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24時間テレビのマラソンランナーは労働者に該当するか?

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はじめに

 テレビで実際の映像を観たわけではないので、インターネットでこの事実を知りました。24時間テレビのチャリティーマラソン、まだやっていたんですね。今年のチャリティーマラソンは、ブルゾンちえみがランナーだったようです。皆さんご承知の通り、近年、日本の働き方や長時間労働の問題大きく取り上げられています。まさかこのような折に、チャリティーマラソンが決行されるとは思っていませんでした。肉体をフル稼働し「ただひたすら走る」行為に1日24時間の全てを費やすのは、究極の長時間労働に他ならないからです。ただし、ランナーに労働者性が認められればの話です。

企業が従業員にこれを強制したらどうなるか

 後述するように、ブルゾンちえみは芸能人のため、そもそも労働者性があるかどうかという難題が残されます。しかし、企業に勤める一般従業員(すなわち労働時間管理の対象労働者)に、同じことをさせたらどうなるでしょうか。

 労働基準法32条によると、1日の法定労働時間は8時間です。これを超える労働は、36協定を労使間で締結することにより、ある程度延長させることができます。36協定には、1日に延長することのできる時間を定める必要がありますが、1日の延長時間を16時間、すなわち24時間ぶっ通しで働かせるということを使用者はできません。したがって、従業員に24時間マラソンを使用者がさせたら、労働基準法違反により労基署から是正勧告を受けるのです。

24時間走っているのを観ていても全く感動しない

 そもそも人が24時間走っている姿を観せしめ、人々に感動を呼び起こさせるというのは、精神主義の発揚に他なりません。また、芸能人自身も己の限界に身を投じるのであれば、テレビのライヴ中継ではなく、禅寺や山岳修行などでプライベートで密かにこれを行うべきでしょう。

 ただ人が走っている姿を、何台もの中継車で中継し、化石燃料を燃やし、二酸化炭素を大気圏中に放出させて、どうして「地球を救う」と言えるのでしょうか。どうしても中継したいのなら、せめて、自然エネルギー由来の電気を充電したEVに乗って中継したほうが、よほどエネルギー消費量も少なく、「地球を救う」のではないでしょうか。

 因みに、中継車にプリウスPHVを用いることはできません。今回、24時間チャリティーマラソンでブルゾンちえみが走った距離は、約90kmとされています。プリウスPHVはEVモードの航続距離が68kmしかなく、電欠を起こしてしまうからです。

 また、日本テレビが、本当の意味で「愛は地球を救う」を標榜するのならば、少なくとも、ガソリン車やハイブリッド車のテレビCMを止めるべきです。重厚長大で、中央集権的なテレビ局の有り方そのものが、「地球を救っていない」のです。 

24時間テレビの芸能人ランナーは労働者か?

 俳優・歌手・お笑い芸人といった、演技・歌唱・笑いを誘発する奇行や言動を華麗に自己表現し、巨額の報酬を得る芸能人が果たして労働者に該当するのか否かという問題は、非常に難しい問題です。

 この問題に関しては、平成8年3月、労働大臣の私的諮問機関「労働基準法研究会」の「労働契約法制部会労働者性検討専門部会」が報告書をまとめています。

 下記の判断基準は、芸能人等が、映画やテレビ番組の製作会社との関係において労働者に該当するか否かの基準を示したものです。したがって、芸能人がいわゆるプロダクション等に所属し労働契約関係があると認められるケースは除外されています。

判断基準(抄)

1 使用従属性に関する判断基準

⑴ 指揮監督下の労働

イ 仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無

例えば、特定の日時、場所を指定したロケ撮影参加の依頼のような 、「使用者」の具体的な 仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して諾否の自由を有していることは、指揮監督関係の存在を否定する重要な要素となる。

他方、このような諾否の自由がないことは、一応、指揮監督関係を肯定する一要素となる。

業務遂行上の指揮監督の有無

業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無

俳優やスタッフが実際に演技・作業を行うに当たり、演技・作業の細部に至るまで指示がある場合には、指揮監督関係の存在を肯定する重要な要素となる。

拘束性の有無

例えば、一日の撮影の中で、監督等が行う具体的な撮影時間、休憩、移動時間等の決定や指示に従わなければならないこと、監督の指示によって一旦決まっていた撮影の時間帯が変動した場合に、これに応じなければならないことは、指揮監督関係を肯定する要素の一つとなる。 

2 労働者性の判断を補強する要素

⑴ 事業者性の有無

イ 機械、器具、衣裳等の負担関係

例えば、俳優が自ら所有する衣裳を用いて演技を行う場合、それが安価な場合には問題とならないが、著しく高価な場合には事業者としての性格が強く、労働者性を弱める要素となる。

報酬の額

例えば、ノーランクといわれるような著しく報酬の高い俳優の場合には、事業者としての性格が強く、労働者性を弱める要素となる。

専属性の程度

専属性の程度が高い場合は、労働者性を補強する一要素となる。

⑶ その他

報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていることは、労働者性を補強する要素の一つとなる。 

ブルゾンちえみの労働者性について

 ここでは、上記の判断指針に沿って、ブルゾンちえみが、24時間テレビ番組制作者、すなわち日本テレビとの関係において、労働者性が認められるかどうかについて考えます。

 今年の24時間テレビでは、チャリティーマラソンのランナーが、放送当日に発表されました。ランナー当日発表システムは、立場の弱い者にしわ寄せがいく可能性があり、業務遂行上、諾否の自由を有しているとは言えません。

 一方、24時間ひたすら走り続けるという行為は、芸術的・創造的業務に従事しているとは言い難く、業務遂行上の指揮監督を肯定する要素になりません。

 休憩などについては、ランナーの自由裁量によるところが大きいと考えられるので、拘束性を肯定する要素になりません。

 衣装等の負担関係については、チャリティーマラソンでは、高価な衣装を着てランニングするとは考えにくく、しかも、自ら所有する衣装をまとっているとも思えません。したがって、労働者性を補強する要素になります。

 報酬の額その他についてはうかがい知ることができないので、この点については判断できません。

 専属性の程度については、1日24時間の全てをチャリティーマラソンに投入しているので、最も高い専属性を有し、労働者性を補強する要素になります。

 以上をまとめると、チャリティーマラソンでのブルゾンちえみは、ランニングの細部に至る指示が存在せず、ただ走っているだけであれば、労働基準法第9条の「労働者」該当しないと考えられます。

まとめ

 このように、芸能人に労働者性が認められるかどうかは難解な問題です。24時間テレビのチャリティーマラソンでは、衣装の負担・専属性の程度が労働者性を強める方向に作用しますが、ただ走るという行為そのものが労働者性を弱める方向に作用します。

 24時間テレビが始まったのは、1978年。ピンクレディーが全盛期のころです。24時間チャリティーマラソンが始まったのは、今から25年前の1992年のことです。よくもこの企画が四半世紀も続いたなと思います。

 しかし、チャリティーマラソンのランナーがボランティアでノーギャラだったら、こんなややこしいことは一切考える必要はないでしょう。