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毎日新聞はワーク・ライフ・バランスを語る資格なし:偏向報道の極み

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はじめに

 高プロに関し、また偏向記事かと思ったら、やはり毎日新聞でした。情弱向け機関紙だから、偏向報道に拍車がかかるのでしょう。しかし、その記事を書いた人、はたしてどれだけ労働法を理解しているのでしょうか。

 裁量労働制の違法な運用事例を最大限に想定し、あたかも法律に不備があるかの如く脳内変換し、裁量労働制や高プロに反対の論陣を張っています。 

 その記事とは、これ👇です。

https://mainichi.jp/articles/20171108/ddm/016/070/002000c

あまりにも酷い毎日新聞の報道

基本的事項すら理解していない

 「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」(高収入の一部専門職を労働時間規制から外す制度)が解散により正式に廃案になったからだ。

(参照元:『毎日新聞』2017.11.08

 いきなりフェイクです。「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」は、解散によって廃案にはなっていません。

 当初、高プロの創設を含む働き方改革関連法案は、9月28日に召集することになっていた臨時国会において審議されることが予定されていました。ところが、北朝鮮情勢の急速な緊迫化などにより、安倍首相は臨時国会召集日の9月28日、伝家の宝刀を抜き、臨時国会冒頭において衆議院を解散しました。

 冒頭解散のため、同法案はそもそも国会に上程されていません。つまり、同法案は廃案になっておらず、審議が先送りになっているだけです。同法案の本格的な審議は、来年年初に召集予定の通常国会で行われていることが想定されています。こんな基本的な事項すら捻じ曲げて報道してしまう毎日新聞は、もはや報道機関としての体を為していないと言えるでしょう。

高プロと残業時間の上限規制について

 しかし、高プロと「労働時間の上限規制」は性格が相反するものだ。

(参照元:『毎日新聞』2017.11.08

 高プロを「残業代ゼロ(法案)」と称したり、「残業上限規制と二律背反だ」と主張する人たちは、法解釈を誤っています。

 「労働時間の上限規制」とは、36協定の特別延長時間に上限を設けることを意味します。

 そもそも時間外労働は、労働基準法32条によって禁止されています。時間外・休日労働協定(36協定)を労使間で締結し、行政官庁に届け出ることによって初めて時間外労働が法的に認められます。36協定で設定し得る延長時間は限度時間(月45時間)を超えないものとしなければならないことが原則ですが、特別条項というオプションを設定することにより、繁忙期に限り限度時間を超えることが許されます。このときの延長時間を特別延長時間と言い、現行(2019年3月31日まで)では上限の定めが設けられていません。

 働き方改革における「労働時間の上限規制」は、特別延長時間に上限規制を加えるというものです。単月ベースで「100時間未満」という上限規制を加えることになっています。

 一方、高プロは、時間外・休日労働協定の締結対象から除外するという制度で、対象となった労働者には時間外労働という概念がそもそも存在しません。現行でも、時間外・休日労働協定の締結対象から除外されている労働者が存在します。労働基準法41条に規定する管理監督者等です。したがって、管理監督者にも時間外労働という概念が存在しません。したがって、高プロと残業時間の上限規制が二律背反だと主張するロジックは、法41条規定の管理監督者と残業時間の上限規制とが二律背反だと主張するロジックと同等です。だからといって、まさか管理監督者を無くせという議論には繋がらないでしょう。

高プロ対象者に何でもかんでも仕事をのせてはいけない 

 日本企業の管理職の大半は「上から降ってきた仕事」に優先順位をつけて取捨選択したり、期日交渉したりということをほとんどせず、部下にどんどん振ってしまう。

 そうした職場で、一部の「高度人材」だけ労働時間の管理から外したら、これ幸いと難易度の高い仕事だけでなく、他の社員に割り振り切れなかった仕事をその高度人材にのせてしまう。

