっています。その世代が中間管理職として一番パワーをもたないといけない時代にさしかかってきました。キャリア採用もしていますが、なかなか人が集まりません。

出所:朝日新聞 

先ほども説明したように、日本において中途(キャリア)採用市場が発達してこなかったのは、終身雇用を正当化するために、雇用調整を内部労働市場のみに頼ってきたためです。いびつな年齢構造も、これまでに雇用を流動化してこなかったのが原因です。 

大企業の中間管理職をキャリア採用しようにも、少なくとも別の大企業で中間管理職を経験した者でなければ適任とみなされません。しかし、どの企業も20年前の平成不況時に採用を手控えており、同年齢層が薄くなっています。 

人が集まらないのは当然ですね。 

また、小堀社長は次のようにも述べています。 

残業の本来の発想は、高度成長期に急拡大する需要に、追いつかない供給をカバーするためでした。それがデフレで供給過多になり、生産設備とともに人も減らしたのに残業が残ってしまったのです。 

出所:朝日新聞

諸外国であれば、残業時間で調整せずに、好景気時には人を雇用し、不景気時には従業員を解雇することによって雇用調整を図ります。 

ところが、日本では、終身雇用という珍妙な雇用慣行が存在するために、なるべく解雇に至らないように残業というバッファを敢えて設け、残業時間の長短で雇用調整を図らなければならないのです。 これが、昨今の長時間労働の原因となっていることは明らかです。 

まとめ 

旭化成に限らず、企業別労働組合の存在する大企業であれば、どこも年齢構成はこんなもんでしょう。人口構成において大きな比率を占める団塊世代が定年退職したことによって、規模にかかわらずどの企業も人材不足に陥っています。 

これに加え大企業特有の現象が存在します。それは、バブル世代の存在です。 

バブル世代とは、現在50代の方々で、空前の好景気を背景にほとんどフリーパスで入社した人たちです。新規採用数を雇用調整の一環としている大企業においては、年齢構成の相当数を占めています。 

これが、大企業の年齢構成のゆがみをさらに顕著なものにしています。 

つまり、高度成長期やバブル期に大きくなったのに過ぎないのであり、現在は縮小均衡の過程にあるので放っておきましょう。