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高度プロフェッショナル制度の対象に医師は含まれるか?

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はじめに

昨日お昼の報道です。

加藤厚生労働大臣は、働いた時間ではなく成果で評価するとして労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」について、連合が求めている年間104日以上の休日確保の使用者への義務づけなどを法案の要綱に盛り込み、理解を求めていく考えを示しました。

参照元:NHKニュースWEB 9月5日 12時55分

本題に入る前に、高度プロフェッショナル制度と残業時間の上限規制についておさらいします。

高度プロフェッショナル制度と残業時間の上限規制

高度プロフェッショナル制度は、時間外・休日労働協定の締結対象から外し、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外して、成果に応じて賃金が支払われるようにするものです。すなわち、実質的には賃金制度の改定であって、長時間労働とは関係ありません

長時間労働の原因は、むしろ日本型雇用慣行にあります。

日本型雇用慣行では、終身雇用が前提となっているため、内部労働市場による雇用調整が図られます。それを実効性あるものとするため、使用者には強大な人事権行使が認められています。その中に、残業時間の長短による雇用調整があり、これを正当化してきたのが、労働基準法36条の規定に基づく特別条項付き36協定です。

これまでは、当該協定における時間外労働の延長時間(特別延長時間)に限度時間の定めがなく、実質青天井の時間外勤務命令の発令が可能でした。そのため、繁忙期には過労死を誘発しかねない長時間労働が相次ぎました。

つまり、日本社会における長時間労働や過労死は、終身雇用を前提とする日本型雇用慣行に原因があったのです。

今回の、労働基準法改正案では、この法律の不備に手直しを図ろうとしています。それが、月100時間未満という特別延長時間の上限規制です。月100時間未満という条件は、連合が提案しましたが、筆者はこれでも上限規制としては不十分と考えます。

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月100時間未満という過労死ラインすれすれの条件提示をしておきながら、「高プロは長時間労働を誘発する」という主張を繰り広げる連合は、明らかに論理矛盾をきたしているのです。

高プロ導入に関して彼らが警戒しているのは、長時間労働というよりむしろ、低生産性労働者が残業代だけを掠め取るダラダラ残業パラダイスが崩壊することなのです。 

年間104日の休日の意味 

労働基準法に休日を規定した条文があります。

労働基準法35条

使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

2  前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

すなわち、使用者は労働者に対し、週1日または4週間に4日以上の休日を与えなければならないと規定しています。1年を52週とすれば、この規定は、年間52日以上の休日確保を使用者に義務付けたものになります。これが労働基準法の本則規定です。

したがって、高プロ対象者に年間104日以上の休日確保を使用者に義務付けるというのは、労働基準法の本則規定の倍にも相当する、手厚いものなのです。

つまり高プロは、休日規定に関して規制緩和というよりむしろ規制強化に相当します。

高度プロフェッショナル制度の対象労働者について

高度プロフェッショナル制度の導入目的は、労働時間と成果とが一致しない労働者を労働時間管理の対象から外し、成果に応じた賃金体系に改めようとするものです。したがって、全ての労働者が対象になるわけではありません。

では、どのような労働者が対象となるか、職種ベースで考えていきましょう。

工場労働者はどうか?

例えば、工場労働者はどうでしょうか?

工場労働者は、時間給ベースで賃金が決定されるべき職種の典型例です。

彼らは、時間当たり○○個の製品を完成させたというように、労働時間に応じて付加価値を創出することができます。必然的に、労働生産性と時間給とが連動します。

したがって、工場労働者を高プロの対象にすることはできません。

企業研究者はどうか?

では、企業に勤める研究者はどうでしょうか?

企業研究者は画期的なアイディアを発案することで、特許を取得したり世の中にない製品を生み出すことを目的としています。

ところが、研究というのは、トライアンドエラーの繰り返しです。失敗することの方が多く、ごくごくまれに成功に結び付くことがあります。そして、その成功事例が積み重なって結果として会社に莫大な利益がもたらされます。

このような職種に就いている労働者に対し、労働時間に応じて報酬が支払われるべき道理は存在しません。

高度プロフェッショナル制度の対象に医師は含まれるか?

労政審の「今後の労働時間法制等の在り方について(報告書骨子案)」に、高度プロフェッショナル制度の対象職種に選定される要件が次の通り記述されています。

「高度の専門的知識等を要する」や「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」といった対象業務とするに適切な性質をみたすものとし、具体的には省令で規定することが適当。

医師は、患者の傷病に関し、診察・診断を行ったり、外科的治療を施したりする職種です。

したがって、「高度の専門的知識等を要する」という要件は満たしています。

では、後者の、「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」という要件についてはどうでしょうか?

医師は、1時間に何人の患者を診断したとか、1日に何人の患者に対し外科的治療を施したというように労働時間と成果とが連動しています。

したがって、後者の要件を満たさず、医師が高度プロフェッショナル制度の対象職種に選定されることはあり得ません

尚、医師であっても、臨床現場に属さず、医学研究に従事している場合は、高度プロフェッショナル制度の対象職種に該当します。

まとめ

「高度プロフェッショナル制度」のことを正式には「特定高度専門業務・成果型労働制」といいます。正式名称においては、「特定」という文言があり、ある特定の職種にのみ適用されること、そして、「成果型」という文言があり、成果に応じて報酬が支払われるべき職種にのみ適用されることがわかるので、正確な表現です。

しかし、「高度プロフェッショナル制度」という名称をいったい誰が名付けたのでしょうか?

臨床現場における医師は、高度な専門知識が必要であるという点において「高度プロフェッショナル」と言えますが、労働時間に応じて報酬が支払われるべき職種です。

一方、伝統工芸における人間国宝は、高度の専門知識の持ち主というよりむしろ、超人的技巧の持ち主という点において、「高度プロフェッショナル」と言えます。

また、クレーンなど大型特殊機械の運転手、とび職、料理人などどんな職種においても高度プロフェッショナルというべき人たちが存在します。だからといって、これらの人々を成果給にすべきかというとそうではありません。

この「高度プロフェッショナル制度」という名称こそが多くの誤解を招いていると筆者は思います。

マスコミ報道も含め、「特定高度専門業務・成果型労働制」という正式名称こそが広く用いられるべきではないでしょうか?