Mesoscopic Systems

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水素吸蔵合金の運搬は、岩のりがくっついた岩を運んでいるのと同じ

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はじめに

Bloombergの記事です。

日立製作所や丸紅などは8月、水素吸蔵合金カセットに水素を貯蔵して家庭にトラックで配達するという実証事業を開始した。

両社がみやぎ生活協同組合、宮城県富谷市と共同で取り組むこの実証事業では、水素吸蔵合金カセットを食料品などと共にトラックで輸送する。

このカセットを燃料電池に取り付けて発電し、発電時に発生する熱で温水もつくる。

参照元:Bloomberg(2017年9月7日) 

www.bloomberg.co.jp

Bloombergの記事には、2つ重要な点が記述されていません。

それは、水素1kgを運搬するのに必要な水素吸蔵合金の重量と、運搬に用いるトラックの燃料です。 

水素吸蔵合金とは?

水素吸蔵合金とは、金属水素化物を生成する合金のうち、とりわけ水素吸蔵量が多く、水素の吸蔵と放出が可逆的に進行するものの総称をいいます。

構成金属の種類により、

  • LaNi5を代表とする希土類系
  • TiFe、Ti2Mn3、ZrMn2等のTi-Zr系
  • Mg2Ni等のMg系
  • 固溶体を生成するV系

などに分類されます。

また、それらの金属成分を他の金属元素で部分置換あるいはドープした合金が数多く存在します。

水素吸蔵合金の水素貯蔵性について

表2は、ガソリン19Lと水素5kgの貯蔵性の比較です。

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実用的水素吸蔵合金の有効水素吸蔵量は1~1.7重量%であり、水素運搬の用途には重過ぎるといえます。

例えば、有効水素貯蔵量1%の水素吸蔵合金の場合、水素5kgの運搬に、500kgの合金が必要になります。これに、容器および水素そのものの重量を加えれば、全体で605kgになります。また、表によると、容器体積は推定値で125L(1辺が50cmの立方体)が必要となっています。

有効水素吸蔵量3%の水素吸蔵合金の場合でも、水素5kgの運搬に、167kgの合金が必要になります。これに、容器および水素そのものの重量を加えれば、全体で202kgになります。また、表によると、この場合の容器体積は推定値で、150Lが必要となっています。

すなわち、有効水素吸蔵量3%で見積もったとしても、約40倍の重さの合金(容器込み)が必要です。

これは、岩のりを運ぶ際、岩からのりを採取せずに岩ごと運んでいる行為とあまり変わらないのです。

生協のトラックが燃料電池車とは聞いたことが無い

記事では、「水素を、水素吸蔵合金カセットに貯蔵して家庭にトラックで配達する」としか書いてありません。

また、この実証事業には、みやぎ生活協同組合のトラックが用いられると記事に書いてあります。

筆者も、街中で生活協同組合のトラックを見かけることがありますが、ちゃんとマフラーが付いています。

すなわち、二酸化炭素を始め排気ガスを排出しています。

水素を運搬するのであれば、水素を燃料とする燃料電池トラックで運搬するのが筋ではないでしょうか?

生活協同組合のトラックは生活必需品を運搬するためにある

生活協同組合は、食料や生活雑貨を取り扱っています。

生活協同組合が合金を運ぶことは通常あり得ません。

電気を生み出すための水素を運ぶのなら、電気そのものを、送電線経由で送った方がよほど効率的ではないでしょうか。

(合金などという)余計な運搬物を増やせば、ただでさえ人員不足により疲弊しているドライバーに過大な負荷がかかります。

しかも、食料や生活雑貨と異なり、合金は重すぎます。それらをトラックに搬入・搬出する負荷もドライバーにのしかかります。

昨今、ドライバーの長時間労働が社会問題となっており、ドライバーの負担を少しでも軽くしようと、各方面からさまざまな提案がなされています。

合金を用いた水素の運搬は、これらの動きに逆行する非常に問題のある実証事業なのではないでしょうか?

まとめ

水素吸蔵合金に水素を吸蔵し、トラックで運搬して、水素を取り出しエネファームなどで発電することは原理的には可能です。

しかし、事業採算性についてはまさしく竿竹で星を打つがごとく何も期待できないでしょう。

この事業には、生活協同組合のほかに、宮城県富谷市も参画しています。このような事業に税金が無駄遣いされていると思うとほんと腹立たしいですね。

そもそも、一連の水素社会構想は、ある田舎企業が東京オリンピックにおいて華々しい国際デビューを果たそうとして始まった国家的プロジェクトです。

オリンピック選手村の水素タウン構想といい、水素吸蔵合金による水素運搬事業といい、これらが税金の無駄遣い以外の何物でもないことは明らかです。

www.mesoscopical.com

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しかし、利権の纏に厚く覆われた事業を止めることは、ブレーキ機能に欠陥のある暴走車を止めるのと同様、決して容易ではないのです。