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就活生はブラック企業についてどのような考えを持っているのか?

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はじめに

ブラック企業という言葉が人口に膾炙するようになって久しいですが、その定義を明確に答えられる人はほとんどいないと思います。

それもそのはず。ブラック企業に明確な定義など存在しないからです。

例えば、賃金不払い残業や36協定違反の違法長時間労働が横行しているような企業はブラック企業の範疇に組み込まれます。なぜなら、労働条件の最低基準すら守られていないからです。

しかし、人々が口にするブラック企業とはこれだけを意味しているのではありません。

ある人は、労働条件が過酷過ぎる企業をブラック企業と呼んだり、またある人は、給与の水準が低過ぎる企業をブラック企業と呼んだりしています。その定義は千差万別であり、個々人の感覚によって大きく左右されます。

「ブラック企業」の定義が曖昧であることが、この問題を複雑化させている最大の要因なのです。

2017年11月、株式会社ディスコは、全国の主要企業(1362社)および学生(1225人)を対象に、「ブラック企業についての考え」に関するアンケートを実施しました。

そこには、ブラック企業に関するたいへん興味深いデータが示されています。

「ブラック企業」だと思う条件/企業調査・学生調査

アンケートでは、ブラック企業だと思う条件についていくつかの項目を用意し、集計を行っています。

下図が、その結果です。

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出所:株式会社ディスコ 「ブラック企業についての考え」に関するアンケート

以下、「そう思う」と答えた回答率が高い項目順に検討を加えます。

①残業代が支払われない

「残業代が支払われない」は、賃金不払い残業に該当し労働基準法37条違反です。

先述の通り、労働条件の最低基準すら守れない企業は間違いなくブラック企業に該当します。

入社前にこれを予見するにはどうしたらよいのでしょうか?

1つには、厚生労働省ホームページ上で公開されている、ブラック企業リストを利用することが考えられます。

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しかしながら、これはあくまでも送検事案のみであり、世に横行する賃金不払い残業の氷山の一角です。したがって、外部公開データのみで志望企業が賃金不払い残業を犯しているかどうかを把握することは困難です。

これを予見する別の方法として、志望企業に実際に勤務するOBやOGから賃金不払い残業の現状について直接ヒアリングを行うことがあります。

ただし、当該OBやOGがどれくらいの信憑性を以てこれに答えるかは疑わしいところもあり、効果は限定的でしょう。

②セクハラ・パワハラがある

セクハラ・パワハラの発生確率およびその強度が定量化された情報を入手しない限り、志望企業におけるセクハラ・パワハラの実態を把握できません。しかし、そのような定量化を行っている企業は殆どないでしょう。

したがって、セクハラ・パワハラがあるという観点から、志望企業がブラック企業かどうかを判定することはほぼ不可能です。唯一判定できるとすれば、セクハラ・パワハラによって精神障害を発症した従業員が労災認定に至ったり、提訴したことが報道された企業くらいです。また、同一企業であっても、パワハラ・セクハラの類は、たまたま配属された部署あるいは上司に大きく依存します。実際に入社し、職場の空気を噛みしめないと予見は困難です。

因みに、厚生労働省は、全国の民間企業に勤める従業員10000人を対象に、「過去3年間にパワハラを受けたことがあるか」というアンケートを実施しています。

筆者は、このデータに基づき、いったいどのような人がパワハラを受けやすいかという考察をしています。興味のある方は参照ください。 

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③労働条件が過酷である

「過酷」という抽象概念では、労働条件を定量化することができません。したがって、この項目を指標としてブラック企業を定義することも予見することもできません。

④成果を出さないと精神的に追い込まれる

項目③の「労働条件が過酷である」とかぶる部分もありますが、何を指標として「成果を出さないと精神的に追い込まれる」のかが曖昧です。

敢えてそれを指標化するとすれば、成果(ノルマの水準・労働生産性)および、成果未達によって精神疾患(うつ病など)を発症した従業員の割合などを定量化することくらいでしょう。

いずれにしても、入社前に人事担当者から引き出すのが非常に困難な情報であることは明らかでしょう。

⑤給与金額が低すぎる

これは、事前に情報を入手し、評価が可能な項目です。

給与の額については、労働基準法15条において、使用者は労働契約締結時に労働者に明示することが義務付けられています。

この度、職業安定法が改正され、より早期に労働条件の把握に資するよう、採用内定時に、給与額を始めとする労働条件の提示を使用者に義務付けることになりました。

したがって、給与額については、ブラック企業かどうかを判断するうえで入社前に事前入手できる数少ない情報と言えるでしょう。

しかしながら、額面だけで単純にこれを判断してはならず、給与制度の詳細についても問い合わせる必要があります。

給与制度の落とし穴として典型的なものは、固定残業代制です。

企業が固定残業代制を導入すること自体は禁止されていませんが、その全体像を正確に把握しておかないと、入社してから飛んだ思い違いに至る可能性があります。したがって、給与の額面に固定残業代が含まれているかどうかを人事担当者に予め確認しておくことが必要です。

確認の結果、固定残業代が含まれていた場合の注意点は次の通りです。

  1. 所定内給与と固定残業代とが明確に区分されているか
  2. 当該固定残業代が何時間分の時間外労働に相当する残業代か明らかにされているか
  3. 実際に労働した時間外労働の時間数が固定残業代としてあらかじめ想定した時間外労働の時間数を超えた場合、その差分に相当する時間数の残業代が別途支給される旨が賃金規定などに明記されているか

