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厚生労働省が認定するホワイト企業とはいったいどういうものか?

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はじめに

 2017年から厚生労働省は、労働基準関係諸法令の違反により労基署から書類送検された企業の名前を、ホームページ上にリストアップして公表しています。

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 一方で、厚生労働省が毎年11月、長時間労働削減に積極的に取り組む企業をホワイト企業として認定しているのを皆さんはご存知でしょうか?同省が行うホワイト企業認定事業は、毎年11月に行われる「過重労働解消キャンペーン」の一環として実施されるものです。 

 「過重労働解消キャンペーン」の具体的な実施事項には次の3つがあります。

  1. 労使の主体的な取組
  2. 労働局長によるベストプラクティス企業への職場訪問
  3. 過重労働が行われている事業場などへの重点監督を実施

 「ベストプラクティス企業」とは、俗にいう「ホワイト企業」を意味します。一方、「過重労働が行われている事業場」とは、俗にいう「ブラック企業」を意味します。

ベストプラクティス企業の例~株式会社かね岩海苔

 「ベストプラクティス企業」とは、長時間労働削減に向けた積極的な取組を行っている企業のことで、各都道府県労働局が年に1~2社を選定してます。毎年11月に、労働局長がベストプラクティス企業の職場訪問を行っています。

 今回は、高知労働局が2016年のベストプラクティス企業として選出した、株式会社かね岩海苔を紹介します。 同社は、焼海苔・味付海苔などを製造販売している従業員数97名(平成28年10月20日現在)の中小企業です。

同社が行った年次有給休暇の取組促進の取組について

 高知労働局は、同社による年次有給休暇の取得促進の取り組みを次のように報告しています。

  • 数年前から、まずは従業員の7割以上を占める時給制の準社員について、年次有給休暇の100%取得を目指して取り組んだ。
  • 積極的に年次有給休暇の取得の働きかけを行っており、27年度も準社員の全員が年次有給休暇を100%取得している。
  • 一方、正社員の中には、まだ年次有給休暇の100%取得を達成していない者もいるので、現在、100%取得を目指して取り組んでいる。
  • 年次有給休暇取得の阻害要因を排除するため、事務職でも現場作業でも、いわゆる多能工化に取り組み、その人がいなければ仕事が回らないというような状態を作らないようにしている。
  • これは、経営上のリスク回避の側面もある。ある日突然交通事故などで長期療養が必要になったときに、その人がいなければ仕事が回らないなどということでは、事業活動の停滞を招く恐れがある。
  • また、自分以外にもこの仕事ができる者がいるという状態を作ることは、従業員同士の競争にもつながり、切磋琢磨することによって、能力向上にも効果がある。
(出所:高知労働局)

 年次有給休暇は、労働者の正当な権利です。しかしながら、年休100%取得はなかなか難しいのが現状でしょう。

 しかし同社は、平成27年度に時給制の準社員全員に対して100%取得を実現したといいます。

 そして、社員の多能工化すなわちオールマイティーに何でも仕事をこなす社員を増やすことで、休暇取得の際に業務が停滞することを防いだとあります。また、社員同士の競争意識が芽生え、能力向上すなわち労働生産性の向上に効果があるとしています。

 確かに、長時間労働の要因の一つに、特定の労働者への業務の集中があります。互いに業務の分散を図ることは、長時間労働を抑制する一つの解決策として考えられるのかもしれません。

年次有給休暇の比例付与について

 年次有給休暇の100%取得を実現したという同社の「時給制の準社員」は、週所定労働日数が正社員に比して少ないパート労働者のことを意味しているものと思われます。

 ところで、皆さんは、週所定労働日数が通常の労働者(いわゆるフルタイム労働者)より少ないパート労働者やアルバイトに対しても年次有給休暇が付与されるのをご存知でしょうか?ここでは、その仕組みについて述べたいと思います。

 年次有給休暇の権利発生要件は、フルタイム労働者でもパート労働者やアルバイトでも同じです。なお、年次有給休暇の権利発生要件等の詳細は下記の記事に述べてあります。ぜひ参照ください。

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通常の労働者の年次有給休暇の付与日数について

 通常の労働者の年次有給休暇の付与日数は、勤続期間に応じて次の表のように定められています。

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年次有給休暇の比例付与の対象労働者について

 一方、パート労働者やアルバイトは、所定労働日数が通常の労働者に比して少ないため、付与日数については、比例付与の対象となります。比例付与の対象労働者とは、週所定労働時間が30時間未満であり、かつ、次の1又は2のいずれかに該当する者のことをいいます。

  1. 週所定労働日数が4日以下の者
  2. 週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は、年間の所定労働日数が216日以下の者

 この要件に該当しない労働者は通常の労働者として扱われ、年次有給休暇は原則通り付与されることになります。

年次有給休暇の比例付与の日数について

 パート労働者やアルバイトの年次有給休暇の付与日数は、勤続期間のほかに週所定労働日数又は1年間の所定労働日数に応じて次の表のように定められています。

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 但し、上記の表においては、所定労働日数に応じて付与日数1~4という4つのケースに分類しています。ここで、付与日数1~4を次のように定義します。

  • 付与日数1:週所定労働日数が4日又は1年間の所定労働日数が169~216日の場合
  • 付与日数2:週所定労働日数が3日又は1年間の所定労働日数が121~168日の場合
  • 付与日数3:週所定労働日数が2日又は1年間の所定労働日数が73~120日の場合
  • 付与日数4:週所定労働日数が1日又は1年間の所定労働日数が48~72日の場合

 以上のように、労働時間が通常の労働者と比べて短いパート労働者やアルバイトにも年次有給休暇が与えられます。もし使用者から年次有給休暇を付与されていない方は、事業所近くの労働基準監督署に当該事実を申告しましょう。

同社が行った残業時間抑制の取組について

 所定労働時間が9時から18時までという当社の特徴に合わせて、残業が必要となる場合でも、始業時刻を1時間早める「早出残業」だけにとどめて、所定終業時刻以降の残業は行わせないようにしている。

(出所:高知労働局)

 同社がおこなっている残業抑制の取り組みは、次の2点で特徴付けられます。

  1. 残業時間は1日1時間以内であること。
  2. 残業をおこなう時間帯は午前8時から午前9時に固定すること。

 1時間を超える残業は使用者によって事実上禁止されており、そもそも長時間労働に至る余地がありません。また、残業をする時間帯も早朝に限定されているため、終業時刻後ダラダラと残業するという生活残業の弊害を抑制し、労働生産性の向上に資することができます。

まとめ

 高知労働局は、同社の取り組みの成果を次のようにまとめています。

  • 従業員の定着率が向上した。人が定着するということは、技能の習得やノウハウの蓄積によってミスやクレームも減少し、利益向上につながるということである。
  • また、優秀な人材が集まるようになり、業績アップにもつながった。

(出所:高知労働局)

 いわゆるブラック企業では、業務量に対して人員が圧倒的に不足しており、長時間労働に陥る傾向があります。それに対し、同社では、1時間以内の残業だけで業務が回っており、両者のバランスが取れています。

 長時間労働は、健康障害の発生リスクも上昇させるため、結果として、高い離職率の要因となります。同社では、残業時間を抑制することで、従業員の定着率が向上しています。

 年休取得を促進し長時間労働を抑制したことが業績アップにつながった先進事例として、かね岩海苔の取り組みは良いモデルとなるでしょう。