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電通による長時間労働改善計画という「広告」をどのように捉えるべきか

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はじめに

7月27日、電通が、長時間労働の是正に向けた改善計画を発表しました。

記者会見冒頭で、電通の山本敏博社長は、公判審理を「厳粛に受け止める」と述べ、一連の問題について「関係者の方々や社会の皆様にご迷惑とご心配をおかけし心からおわび申し上げる」と謝罪しました。

したがって、公判の場においても山本社長から何らかの謝罪の弁が述べられることが十分に予想されます。

今回は、電通が発表した改善計画の内容について検証します。

電通の「長時間労働の是正に向けた改善計画」の内容とは?

電通が今回発表した、「長時間労働の是正に向けた改善計画」の内容は次の通りです。

労働時間20%削減目標について

再来年度に、社員1人当たりの労働時間を平成26年度の実績と比べて20%削減

来年度でなく再来年度というのはなぜでしょうか?

ここで、残業時間ではなく労働時間を20%削減というところに注目すべきです。

例えば、月の所定労働時間が160時間の会社で、ひと月の時間外労働が過労死ラインすれすれの96時間の労働者について考えてみます。

労働時間を20%削減ということであれば、残業時間が96時間から45時間に減少します。

一方、残業時間を20%削減ということであれば、残業時間が96時間から77時間に減少します。

では、月の所定労働時間が160時間の会社で、ひと月の時間外労働が30時間の労働者について考えてみます。

労働時間を20%削減した場合、月の労働時間が152時間、すなわち、所定労働時間よりも短くなります

このように、月の所定労働時間が160時間の会社において、従業員の月間残業時間が40時間未満であれば、労働時間を2割削減した時に、労働時間が所定労働時間よりも短くなってしまいます。

したがって、労働時間20%削減という目標を掲げるということは、電通という会社がいかに残業依存体質であったのかが分かります。

このような目標設定は、もともと超長時間労働の体質の会社でないとできないことなのです。

深夜業の禁止について

午後10時から翌日午前5時までの深夜業務を原則禁止とする

これは、日中業務を主体とする職場であれば目新しくも何でもないでしょう。

反対解釈すると、午後10時までの時間外労働は認められるということになってしまいます。

因みに労働基準法においては、午後10時から翌日午前5時までの労働を深夜業と規定し、使用者は割増率25%の割増賃金を支払わなければならないとしています。

また、原則禁止という曖昧な表現はいただけません。

「原則」という表現を敢えて付すのであれば、どのような場合がこの規定の例外に相当するのか、すなわち適用除外についても明言しなければなりません。

ここで、始業9:00終業時刻18:00(休憩1時間、所定労働時間8時間)の会社を考えます。

22:00までの労働が認められるということは、1日の時間外労働が4時間までは認められるということです。

月の所定労働日数を20日間と仮定すると、毎日4時間労働した場合、月80時間の時間外労働ということになります。

この状態が2か月以上継続すると、いわゆる過労死ラインに達します。

「36協定の月延長時間の限度を(以前より短い)〇〇時間に設定することにした」とか、「特別条項を〇〇のように改正して、監督署に届け出た」といった具合に、何らかの強制力のある数値目標を設定し、公表すべきだと筆者は思うのですがいかがでしょう。

業務量について

電通が略式起訴されてから、厚生労働省や経済産業省などの中央省庁、東京都など各地方公共団体による行政処分が次々と下されています。

多くは、指名停止期間1~2か月、厚生労働省の処分すら指名停止期間6か月といった軽微な内容です。

したがって、電通にとっては痛くもかゆくもなく、業務量も殆ど減少していないでしょう。

このような状況下で、20%の労働時間の削減は相当の努力が必要です。

そのために、電通がどのような対策案を表明したか検討します。

電通の対策案について

正社員や契約社員などの採用を増やしたり、視聴率の入力など300の業務について自動化を進めたりして社員の負担を減らしていく

筆者が何度も主張しているように、終身雇用を前提とする硬直した労働市場においては、既存従業員の労働時間の長短でもって雇用調整を図ることが中心に位置づけられます。

このような閉鎖的雇用慣行をそのまま維持・放置すれば、今後、生産年齢人口の減少に伴い、この傾向に拍車がかかり、労働力の需給調整が破綻します。

すなわち、内部労働市場のみに頼る雇用調整が長時間労働の温床になっているため、雇用を流動化し、開かれた労働市場で柔軟な雇用調整を図るべきだという立場を筆者はとっています。

