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朝日新聞調査:日経225社の36協定特別延長時間のデータは貴重

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はじめに

朝日新聞が各地の労働局に情報公開請求し、日経225社の36協定の特別延長時間のデータをまとめ公開しました。

www.asahi.com

たいへん貴重なデータなので皆さんもぜひ目を通されるといいと思います。

朝日新聞の記事を読んだだけではわかりにくい部分があると思われるので、補足説明を加えたいと思います。

朝日新聞が行った調査とは?

特別延長時間について

これまでに本サイトにおいて何度か説明してきましたが、1日8時間・週40時間(*週44時間の特例あり)を超える労働(法定時間外労働)は、使用者が何も手続きを行わなければ、労働基準法違反の罪に問われます。

しかし使用者が労働者の代表と協定を結び、役所(労働基準監督署)に届け出れば、法定時間外労働が許されます。このときの協定のことを36協定と言います。

しかし、労働時間をどれくらい延長してよいのかについては、厚生労働大臣が基準を定めています。1ヶ月の場合、労働時間の延長の限度は45時間です。

36協定に特別条項というオプションを設定しない限り、大臣の基準を超える延長時間を36協定に盛り込むことは許されません。

一方、36協定に特別条項を設定すれば、大臣の基準をも超えた延長時間が認められます。このときの延長時間を特別延長時間といいます。

現行では、特別延長時間に上限はありません。

すなわち、労使で特別条項付き36協定を結びさえすれば、月100時間でも200時間でも特別延長時間の設定が許されます。

但し、特別条項は繁忙期にしか行使することができません。

法律では、特別条項の行使は1か月を単位として6回まですなわち半年間しか認められていません。なぜなら、7回以上これを認めると半年を超えることになり、もはや繁忙期とはいえないからです。

過去に、1年のうち半年を超えて特別条項を行使していたとして、書類送検された事例も存在します。

www.mesoscopical.com

朝日新聞が今回公表したデータは、日経225社の特別延長時間です。

なお、朝日新聞は、特別延長時間のことを「最も長い協定時間」あるいは「協定の最長時間」と表現しています。

昨年10月から今年7月までの間に何があったか?

朝日新聞は、昨年10月と今年7月に、日経225社の特別延長時間などについて調査を行っています。

ところで、昨年10月から今年7月に至る間に、一つの重要な出来事がありました。

それは、残業時間上限規制の政労使合意です。今年の3月18日のことでした。

これにより、これまで上限が定められていなかった特別延長時間に、月100時間未満とする規制が加えられることになりました。

したがって、昨年10月から今年7月に、日経225社の特別延長時間にどのような変化があったのかを見ることも重要です。

その結果は? 

下図は、朝日新聞による、日経225社の特別延長時間の集計データです。

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日経225社の特別延長時間(朝日新聞調査)

図を見て、筆者がまず気になったのは、昨年10月は日経225社が全て回答しているにもかかわらず、今年7月は不回答企業が約2割にものぼったということです。

いったいなぜでしょうか?

月100時間以上と回答した企業が何社か存在しますが、残業上限規制を盛り込んだ労働基準法改正案が制定・施行された場合、当該協定は直ちに労働基準法違反とされ無効となります。

今年7月の場合不回答企業が約2割にものぼるので、回答企業の実数の変化よりも割合の変化で見たほうが良さそうです。

そこで、回答企業のうち、①80時間未満、②80時間以上100時間未満、③100時間以上と答えた企業がどれくらいあったか割合を見てみます。なお、単位は%で、小数点以下は四捨五入です。

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日経225社(回答企業)の特別延長時間の推移

表から明らかなように、政労使合意の影響が明らかに見て取れます。 

今後、労基法が改正・施行されれば、月100時間以上の特別延長時間を定めた36協定は無効となるため、何社かの企業が早い段階で36協定を改定したものと思われます。

なお政労使合意では、36協定で設定できる年間総延長時間にも720時間という上限規制がかけられることになっています。

朝日新聞によると、年720時間超の36協定を締結していたのは、昨年10月時点で73社(約32%)、7月時点でも49社(約28%)にのぼっています。なお、括弧内は、回答企業に対する割合です。

いずれにしても、今後約3割の企業が何らかの対策を迫られることになるでしょう。

具体的に延長時間が長いのはどこか?

朝日新聞の記事には、以下の通り、 特別延長時間および年間総延長時間が長い企業の企業名が示されていました。

特別延長時間が長い企業
  • 昨年10月時点
  • 1位 👑 関西電力・IHI  200時間
  • 2位   日本たばこ産業 165時間
  • 今年7月時点
  • 1位 👑 IHI・大成建設・大林組 150時間
  • (関西電力は80時間に引き下げ)
年間総延長時間が長い企業
  • 昨年10月時点
  • 1位 👑 関西電力 1800時間
  • 今年7月時点
  • 1位 👑 大成建設 1200時間
  • 2位    大林組  1170時間
  • (関西電力は960時間に引き下げ)

下記の朝日新聞記事に、日経225社の36協定の特別延長時間および年間総延長時間の一部が示されています。

www.asahi.com

36協定における特別延長時間および年間総延長時間の意味

上記の記事では、具体的な企業名を挙げて、建設業の特別延長時間と年間総延長時間が示されています。

大成建設が最長でそれぞれ、150時間と1200時間です。

最短は、コムシスHDでそれぞれ、60時間と480時間です。

同じ建設業なのにどうしてこんなにも違うのでしょうか?

それは、その会社における人員配置並びに残業に対する考え方と深く関わりがありそうです。

因みに、大成建設は、今年のブラック企業大賞にノミネートされています。 

年間総延長時間について

36協定の年間総延長時間が長い企業は、慢性的に残業が長い可能性があるといえます。

36協定とはもともと労働基準法違反である残業(法定時間外労働)に免罰的効果を与えるものです。したがって、労働者に長く残業させても労働基準法違反にならないよう予め延長時間を長く設定してある可能性があります。

特別延長時間について

特別延長時間とは繁忙期にのみ許される残業時間の上限です。

繁忙期であってもこれを超えると労働基準法違反になります。

したがって、特別延長時間が極端に長く設定されている企業は、忙しいときは極端に長く残業させられる可能性があることを意味します。

例えば、月150時間という特別延長時間が設定されていれば、繁忙期であれば、月150時間の時間外労働を使用者が労働者に命じても、現行では労働基準法違反に問われません。 

まとめ

今回、朝日新聞の情報公開請求によって、日経225社の36協定の延長時間が公開されたのは大変意義深いと思います。

企業の36協定の内容は、その企業がどれだけ残業に依存しているかを知る上で重要な情報です。

現在、職業安定法施行規則4条の2において、労働者を募集する際の明示義務のある事項の一つとして「所定労働時間を超える労働の有無」が定められています。

所定労働時間を超える労働とは、残業のことです。

しかし、現行の職業安定法施行規則においては、労働者に何時間まで残業させることが許されているのか、すなわち、その事業所における36協定の内容の明示義務はありません。

筆者は、36協定の内容、特に協定時間の明示義務を使用者に課すべきと考えます。

そうすれば、求職者にとって応募の際の貴重な判断材料になると思います。

今年の4月にIHIや大成建設や大林組に入社した新入社員のうち、月150時間まで残業させられても違法にならないことを入社前に知っていた人は、はたしてどれだけいたでしょうか?