Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

社長!タクシーでどこに行くの?:賃金不払いでタクシー業者送検(神戸東労基署)

f:id:mesoscopic:20170821192515j:plain

はじめに

今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第11回目です。

平成29年7月11日、神戸東労働基準監督署は、灘タクシー㈱および同社元代表取締役を労働基準法違反の疑いで、神戸地方検察庁に書類送検しました。

事件の概要

書類送検された企業:

灘タクシー㈱(兵庫県神戸市灘区)

≪平成29年7月11日送検≫

  • 同社は平成27年12月~28年1月、労働者4人に対して所定内賃金約104万円を支払わなかった容疑。
  • また、同社は「就業規則を見せてほしい」という労働者からの要求に応じなかった。
  • 同社は、平成28年6月に破産手続きを開始するなど経営状態が悪かった。

(労働基準法24条違反・同法106条違反)

 参照元:労働新聞社 https://www.rodo.co.jp/column/19213/

所定内賃金と所定外賃金との違いを理解しよう

賃金には大きく分けて所定内賃金所定外賃金の2種類があります。

所定内賃金とは、所定労働時間に行われた労働の対価として支払われる賃金のことで、基本給・諸手当から成ります。

所定外賃金とは、所定労働時間外に行われた労働の対価です。

所定労働時間が8時間の場合は、所定労働時間外労働が法定時間外労働に一致し、労働基準法37条の規定により、25%以上の割増賃金の支払い義務が使用者に発生します。

では、所定労働時間が8時間より短い場合はどうでしょうか。

例えば、所定労働時間を7時間とすれば、所定外労働の最初の1時間までは法定時間外労働ではありません。

しかし、所定外労働が1時間を超えた場合、その超えた分に関しては法定時間外労働になり、割増賃金の支払い義務が使用者に発生します。

所定内賃金の支払いが滞ったら、いよいよ危ないと判断しよう

賃金不払いで市井をよく賑わせているのが、いわゆる賃金不払い残業の問題です。使用者は、法定時間外労働の対価を支払わなかったとして、労働基準法37条違反で処罰されます。

しかし、今回のタクシー業者の事例は、それと少し性質が異なり、所定内賃金が支払われなかったとするものです。

所定内賃金が全く支払われないあるいはその一部しか支払われない場合は、賃金の全額払いの原則に反するとして、労働基準法24条違反で使用者は処罰されます。

なお、今回のタクシー業者のように、事業主が破産手続きを開始した場合は、労働者災害補償保険法の事業から未払い賃金の立替払がおこなわれます。詳細は下記を参照ください。  

www.mesoscopical.com

就業規則を見せてくれと社長に迫った従業員の行動は正しい

報道によると、従業員は「就業規則の賃金規定を見せて欲しい」と社長に迫ったそうです。おそらく、賃金の支払いが滞っていたからでしょう。

これは、極めて正しい行動です。なぜなら、使用者は、労働者に対し、就業規則等の周知義務があるからです。

周知義務とは?

周知とは、労働者がその内容を知ろうと思えばいつでも知り得ることができるように、アクセス可能な状態にしておくことです。

労働基準法106条に周知義務の根拠があります。

労働基準法106条第1項

使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨就業規則(中略)に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。

(中略)に規定する協定とは労使協定のことです。なお、(中略)の中身は、当該協定の根拠となる条項の羅列です。

また、第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議とは労使委員会の決議のことをいいます。企画業務型裁量労働制が適用されている方以外は特に関係しません。

上記をまとめると、労働者に対する周知義務があるのは、次の4つです。使用者は、次の4つに関して、労働者がいつでもその内容を閲覧できるようアクセス可能な状態にしておかなくてはなりません。

  1. 労働基準法及びこれに基づく命令の要旨
  2. 就業規則
  3. 労使協定
  4. 労使委員会の決議

このうち特に重要なのは、就業規則と労使協定です。

厚生労働省令で定める方法とは?

厚生労働省令で定める方法とは次の3つです。

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
  2. 書面を労働者に交付すること。
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

1や2は文字通りですが、3については、いまどき磁気テープや磁気ディスクはありません。

常時確認できる機器とはコンピュータのことです。

つまり、常に内容が確認できるように社内イントラ上にアクセスできるようになっているということです。これが最も一般的な方法と思われます。

コンピュータで確認できない場合は、使用者にその在処を問い合わせると良いと思います。

それでも確認できない場合は、使用者に直接、書面交付をお願いすべきです。

それも拒否されたら、使用者は、労働者に対する周知義務を怠ったということになります。

労使協定について

労使協定に関しては、次の全14種類があります。 

f:id:mesoscopic:20170709073133p:plain

このうち、最も重要なのが、時間外・休日労働協定すなわち36協定です。

特に、残業が多く、長時間労働に至っている方は36協定の内容をまず確認する必要があります。

36協定では、法定労働時間を延長できる時間を定める必要がありますが、労働者はこの時間数を知る必要があります。時間外労働が、この時間数を超えた場合直ちに労働基準法違反に該当するからです。

その他の労使協定には、変形労働時間制やフレックスタイム制やみなし労働時間制など一部の労働者にしか適用されない協定があります。自分が、これらの労働時間制に該当すると思われる方は確認しておくと良いでしょう。

また、年休関係の協定内容は、年休を取得する前に確認しておくと良いかもしれません。 

まとめ

所定内賃金すら支払われなくなったら、労働基準監督署に相談すれば然るべき処置をしてくれます。また、会社が倒産しても、政府による未払い賃金の立替払という制度があります。

また、本事例において、従業員が社長に対し就業規則の閲覧を求めたことは極めて正しい選択です。なぜなら、労働基準法の定めにより使用者はそれを拒否できないからです。

本事例では、所定内賃金の不払いでしたが、その他に重要なのは、時間外労働です。

残業漬けであまりに長時間労働に至っている方は、時間外・休日労働協定(36協定)の内容をまず確認する必要があります。もちろん、そうでない方も、最低限36協定の内容ぐらいは確認する必要があります。

また、その在処が分からなければ使用者に一度問い合わせてみてください。さすがに教えてくれないということはまず無いと思います。

今回の事例のように、閲覧を拒否されたら、監督署に相談するしかありません。