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繁忙期の特例を年中適用するな:徳田工業を違法残業で書類送検 多治見労基署

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はじめに

今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第12回目です。

平成29年9月14日、多治見労働基準監督署は、航空機部品製造業の徳田工業㈱(岐阜県各務原市)と同社代表取締役社長を労働基準法違反の疑いで、岐阜地検御嶽支部に書類送検しました。

事件の概要

書類送検された企業:

徳田工業㈱(岐阜県各務原市)

≪平成29年9月14日送検≫

  • 同社は平成27年12月~28年12月、労働者11人に対して36協定で定めた1日5時間、月45時間の限度時間を超えて違法な残業をさせた。
  • さらに、年最大6回まで1月の限度時間を130時間とする特別条項を超えた違法残業も行わせていた。
  • 最も酷いケースでは立件対象期間のなかで毎月、130時間以上残業させられていた労働者もいた。1月当たりの最長残業時間は139時間に及ぶ。
  • 同労基署は是正指導を26年11月以降3回実施していたが、改善がみられなかった。

(労働基準法32条違反)

 参照元:労働新聞社 https://www.rodo.co.jp/column/25201/

改めて36協定の仕組みについて理解しよう

現在、政府は働き方改革関連法案の成立に向け、国会審議を予定しています。関連法案には、長時間労働規制に向けての労働基準法改正案も含まれています。

本事例は、労働基準法改正案とも密接に関連する例ですので、改めて詳細な説明を加えたいと思います。

36協定とは

労働基準法32条は、1日8時間・週40時間という法定労働時間を規定しています。

使用者が、何の手続きも踏まずに法定労働時間を超える時間を労働者に労働させることは許されず、この規定に違反した場合、労働基準法109条の規定により、使用者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられます。

しかし、使用者が、過半数労働組合あるいは過半数代表者と時間外・休日労働協定と呼ばれる労使協定を締結し、労働基準監督署に届ければ、労働者に法定労働時間を超える時間労働させることが許されます。

時間外・休日労働協定は、労働基準法36条に詳細な規定が見られることから、俗に36協定と言われています。

36協定において設定可能な延長時間の限度について

36協定には、1日1日を超え3か月以内の期間1年間の3種類の期間について、延長させることのできる時間を定める必要があります。

1日を超え3か月以内の期間には、通常1か月間が用いられます。

ところが、仮に労使間で合意したとしても、1か月や1年間に延長することができる時間を自由に設定することは許されません。

労働基準法36条第2項の規定により、労使はこの延長時間を、厚生労働大臣が定める基準に適合したものとなるようにしなければなりません。

この基準によると、延長時間は1か月の場合45時間、1年間の場合360時間を超えないものとしなければならないと決められています(但し1年単位の変形労働時間制の場合を除く)。これらの時間を限度時間と言います。

特別条項について

ただし、事業所によっては、1年間のうち、繁忙期と閑散期とにおいて業務量が大きく異なるところも存在するでしょう。

そのような場合にも柔軟に対応できるように、36協定には特別条項というオプションが準備されています。

特別条項とは、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情が生じたときに限り、限度時間を超える一定の時間(特別延長時間)まで労働時間を延長させることができる旨を定めたものです。

特別延長時間まで労働者を働かせることができるのは、1か月を単位として年6回までです。すなわち、半年を超えて特別延長時間を行使することは許されません。なぜならば、1年を通じ、半年を超えてこれを行使すれば、それはもはや繁忙期と言えなくなってしまうからです。