これら3つ全てを具備しない限り、当該固定残業代制は不適切な運用とみなされます。

 なお、固定残業代制についてより詳しくは、次の記事を参考にしてください。

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⑥募集条件と実働が著しく異なる

これは、実際に入社し、働いてみないとわかりません。したがって、この項目に基づきブラック企業を事前に予見することはできません。

因みに、厚生労働省では、募集条件と実働が著しく異なる場合のホットラインを開設しています。入社した会社の労働条件が、募集条件と著しく異なる際は、連絡してみると良いでしょう。 

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⑦離職率が高い・残業が多い

職業安定法が改正され、離職率・月平均残業時間などの基本データの開示が使用者に義務付けられることになりました。

したがって、事前の積極的な情報収集を心がけると良いです。

株式会社ディスコは、残業について深堀りし、一体どれくらいの残業時間であれば、ブラック企業になると思うのかについてもアンケートを取っています。

下の図は、その結果です。

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出所:株式会社ディスコ 「ブラック企業についての考え」に関するアンケート

企業と学生にそれほど大きな乖離は見られません。

企業・学生ともに、40~60時間未満以降において急激に値を伸ばしています。

なお、厚生労働省の過労死認定基準は、長時間労働を起因とする脳血管疾患・虚血性心疾患について、時間外労働が45時間を超えなければ業務と発症の因果関係は弱いが、45時間を超えれば、時間外労働時間が長くなれば長くなるほど業務と発症との因果関係が徐々に強まっていくと指摘しています。

このアンケート結果は、過労死認定基準の記述に符合する非常に興味深いデータとなっています。 

⑧有給休暇を取りづらい風土がある・職場の人間関係が悪い

有給休暇平均取得日数などの客観的データであれば事前に入手することができます。しかし、取りづらい風土があるかどうかについては、実際に職場に在籍しその空気を体感してみないとわかりません。したがって、事前にこれを知ることは不可能です。

人間関係についても同様です。なお、職場の人間関係については、同じ会社であっても配属部署や上司などに依存する部分が大きく、ジョブローテーションを基調とする日本企業において、これを事前に知ることは不可能です。

⑨人事制度や研修制度が整備されていない

当該項目は、むしろ前向きな内容であり、説明会や面接等において積極的に採用担当者に問い合わせても問題ないでしょう。

⑩労働組合がない

これは、事前に容易に確認できる事項です。

労働組合の有無については、職業安定法において労働条件の明示義務が使用者に課されている項目ではありませんが、面接時に積極的に問い合わせてみると良いでしょう。

⑪ネット上で話題になっている・知人が入社を勧めない

これは、事前に十分入手できる情報であり、問題ないでしょう

まとめ

就活生が「ブラック企業と思う」と回答した条件のうち上位に位置する項目は、いずれも、職業生活を営む上で特に重大かつ予見困難なものでした。

この予見困難性が、ブラック企業の問題を肥大化させ一向に収束しない最大の理由となっています。

そもそもブラック企業とはネット上のスラングから派生した言葉と言われていますが、今や一般的な用語として定着しつつあります。

ブラック企業は、近年の社会情勢の変化により、従来型の日本型雇用における労使間の均衡が破れた形で顕在化した問題だと言われています。

日本型雇用は、終身雇用や手厚い福利厚生を保障する代わりに、使用者による強大な人事権行使を容認するという、労使間コミットメントの交換で成り立っていました。

ところが、高度経済成長の終焉に伴って経済成長も鈍化し、かつ、グローバル化の波が押し寄せたことにより、企業が終身雇用を保障する時代は過ぎ去りました。

その一方で、雇用慣行上、使用者の強大な人事権行使のみが日本企業において色濃く残りました。いわば、労使間の交換関係の破綻を契機として頭角を現してきたのがブラック企業です。

ブラック企業の問題を解決するために各方面からいろいろな解決策が提唱されています。

1つは、労働基準法違反などを繰り返す企業の取り締まり強化です。このためには、監督機能の大幅増強が必要です。確かに、賃金不払い残業や違法長時間労働の対策としてある程度効果が期待できるでしょう。

しかしながら、パワハラ・セクハラ、労働条件が過酷過ぎる、ノルマがきついなどの項目は、監督対象にはなりません。これらは企業自治によって対処されるべき問題で、強制力を持った監督機関による取り締まり対象でないからです。

日本型雇用は、本来は、労働者には終身雇用というアメを与え、その一方で、使用者には強大な人事権行使というムチを与えることで成り立っていました。ブラック企業の問題は、アメの大きさだけが小さくなり、ムチだけが依然として大きく存在していることで顕在化したといえるでしょう。

日本型雇用が有効に成立していた高度経済成長期と比べれば、現代は経済情勢・社会情勢の両面において明らかに変容しています。そのため、アメの大きさを再び大きくすることはできません。

したがって、ブラック企業を撲滅する策はただ一つしかありません。それは、ムチの大きさも小さくすること、すなわち、使用者に強大な人事権行使を認めさせないことです。

そのためには、雇用を流動化が必要です。

終身雇用にこだわることなく転職しやすい社会が実現すれば、入社前にブラック企業かどうかの予見に腐心する必要はありません。

雇用の流動化が実現すれば、パワハラ・セクハラ、労働条件が過酷過ぎる、ノルマがきついなど就業環境の劣悪な企業は人心の離反を招き、従業員がどんどん辞めていきます。昨今の人手不足の状況も手伝って、そのような就業環境は自ずから、淘汰されていきます。

2ちゃんねるのひろゆき氏も指摘するように、ブラック企業問題を解決する唯一の道筋は、ブラック企業を安心して辞められる仕組みを構築することなのです。

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