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職場で仲間外れやいじめに遭った場合どのように対処したらよいか

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はじめに

 またしても、パワハラ報道です。長時間労働と同様、パワハラが日本社会から根絶されるのはいつの日になるのでしょうか。

 後輩や部下にパワーハラスメントをしたとして、岐阜市が市職員二人を懲戒処分していたにもかかわらず、公表していなかったことが分かりました。

市職員2人によるパワハラの態様

 岐阜市職員2人によるパワハラの態様は以下の通りです。

パワハラ職員 主任の例(2016年2月12日付懲戒)
  • 後輩に対し「ばかじゃないの」などと大声で侮辱。
  • 「職場の恥」と陰口を言う。
  • 人間関係の切り離し。
パワハラ職員 副主幹の例(2016年8月3日付懲戒)
  • 若手部下の一人にきつい叱責を繰り返した。
  • 他の職員の前で「あなたではこの仕事は無理」と大声で侮辱。
  • 質問に対し「知らない」と突き放した。

パワハラの類型

 厚生労働省はパワハラを次の6類型に分類しています。

  1. 暴行・傷害(身体的な攻撃)
  2. 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
  3. 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
  4. 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
  5. 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
  6. 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

岐阜市職員のパワハラの検証

パワハラ職員 主任の例

 後輩に対し「ばかじゃないの」などと大声で侮辱する行為は、2(精神的な攻撃)に該当します。また、「職場の恥」と陰口を言うのは、3(人間関係からの切り離し)に該当します。

パワハラ職員 副主幹の例

 若手部下の一人にきつい叱責を繰り返したり、他の職員の前で「あなたではこの仕事は無理」と大声で侮辱する行為は、2(精神的な攻撃)に該当します。また、質問に対し「知らない」と突き放す行為は、3(人間関係からの切り離し)に該当します。

隔離・仲間外し・無視もパワハラ行為

 本サイトでは、これまでにいくつものパワハラ事例を紹介してきましたが、「隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)」という類型を紹介するのは、今回が初めてです。

 パワハラというと、ヤマト運輸の事案ように上司が部下に対し暴力を振るったり酷い暴言を吐いたりする行為が典型的なものと思われがちです。

www.mesoscopical.com

 しかし、岐阜市役所の事例のように、職場の優位性を背景に、気に入らない者を村八分にしたり無視したりする行為もパワハラに該当します。場合によっては、訴訟沙汰に発展する可能性もあります。

人間関係からの切り離しの裁判例

 隔離・仲間外し・無視といった人間関係からの切り離しを発端として、訴訟にまで発展した例を2つ紹介します。 

自動車タイヤ等販売会社女性従業員配転事件(福岡地判平16.11.4)

事件の概要
  • 女性事務員(原告)が、電話の応対を巡って社長と口論になり解雇を告げられた。
  • 原告はこれに抗議し、地位保全の仮処分を申し立てたところ、解雇が撤回された。
  • 職場復帰後、女性は肉体労働に配転されられた上、机と椅子をタイヤ梱包場に移され、事務所への立ち入りを禁じられた。
判決
  • 原告が男性従業員に電話の交替を依頼することがあったとしても、それが配転の合理的な理由にはならない。
  • タイヤの梱包や積み卸し作業は、それまで女性が就いたことがなく、原告にこれを従事する人員として選択することには合理性がない。
  • 机や椅子を梱包場に置いたり、事務所への出入りを禁止したりすることは、原告に孤立感を生ぜしめ自主的に退職することを意図して行った。
  • 福岡地裁は、配転無効とした上、会社に対し、慰謝料55万円の支払いを命じた。

大学助教授研究活動停止命令等事件(鳥取地判平16.10.12)

事件の概要
  • 大学教官である原告が、女子学生にわいせつ行為等をしたため6か月の停職処分を受けた。
  • 原告は、処分期間満了後も、①講義及び研究活動の停止②部屋の隔離③化学棟への立入禁止④セクハラ研究会への出席⑤セクハラに関する論文の提出等の業務命令を受けた。
  • その結果、精神障害を発症した。
判決
  • 大学が学生に対する講義・研究指導を免じたことは適法。
  • 研究予算も留保され、特段やることもないままに一人部屋に1年10か月も留め置かれたことは、原告の不当な行為を前提としたものであったとしても受忍の限度を超えるものであり違法。
  • 鳥取地裁は、大学に対し、慰謝料等計110万円の支払いを命じた。

これらの裁判例から言えること

 これら2つの裁判例に共通するのは、指示や命令に従わないあるいは不当な行為を行った従業員であっても、社会通念上許容される注意・叱責・指導の範囲を逸脱し苦痛を与えたり貶めたりした行為は違法であると裁判所が認定したことです。

 したがって、岐阜市の事案のように、部下や後輩の仕事ぶりに不満を抱いたことを理由に、上司や先輩が、職場における優位性を背景に、情報提供を行わなかったり、陰口を叩いたり、無視をしたりする行為も、到底是認されず、違法です。

