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「残業197時間の運輸会社「社名公表」への疑問」への疑問

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はじめに

今年の1月に、都道府県労働局長から違法長時間労働などで是正指導(局長指導)を受けた大企業に対しても企業名を公表するという基準緩和措置がなされました。

そして今月4日、局長指導による企業名公表が初めてなされました。

愛知労働局は4日、違法な長時間労働を従業員に行わせていたとして、名古屋市中区の運送業「大宝運輸」(従業員1030人)を是正指導したと発表した。

発表によると、同社の県内外4事業所で2016年以降、過労死ラインの月80時間超の時間外労働を行った従業員が計84人に上った。このうち、100時間超は74人で、最長の従業員は197時間だった。

労使協定(36協定)を超す違法な時間外労働が行われていたとして、名古屋北労働基準監督署が2月、同社を是正指導したが改善されなかったという。(参照元:読売新聞)

www.yomiuri.co.jp

36協定違反の違法残業を監督署が指摘しても改善せず、複数事業所において月80時間超の時間外・休日労働が認められれば、企業名を公表されても仕方ないでしょう。

局長指導とは

5月10日に厚生労働省本省が、全国の労働局で別々に公表していた労働基準関係法令違反に係る事案を1つのリスト(以下ブラック企業リストという)にまとめ、ホームページに掲載しました。

www.mesoscopical.com

通常、企業名が公表されるのは、労働基準関係法令違反による書類送検がなされた場合です。

ところが、労働基準関係法令違反を繰り返す企業が、局長指導を受けた場合、書類送検を待たずして、企業名が公表されます。

局長指導とは、中小企業に該当しない企業において違法な長時間労働が確認された際に、是正勧告の段階で都道府県労働局長が企業の経営トップに対して行う行政指導を言います。

なお、詳細は次の記事を参照してください。

www.mesoscopical.com

局長指導を行うための要件

企業のトップに対し局長指導を行うためには、次の要件が必要です。

中小企業に該当しない企業が、概ね1年程度の期間に2箇所以上の事業場で、次のCASE1またはCASE2を満たしたとき

CASE1:

1事業場で10人以上又は当該事業場の4分の1以上の労働者について、

①1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働かつ、

②労働時間関係の法令違反による是正勧告

CASE2:

過労死の労災支給決定がなされた被災労働者について、

①1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働かつ、

②労働時間関係の法令違反による是正勧告

愛知労働局は、この基準に基づき、大宝運輸に対し局長指導をおこないました。これにともない、愛知労働局は、企業名を公表しました。

社労士が「社労士の書いた記事」を批判してみる

労働局は、新基準に則り、粛々と企業名を公表しただけです。

ところが、東洋経済に記事を寄稿し当該措置に異議を唱えている社労士がいます。

toyokeizai.net

筆者も社労士ですが、東洋経済に寄稿した社労士が書いた記事に疑問点がたくさんあります。下記に、疑問点の内容(引用部分)および筆者の見解を記します。

疑問点1

だが、冷静に会社の言い分にも耳を傾けると、会社を100%非難することもできないのではないか、ということにも気がつかされる。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

大宝運輸は、今年2月に36協定違反で労基署から是正勧告されたにもかかわらず改善されなかったと読売新聞の報道にあります。

だったら100%非難されて然るべきでしょう。場合によっては、送検手続が取られてもおかしくない事案です。

疑問点2

会社が仕事量を減らそうとしている様子はうかがえるものの、ドライバー職の社員も減少しており、ドライバー1人当たりの仕事量はほとんど変化していない。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

こういうのを縮小均衡と言います。単に、市場からも労働者からも受け入れられていないというだけです。このような低生産性企業は、市場から淘汰されて然るべきでしょう。

www.mesoscopical.com

疑問点3

1人当たり平均は2000万円程度で、上場企業役員としてべらぼうに高いワケでもない。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

比べる対象を間違えていませんか?低生産性企業であればもっと少なくても良いと思います。大宝運輸の平均年収が483万円ということは、平均年収の4倍はもらっています。役員報酬を500万円にすれば、3人雇えます。上場企業役員としてどうなのかは知りませんが、低生産性企業にしては2000万円はべらぼうに高いと思います。

疑問点4

経営環境の厳しさから、労働基準法を守り切れなかった、という側面があったのかもしれない。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

