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東京オリンピックの水素タウン構想は近隣住民に迷惑をかけている

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はじめに

 2020年東京五輪・パラリンピックの水素タウン構想を巡って、安全性への懸念が大きいとして、近隣住民から反対の声が上がっています。

 水素ステーションの建設が予定されている近隣のマンション自治会は、都に説明を求めたが、「詳細が未定」と取り合ってもらえなかったという。6月にあった住民説明会では、既存のFCV向けステーションでの一般的な安全対策などの説明にとどまった。自治会は安全性への懸念が大きいとして、8月下旬に建設反対の署名活動を実施。1週間で119世帯から署名が集まった。 

(参照元:『jiji.com』)

近隣住民に迷惑かけてまで無駄なものを造るのをやめよう

 住民らは「あまりにも説明が足りない」と懸念しているとのことです。

 自治会長の中山勝利さん(48)は「都に何度も説明を求めたが明確な回答はなく、不信感ばかりが募っている」と憤る。(参照元:『jiji.com』)

 説明が足りないというより、説明できないのだと思います。しかし、都も、水素ステーションでメチルシクロヘキサンを水素脱離しトルエンにして再び水素生成工場まで運ぶことをちゃんと住民に伝えるべきです。そのときは、内閣府が作った次の図を用いるべきでしょう。

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 また、トルエンとはシンナーのことであり、これを吸入すると、中枢神経麻痺作用があるということも都は説明すべきです。

パイプラインだけを強調して話を逸らすのをやめよう

 時事通信の記事は、パイプラインの建設ばかりを強調しています。これは、水素ステーションから各燃料電池に燃料を供給する水素パイプラインのことです。この建設工事に多額の税金が無駄に使われるほか、近隣住民にも騒音公害など迷惑が掛かります。それ以上に筆者が懸念しているのは、水素製造工場から水素ステーションまで水素を運搬するために用いられるエネルギーキャリアです。

エネルギーキャリアとは

 福島新エネ社会構想 骨子(案)(5ページ)に、次のような記述があります。

8.東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催時における東京での活用 【経済産業省、環境省、東京都、福島県、民間事業者】

・経済産業省、環境省、東京都、福島県及び民間事業者は、福島県において再生可能エネルギー由来水素を製造し、東京へ輸送する実証を行う(7とも関連)とともに、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会期間中、水素ステーション等において活用することを検討する。

・上記関係省庁等は、2020年以降の活用について、多角的な検討を進める。

 つまり、福島で水素を製造し、それを東京オリ・パラ期間中に東京まで運ぶという計画です。でも、まさか福島から東京まで水素パイプラインを建設するわけにはいきません。実際、そのような計画は水素タウンには出ていません。とは言え、福島で製造した水素をオリンピックで活用するためには、何らかの方法で、東京まで運ばなくてはなりません。

 そこで、政府が考え出したのが、有機ハイドライドを用いた水素の輸送方法です。有機ハイドライドとは、適当な触媒下で水素を脱離する有機化合物で、政府の水素エネルギーキャリア構想では、メチルシクロヘキサンが検討されています。メチルシクロヘキサンから水素を脱離すると、トルエンになります。

 水素ステーションが近所に建設されるということは、福島から大量のメチルシクロヘキサンが運ばれ、水素を脱離した後、大量のトルエンが水素ステーションに残ることを意味しています。残ったトルエンは、再び水素製造工場でまで運ばれ、メチルシクロヘキサンにして再び東京まで運ばれますが、東京都は、少なくとも水素ステーション建設予定地の近隣住民に対し、こういう事実をはっきりと伝えるべきです。

水素はクリーンなエネルギーとは限らない

 みなさんは、こういうことを言う恥さらしな企業があるのをご存知ですか?

 宇宙で一番豊富と言われる、クリーンエネルギー、水素

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 確かに水素は宇宙で一番豊富にある元素ですが、宇宙にいくら豊富にあっても、地球上で利用できなければ全く意味がありません。太陽にも水素が豊富に存在しますが、太陽は、重水素および3重水素の核融合反応によってエネルギーを生み出しています。水素の核融合反応を地球上で無理やり応用したのが水素爆弾という核兵器です。水素がクリーンなエネルギーなどというのは絵空事なのです。

一企業の思惑に国民を巻き込むのをやめよう

 今回の水素タウン構想も、ある一企業の思惑と経産省の思惑とが巧みに結びついて、東京オリ・パラにおいて水素社会の世界デビューを企んだだけです。

 しかも、震災復興事業と称して、福島で水素を製造することになっているから余計にややこしいことになっています。福島での水素製造は、太陽光や風力など再生可能エネルギー由来の発電によって、水を電気分解することとされています。政府の水素タウン構想によると、福島で製造した水素をトルエンに付加し、メチルシクロヘキサンにしてから東京に運ばれることになります。ということは、福島の水素製造工場でも大量のトルエンが扱われることになります。つまり、水素タウン構想は、東京の住民にも福島の住民にも迷惑をかけることになるのです。

 また、これだけドライバー不足が懸念されているのに、大量のトルエンやメチルシクロヘキサンを誰が運搬するのでしょうか。こんな無駄なプロジェクトのために、他の輸送物の輸送力がひっ迫するようだったら、やめてもらいたいですね。

 せっかく自然エネルギー由来で電力を生み出したのなら、水素製造などに余計な電力を使わずに、直接送電線で電気を送り込み、オリンピックで利用すべきでしょう。そして、オリンピック終了後は、自然エネルギーによる電力を、地産地消で直接福島の住民が使用すべきです。

まとめ

 そもそも水素社会など誰が望んだのでしょうか。米電気自動車大手テスラと電気自動車の開発がうまくいかなかったからと言って、電気自動車を毛嫌いし、水素を燃料とする燃料電池車へと大きく舵を切ったのはどこの企業でしょうか。

 テスラCEOのイーロンマスクも「水素社会など来ない」と断言しています。筆者も同感です。水素が前途有望なエネルギーとは思いません。ただ、取り扱いが困難なだけです。水素社会をオリンピックと結びつけるのは世界の恥です。

 東京の近隣住民に迷惑をかけてまで一企業の思惑を貫く道理はどこにありません。どうしても水素タウンを実現したいのだったら、国策ではなく愛知県の民間企業が地元でやったらどうでしょうか。