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新卒カードが切り札でなくなる日も近い!?経済同友会が新卒一括採用の見直しを提言

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はじめに

2017年6月、公益社団法人経済同友会が「生産性革新に向けた日本型雇用慣行の改革へのチャレンジ」と題する提言書をまとめ公表しました。

日本型雇用慣行によって日本の労働生産性の向上が阻害されていることを指摘する内容です。提言書の中には、「日本社会は日本型雇用慣行に固執するまじめなゆでガエル」という名言も出てきました。 

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 日本型雇用慣行のうち、とりわけ、経済同友会がいち早く改革に乗り出さなければならないとしているのが、新卒一括採用です。

VUCA(ヴーカ)について

経済同友会の提言書の冒頭に、変化の著しい時代を象徴する表現として、VUCAという言葉が出てきます。

VUCAとは、Volatility[変動性]、Uncertainty[不確実性]、Complexity[複雑性]、Ambiguity[あいまいさ]という4つのキーワードの頭文字から取った造語です。

確かにこのご時世、これら4つのキーワードが与える印象そのままに、経済情勢・社会情勢の変動が激しく、一寸先の予測すら困難な状況になりつつあります。したがって、「一寸先は闇」という格言がVUCAの日本語訳として最も適切でしょう。

もともとこの言葉は、冷戦構造の終結によって国際情勢が流動的となる中で使われ始めた用語でした。しかし現在では、変動の激しいビジネスの分野まで波及し、経営者がよく引用する言葉になっているのです。 

VUCAの時代に突入しても日本型雇用慣行だけは原形を留めたまま

日本経済は、1991年のバブル崩壊後、長きに渡る景気の低迷期が訪れました。民主党政権が崩壊する2012年までの21年間は、失われた20年と呼ばれています。ちょうど、東西冷戦構造が終結し、VUCAという言葉が使われ始めた時代に対応しています。

しかし、その間も日本型雇用慣行はほぼ原形を留めたままです。すなわち、経済・社会情勢がVUCAの時代に突入していたにもかかわらず、日本型雇用慣行だけは改革されることがなかったのです。

日本型雇用慣行は企業の高度成長を前提に設計された雇用モデル

日本型雇用慣行が雇用モデルとして定着したのは、高度成長期です。

高度成長期の日本では、企業の成長が永続的に続くと仮定し、その仮定に基づいて終身雇用・年功序列という雇用慣行が形成・定着していきました。しかし、バブル崩壊により企業の成長が停滞した瞬間、この雇用モデルが破綻しました。

それでもなお日本型雇用慣行に固執したことが20年以上の長きに渡る経済の低迷を招いてしまったのです。 

新卒一括採用の歴史

ここで、経済同友会の提言書の内容から新卒採用の歴史について述べたいと思います。

新卒一括採用は古くは明治時代にまでさかのぼるそうです。

1879年より、三菱は学卒の新入社員を定期的に採用し始めました。これが、日本企業の新卒定期採用の始まりとされています。そして、その原型が戦前には一応確立されていました。

しかし、現在の新卒一括採用のモデルが定着したのは、高度成長期になってからです。これにより、多くの基幹産業で大卒者を大量に採用するようになりました。

しかし、オイルショック後の不況の中で、多くの企業が新規学卒者の採用を停止したり抑制したりしました。これに伴い、流通や外食など当時の新興産業においても大量に新規学卒者を採用し始め、就職先も次第に多様化していきました。

その後に続くバブル景気においては、新規学卒者の採用人数も激増し、このことが後に続く不況において余剰人員となり、経営状態をひっ迫させました。

(出典:経済同友会 「生産性革新に向けた日本型雇用慣行の改革へのチャレンジ」) 

日本型雇用慣行の改革の一丁目一番地とは何か?

経済同友会2016年度人材の採用・育成・登用委員会の櫻田 謙悟委員長は、「日本型雇用慣行の改革のための最初の振り子を動かすためには、まず新卒一括採用という世界でも類を見ない雇用システムに変革をもたらすべき」と述べています。

また、同委員長は、「この変革を実現しない限りは、ダイバーシティを実現することはおろか、日本型雇用慣行の負の部分が消えていかない」と指摘しています。

すなわち、日本型雇用慣行の改革の一丁目一番地は、新卒一括採用のあり方を見直すことなのです。 

新卒一括採用の問題点 

経済同友会では、新卒一括採用の問題点を5つ(下記引用部分)指摘しています。

1.仕事内容とスキルがマッチングされにくいため、学生の「専門的なスキルの習得意欲」を阻害するとともに、入社後のアンマッチが発生しやすい。 

新卒一括採用の典型的な弊害です。

新卒一括採用においては、職務内容無限定の長期雇用契約を使用者と締結します。実際に入社し配属先が決定されるまで、どのような仕事を担当するかわかりません。職業に就くというより、会社に就くと言ったほうが適切でしょう。