そういう側面は法治国家には存在しません。社労士なら、労基法が強行法規であり、直律的効力が存在することくらい知っていますよね。

疑問点5

今回社名が公表されたことで、いっそう新規採用が難しくなったり、新たな退職者が出たりして、既存社員1人当たりの負荷がさらに高まり、労働環境が逆に悪化してしまうおそれがありうるからだ。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

いやいやちょっと待ってください。求職者や労働者が逃げるのと同様に、お客さんも逃げますよ。

先ほども言ったように、縮小均衡の過程にあるだけです。

疑問点6

「労働基準法を守れない会社は潰れてしまえばいい」という意見があるかもしれないが、会社が潰れると大量の失業者が生じてしまう。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

それがどうかしたんですか?まさか、労働基準法第1条をお忘れですか?

低成長産業から、成長産業へとスムースに労働移動すればよいだけです。

因みに、今年のOECD Economic Surveysには次のような記述が見られます。

  • 企業間の格差の拡大は、パフォーマンスの悪い企業が市場にいつまでも居残り、非生産的な活動に資源を閉じ込めてしまうことにより、一部説明できる。
  • 2013年には、少なくとも3年間、金利支払いを行うのに十分な利益を上げられていないということで定義される、生き残れない企業(non-viable firm)が日本には数多く存在した。
  • そうした会社の生き残りにより、生産性は低下し、市場を混雑したものにしている。(OECD Economic Surveys: Japan© OECD 2017)

 OECDによるこの指摘は正しいと筆者は思います。少しは海外からの意見にも耳を傾けましょう。

疑問点7

大宝運輸をブラック企業と批判するに終始するのではなく、これを機に、運輸業の経営や労働環境を厳しくしている構造問題が何なのかということを明らかにし、どうすればそれを改善していけるのかということに着眼し、建設的な議論や政策につなげていくことが望ましい。(参照元:東洋経済オンライン2017年9月9日)

だったら、何か建設的な意見を言うべきでしょう。そちらこそ、労働局による企業名公表措置の批判に終始しているだけに思えますがいかがでしょう。

筆者だったら、大宝運輸をあくまでもブラック企業と認定しますね。

東洋経済の記事では運送業界の構造的問題について何ら言及が無いようなので、筆者がこの点について考えてみます。

運送業における構造的問題とは何か

以前なら大型店舗への大規模輸送として集中管理出来ていたものが、インターネット通販など配送ルートの多様化によって、宅配ベースの輸送が激増し煩雑化したのが、今日の運送業における構造的な問題です。

しかしながら、今日の運送業における人材不足を解消する決定的な方法があります。

それは、コネクテッドカーを主体とする輸送のIT化です。

ITの普及によって輸送が煩雑化したのなら、それをITによって解消するということです。

トラックをコネクテッドカーの範疇に組み込み、クラウド接続し輸送を最適化すれば、煩雑に入り組んだ輸送の効率化が為されていくでしょう。

さらに、EVトラックを主体とした完全自律走行が実現すれば、ドライバー不足の問題は一気に解消の方向に向かうでしょう。

ところで、米テスラは、自動運転機能付のEVトラックをすでに開発しており、テスラのイーロン・マスクCEOは、航続距離200マイル~300マイルの電動セミトラックを今月にも公開することを明らかにしています。

また、自動運転機能を備えたEVトラックの試験走行の実施に向けて米ネバダ州当局とやりとりしていることが明らかになっています。

つまり、トラックの自動運転はすぐ目前のところまで来ているのです。

www.mesoscopical.com

また、小物の運搬であれば、ドローンで代替することもできるでしょう。

因みに、ニュージーランドでは、ドローンによるピザの配達サービスがすでに始まっています。


[NEWS] ドミノピザがドローンでピザ宅配を開始 ニュージーランドで

まとめ

ITの発達により、配送ルートが多様化したため、運送業界における運搬も煩雑化しました。

しかし、今後、トラックがIT化することで、ドライバー不足の問題は解消に向かっていくでしょう。今は、配送ルートの多様化だけが早く進展したため大混乱に陥っているだけです。

しばらくのあいだ、過渡期が続くと思われますが、今後、機械化の波が押し寄せ、将来的にはEVトラックによる自律走行が物流の主役となっていきます。

したがって、物流業界もこのようなものに設備投資が可能な経営体力のある企業が生き残っていくでしょう。

 

つまり、労働基準法違反を繰り返すような低生産性企業については、行政当局がどんどん企業名を公表し、市場から退出してもらうべきなのです。