(参照元:『毎日新聞』2017.11.08

 前段について述べます。900社の管理職の行動特性を、脳内でデーターベース化し、あたかも断定口調で語ってしまうとは驚きですが、管理職も「十人十色」であり、個別事例の範疇を超えないでしょう。

 後段については、法解釈を完全に誤っています。裁量労働制や高プロの本質を知らないようです。

 裁量労働制や高プロを事業所に導入する際、使用者が留意すべき決定的事項があります。

 それは、

  • 業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと

です。裁量労働制については、労働基準法38条の3および同法38条の4において同事項が規定されています。したがって、管理職が裁量労働制の対象労働者に「これ幸いと難易度の高い仕事だけでなく、他の社員に割り振り切れなかった仕事をその高度人材にのせてしまう」時点で労働基準法38条違反です。高プロの場合も、改正労働基準法において同事項は規定されています。

 「裁量労働制や高プロの対象労働者が使用者から業務遂行手段や時間配分決定に関し余計な口出しを受けたら、直ちに監督署に駆けこんでください」と周知徹底するほうが報道機関としてよほどあるべき姿でしょう。

高プロを捻じ曲げて運用するブラック企業なら転職したらいい

 結果、高度人材ほど長時間労働に陥り「いいかげんにしろ」「他に行くところはいくらでもある」と他社や他国に流出してしまうのだ。

(参照元:『毎日新聞』2017.11.08

 下線部の論拠が曖昧ですが、そうなったらそうなったで、遵法意識も薄弱なブラック企業などさっさと見切りを付けるべきでしょう。その前に、監督署に事業所の法違反の申告をしておくべきです。

 因みに高度人材とは、単に「難易度の高い仕事」に就いている人たちだけを意味するのではありません。短時間に高付加価値を創出する人材も「高度人材」といいます。少なくとも、年功序列賃金の恩恵に与り、だらだら生活残業をおこなっている中高年ローパーを高度人材とは言わないでしょう。

残業時間の上限は単月100時間ではない

 今回、設定される残業時間の上限は単月100時間であり、これは生死を分けるギリギリのラインに過ぎず、抜け道をセットで作る必要はない。

(参照元:『毎日新聞』2017.11.08

 記述が誤っています。「今回、設定される残業時間の上限は単月100時間」ではありません。「時間外労働の上限については、単月100時間未満(休日労働含む)を限度に設定」が正解です。したがって、100時間そのものは上限に含まれません。新聞記者ならこれくらいは理解しておきましょう。

 また、「これは生死を分けるギリギリのラインに過ぎず」という記述は、月100時間を境に過労死発生リスクが不連続に変わるという印象を与えかねず、不適切です。実際には、過労死発生リスクは法定時間外労働が月45時間を超えて長くなれば長くなるほど徐々に強くなっていきます。

 実際に、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」は、

  • 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

と記述しています。つまり、時間外労働時間に対して、過労死発生リスクにはスペクトラム状の分布が存在し、100時間を境に突然不連続にリスクが変わるわけではありません。

 近年の疫学研究によれば、月80時間の時間外労働でも、脳・心臓疾患の発症リスクが有意に高まることがわかっています。

www.mesoscopical.com

 因みに筆者は、月100時間未満という上限規制は相当に緩く、月45時間以下にすべきと考えています。こうすることによって初めて、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が弱いと評価できます。

まとめ

 このように、今回取り上げた毎日新聞の記事は殆どにおいて間違った記述がなされています。悪質な印象操作であり、フェイクとも言えるでしょう。

 過労死を論じるならば、残業時間の上限が「月100時間未満」で果たして良いのかどうか、その時間数について論じるべきでしょう。また、労働生産性を論じるのならば、働いた時間に応じて賃金が支給される仕組みが労働生産性に与える悪影響ついて論じるべきでしょう。これらを切り分けて別々に論ずるのではなく、包括的に論じてこそ「働き方改革」を考える意義があるのです。それを理解できない新聞がワーク・ライフ・バランスを語る資格はありません。