これにより、労働時間が均霑化され、時季によって急激な過重業務に至る可能性も軽減できます。

その意味において、今回電通が打ち出した、外部から人を登用し雇用調整を図るという対策案については、評価されるべきことと考えます。

また、業務量そのものを減らすということも対策として考えられます。

ただ、業務量を減らすと言っても、何の工夫もなくただ単に仕事の量を減らすのではなく、少ない業務量で同等の付加価値を創出すべきことを筆者はかねがね主張しています。

すなわち、生産性の向上です。

その意味において、電通が300の業務の自動化を進めるなどして生産性向上を図るという試みを打ち出したことも評価されるべきことと考えます。

連続休暇の日数拡大について

社員が取得できる連続休暇の日数の拡大や、週休3日制の導入も検討する

「~~の導入を検討する」というのは、必ずしも実現しなくても導入を「検討」さえすればOKということです。

どうせやるのなら、「~~を導入する」と言い切った方が潔かったでしょう。

しかし、筆者は、連続休暇の日数の拡大はあまり効果が無いと考えます。

なぜなら、連続休暇の日数拡大は、連続勤務や1日当たりの時間外労働を却って助長するからです。

当然のことですが、およそ人間というのは、毎日の睡眠時間を規則正しく十分に確保することが必要とされます。

36協定の延長時間限度に関する大臣告示基準も、医学的見地から十分な睡眠時間を確保できるよう勘案し決められたものです。

したがって、連続休暇の日数を拡大し、繁閑の差を先鋭化するくらいだったら、勤務インターバルを導入したほうがはるかに有効だったと思います。

これにより、いついかなるときも健康管理に資する一定時間の睡眠の確保が保障されます。

山本社長の「新しい電通を創りたい」という発言について

NHKの報道によると、

電通の山本敏博社長は、「すべての業務の在り方を根本から見直し、社員一人一人の健康を経営の根幹に据える。そのうえで、労働時間の短縮と業務の向上の両立を実現させ、新しい電通を創りたい」

とのことです。

この点について、山本社長の言われることに何ら異論はありません。

これまでの電通は、社員の健康管理を無視し、ただ業容拡大だけを念頭に置くことで、広告業界のガリバーと異名をとるほどに成長してきたと思います。

これでは、ピラミッドの頂点に君臨し、販売台数だけを競い、若手従業員や非正規雇用労働者をこき使い、下請け企業を絞り上げ、無駄な製品を生産し続けてきた企業と同レベルです。

「新しい電通を創る」とは、そのような企業と同レベルにまで陥った状態から脱却することを意味します。

ガリバーから一寸法師のように一旦小さくなって、鬼十則と呼ばれる鬼を退治してこそ鬼から打ち出の小槌が得られるのではないでしょうか。

まとめ

電通の「長時間労働の是正に向けた改善計画」の内容を検討すると、確かに評価すべき点もあります。

一方、「再来年度」とか「原則禁止」とか「~~を検討」という首を傾げたくなるような表現も散見されました。

高橋まつりさんの母親の幸美さんは、「会社が仮に立派な計画や制度を作ったとしても、それを本当に実行しなければ意味がありません」と苦言を呈しています。

電通の山本社長は、東京簡裁での公判に自ら出廷する意向を示しており、起訴内容を認める方針を明らかにしています。

それを控え、今回の長時間労働改善計画という「広告」の発表に至ったのでしょう。 

今回の電通のプロモーションを簡裁の裁判官はどのように感じたでしょうか。