人間関係からの切り離しというパワハラに遭った場合、どうしたらよいか

 暴行や傷害、脅迫といった刑事上の構成要件該当性のある行為を受けた場合は別ですが、そうでない場合、パワハラは民事上のトラブルに該当します。

 とはいっても、職場で無視されたり陰口を叩かれたことを理由に、いきなり民事訴訟提起するのはハードルが高すぎます。そのときは、被害者が受けたパワハラの態様や被害者の事情などを考慮して次のようなステップを踏むことができます。

STEP1 総合労働相談コーナーに電話をする

 厚生労働省は、各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などの380か所に総合労働相談コーナーと呼ばれるホットラインを設置しています。同コーナーでは、職場のいじめ・嫌がらせ、パワハラについて、専門の相談員が相談を受け付けています。その他に、解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、セクハラ、募集・採用などあらゆる労働問題の相談も受け付けています。厚生労働省が行う事業なので、利用料は無料です。

 下記は、総合労働相談コーナーの所在地と電話番号の一覧です。

www.mhlw.go.jp

 職場でいじめられていて困っている人や悩んでいる人は、一度電話してみられたらいかがでしょうか。勤務地の所在地に最も近い相談コーナーに連絡をすると話がスムースに進みます。

 総合労働相談コーナーでは、まず、相談内容に合致する法律的な情報提供を行います。労働基準法など労働基準関係法令に違反すると思われる事案は、関連部署(労働基準監督署)に取り次ぎを行うこともあります。

 しかし、いじめや嫌がらせの場合、法律的な情報提供だけでは解決に至りません。そこで、次のようなステップが用意されています。

STEP2 都道府県労働局長による助言・指導を申し出る

 総合労働相談を経て、相談者が望めば、都道府県労働局長による助言・指導を申し出ることができます。

 都道府県労働局長が紛争当事者に対し、紛争の問題点を指摘し、解決の方向を示すことにより、紛争当事者による自主的な解決を促進します。厚生労働省が行う事業なので、利用料は無料です。

 例えば、人間関係からの切り離しにあっていじめられている場合は、都道府県労働局長が、相手方にどう対処すべきか助言したり、仲間外しを止めるように適切な指導を実施します。

 都道府県労働局長の助言・指導により、職場いじめを解決した事例を下記に紹介します。

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 では、都道府県労働局長が助言・指導しているにもかかわらず、相手方から無しのつぶてにされたらどうしたらよいでしょうか。

STEP3 紛争調整委員会によるあっせんの申請をおこなう

 そのときは、第3者を交えて直接話し合うより他ありません。それが、紛争調整委員会によるあっせんと呼ばれる制度です。厚生労働省が行う事業なので、利用料は無料です。

 第3者とは、紛争調整委員と呼ばれる、弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家です。相談者からあっせんの申請があった場合、当該個別労働紛争に関し、都道府県労働局長は、紛争調整委員会に対しあっせんの委任をおこないます。紛争調整委員会は、あっせんの開始を双方の紛争当事者に通知します。

 しかし、現行では、紛争当事者に対しあっせんの参加義務は課されていません。したがって、相手方が、あっせん不参加の意思表明をした場合は、その時点で、あっせんは打切りになります。

 相手方が、あっせん参加の意思表明した場合は、期日を決定し、あっせんを実施します。 あっせん委員が、双方の主張を確認し、必要に応じて、参考人に事情聴取をおこなったりします。そして、当事者間の話し合いを促進し、場合によっては、両者に対してあっせん案(具体的な解決策)を提示します。あっせん案の受諾に至れば紛争の解決に至ります。

 あっせんによって、職場のいじめ・嫌がらせを金銭解決した事例を下記に紹介します。

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 一方、両者が合意に至らなかった場合は、あっせんは打切りになります。では、あっせんが打切りになった場合はどうしたらよいでしょうか。

STEP4 他の紛争解決手段に移行する

 あっせんが打切りになった場合は、他の紛争解決手段に移行するよりほかありません。代表的なものに民事訴訟がありますが、強制力はあるものの長期化する恐れがあるのである程度覚悟が必要です。

 先ほどの裁判例にあるように、女性に肉体労働させたり、1年以上仕事が与えられずただ一人隔離部屋に閉じ込められたりする強度のパワハラの場合、上記のようなステップを踏まずに直接裁判に移行することも考えられます。

 しかし、今回の岐阜市役所の事例のように、「職場の恥」と陰口を叩かれたり、質問に対し「知らない」と突き放されたりと、いきなり相手方を訴えるにはちょっと微妙という場合は、今回紹介した紛争解決手段が有効な手立てとなります。 

まとめ

 以上のように、パワハラには、様々な類型があり、その強度も千差万別です。日々上司や先輩などからパワハラ行為に苦しんでいるものの、いきなり相手方を訴えるのはちょっと憚られるという方は、ぜひ上記の紛争解決制度を利用して解決を模索してみてはいかがでしょうか。