入社前に学生が想定していた仕事内容と実際に配属先で与えられる仕事内容とがかけ離れていることも少なからずあり、これが、専門スキルの習得意欲を阻害する要因ともなっています。

また、長期雇用を前提としているため、内部労働市場による雇用調整に頼らざるを得ず、入社後も配転によってミスマッチが生じる可能性もあります。 

2.社会人経験のない学生を大量採用し、均質なマインドセットを行うことが、画一的な人材を生み出し、生産性向上における最大のキーファクターであるイノベーション創出を阻害している可能性がある。

新卒一括採用では、ジョブ・ディスクリプションに基づいた雇用契約が締結されないため、労務管理が画一的になります。また、画一的な労務管理は横並び意識を助長し、ひいては、独創性の発現を困難にします。 

3.年次別管理による横並び人事や、在籍年数などの外形的基準だけに基づく評価に陥りがちであり、本来求められる評価者の責務を十分に果たしているとは言えず、評価能力の低下を招く。

これは、評価者の観点に立った指摘です。

当然のことながら、評価者もまた新卒一括採用によって入社した人です。したがって、独創性や専門性を軸とした評価を施せません。

その企業における労働投入量、すなわち、勤続年数や労働時間といった時間軸に基づいた評価しかできないのです。

これは、労働生産性など成果に応じてではなく、労働時間に応じて賃金が支払われることとも密接に関連しています。 

4.外国人材、海外大学卒業生、留学生等の採用が困難である。

新卒一括採用においては、企業説明会が開催される時期、選考が解禁される時期がおおむね一律に決まっています。

一方、海外においては、大学を卒業する時期が国によってまちまちです。例えば、アメリカでは、初夏に卒業式を行うのが一般的です。

したがって、一括採用ではなく、通年採用に広く門戸を広げないと、優秀な外国人材の獲得は難しいでしょう。

 5.育成に時間を要する。若い才能が力を発揮できなかったり、変化への対応が遅れる。

若い貴重な時期に、たった一社しか経験しないというのは、自ら視野を狭めていることを意味し、育成に時間を要します。当然のことながら、変化への対応力も劣ります。

若いうちに、いくつかの会社・職業を経験しながら、同時に何度も失敗を経験しておいた方が、視座を高めることに繋がるのです。 

経済同友会が提言していること

 提言書によると、経済同友会が新卒一括採用の見直しにあたり提言していることは次の通りです。

  1. キャリア採用比率の向上
  2. 滞留年数にとらわれない人事考課による昇進・昇給運用。
  3. 育児や介護等の事情によって離脱した退職者が復帰しやすい仕組みづくり。
  4. 「新卒既卒ワンプール/通年採用」*1
  5. 個別企業をまたがる業界共通のプラットフォームによる人材バンク等の仕組みづくり。

経済同友会の上記の提言全てに共通しているのは、多様性に着眼している点です。

皆が同じ方向を向いて生産性の向上が実現できた高度成長期とは異なり、変化の著しい現代においては、新卒という真っ白なキャンバスを会社色に彩るのではなく、多様に彩られた人材を獲得できなければ、たちどころに埋没してしまうのです。 

まとめ 

VUCAの世界に突入している現代では、たった一社に身を預け、安住したいとする志向は却って危険です。経済状況の急速な悪化あるいは逆に急激に繁忙期が訪れたときなど何か環境の激変があったときに、命とりとなります。

自分のキャリアを再考した時、結局その会社に関すること以外何も知らなかったということにもなりかねません。

外国人材も含め、多様な人材が求められる現代にあって、新卒カードを切り札とみなし、志望企業から内定が取れれば安泰とする考え方は近い将来陳腐化するでしょう。少なくとも、経済同友会に加盟する企業は、そのような考え方の人材を必要としていないはずです。

VUCAが盛んに指摘される現代にあって、安定性を保障できる企業はどこにも存在しません。

よく、マスコミ報道などで、「学生が企業選びに最も重視するのは安定性」などという言葉をよく耳にします。 

しかし、このような考え方をしていると、新卒カードがババ抜きのジョーカーとなる可能性が高いでしょう。

*1:新卒一括採用と併せて、大学・大学院の既卒者(卒業後5年程度の者)のうち、多様な学びや体験を経て、企業が求める資質・能力を高めた人材を新人として、通年で採用する考え方。