現行法制下では、特別延長時間に上限の定めがありません。極端な場合、月200時間という特別延長時間でも労働基準法違反には該当しません。

しかし、この実質青天井の特別延長時間こそが過労死の温床となっており、問題となっていました。

そこで、政府の働き方改革において、特別延長時間に月100時間未満・年720時間以下という上限を設定し、長時間労働規制に乗り出すことになりました。 

徳田工業で行われていたことを検証する

徳田工業では、36協定において、1日および1か月の延長時間をそれぞれ5時間および45時間と定めていました。

そして、繁忙期に対応するため、当該36協定に特別条項を付し、特別延長時間を月130時間に設定していました。

報道によると、最も酷いケースで、毎月130時間以上残業させられていたといいます。

これは、労働基準法36条の趣旨からすれば、2重の罪を犯していたことになります。

1つ目の罪は、労使であらかじめ設定した特別延長時間をも超える労働をさせていたことです。

そして2つ目の罪は、年6回までという特別条項の行使を形骸化させ、毎月行使していたことです。

さらに、度重なる労基署からの是正指導を無視していたことも考えれば、書類送検されて当然と言えるでしょう。

働き方改革関連法案の施行後にはどうなるか考えてみる

今回の事例を、働き方改革関連法案が施行された後だったらどうなるかについて考えてみます。

まず、特別延長時間の設定は、1か月単位でみた場合、月100時間未満としなければならないので、130時間という設定はそもそも許されません。

どんなに長く見積もっても、月99時間です。

また、年間を通じ720時間以下にしなければならないという規制も新たに付け加わります。

では、最大6回分(つまり半年分)特別条項を行使すると仮定しましょう。

このとき、半年分で最大6×99=594時間までの労働時間の延長が許されることになります。

しかしながら、1年を通じてみた場合、720時間以下としなければならないので、残りの半年は、126時間(月平均21時間)以下としなければなりません。

現行法制下で何ができるか考えてみよう

長時間労働規制については一刻も早く法案の成立が待たれますが、違法長時間労働の被害に遭わないためにも、現行法制下で何ができるか考えてみましょう。

上記で説明した、36協定の仕組みを考えれば、ある程度対処できます。

その1:事業所の36協定の内容を知る

まず、確かめてもらいたいのは、事業所の36協定の内容です。

時間外労働が存在する事業所で36協定がないということはあり得ません。

時間外労働が存在するのに、事業所において36協定が未締結であれば、それ自体が労働基準法違反です。

また、36協定が存在するのに、労働者がその内容を知ることができないということもあり得ません。

労働基準法106条において、使用者は36協定など労使協定を労働者に周知することを義務付けられているからです。

したがって、時間外労働をしているにもかかわらず、36協定の内容を知ることができなければ、事業所に最寄りの労働基準監督署に申告すべきでしょう。

その2:36協定に記載された延長時間と自分の残業時間とを照合する

まず、36協定に特別条項が記載されているかを確認しましょう。

そして、特別条項が記載されている場合は、特別延長時間が何時間なのか確認しましょう。

以下、特別条項が無い場合とある場合において、どのようなケースが労働基準法違反に該当するのかそれぞれ例示します。

特別条項が無い場合

例:延長時間 1日5時間;1か月45時間

⇒1日5時間を超える時間外労働が1回でもあれば労働基準法違反です

⇒1か月45時間を超える時間外労働が1回でもあれば労働基準法違反です

特別条項がある場合

例:延長時間 1日5時間 1か月45時間

  特別延長時間 1か月130時間

⇒1日5時間を超える時間外労働が1回でもあれば労働基準法違反です

⇒1か月130時間を超える時間外労働が1回でもあれば労働基準法違反です

⇒1か月45時間を超える時間外労働が7回以上あれば労働基準法違反です

下記は、実際の36協定がどのようなものか、記載例をもとに詳細を説明した記事です。ぜひ、参考ください。

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まとめ

例えば、納期がひっ迫しているあるいは機械が故障したなど忙しい時には、残業時間が長くなるのは当然のことです。

しかしながら、忙しいからと言って無尽蔵に人を働かせてはなりません。

そのようなときのために、36協定において特別条項と言うオプションが用意され、労使で然るべき手続きを踏むことによって年6回までこれを行使することができます。

特別条項は、繁忙期にのみ行使できるオプションであり、年中これを行使することはできません。年中これを行使するようでは、もはや繁忙期とは言わず、むしろそれが恒常的になってしまうからです。

皆さんも、長時間労働が恒常的で、月45時間を超える時間外労働が1年のうち7か月以上続いているようであれば十中八九おかしいと思って差し支えないでしょう。

ただし、建設業や自動車の運転や研究開発業務など、厚生労働大臣の限度時間の基準が適用されない業務も存在しますので、詳しくは最寄りの労働基準監督署に問い合わせてください。

ところで、今回書類送検された徳田工業は、航空機の部品を製造している会社です。

 

特別条項をも超える違法残業を行わせる会社が造った部品を用いている航空機に、筆者は絶対乗りたくないですね。