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高度プロフェッショナル制度で割を食うのはいったい誰か?

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高度プロフェッショナル制度とは?

まず、高度プロフェッショナル制度(高プロ)によって、どんな人たちが割を食うかについて考える前に、高プロの対象となるのはどんな人たちかについて考えなければなりません。

高プロの対象となりうる人は次の2つの条件を満たした人です。

  1. 年収1075万円以上
  2. 対象業務に就いていること

対象業務とは、高度の専門知識等を要し、業務に従事した時間と成果との関連性が強くない業務が該当します。

したがって、ブルーカラー(工場労働者)の人たちや、定型業務に従事している人は、労働時間に応じて付加価値を発生させることができるので、対象業務には該当しません。

対象業務とは、ホワイトカラーが従事する業務の一部で、例えば次のようなものがあります。

  • 金融商品の開発業務
  • 金融商品のディーリング業務
  • アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
  • コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)
  • 研究開発業務

これらの業務に就いている人は、自分が発出した企画やアイディアが必ずしも利益に直結するとは限らず、不発に終わる可能性もあります。

したがって、労働時間に応じて付加価値を生み出しているとは言えず、高プロの対象業務に該当するわけです。

高プロで残業代がゼロになっても全ての人が割を食うわけではない

では、仮に年収要件を満たしていて、対象業務に就いていたとします。

このような人たちは、高プロに組み込まれます。

しかし、高プロに組み込まれたからと言って、全ての人が割を食うわけではありません。

では、一体どんな人たちが、高プロの適用によって割を食うのでしょうか?

現行の労基法でも残業代が出ない人がいる

現在の労働基準法でも、残業代が出ない人たちがいます。

具体的には、

  1. 法41条の適用を受ける人
  2. みなし労働時間制の適用を受ける人

の2種類です。

それぞれについて説明します。

法41条の適用を受ける人について

いわゆる、管理監督者と呼ばれる人たちです。

一般の企業であれば、課長以上の職位にある人たちが該当するでしょう。

また、秘書など、経営者又は管理監督の地位にある者の活動と一体不可分で厳格な労働時間管理になじまない人たちも法41条の適用を受けます。

豊田真由子議員の元政策秘書の方が、車中で、「違うだろー、このハゲ―――っ」と罵倒され続けても、残業代は出ません。

なお、法41条の適用を受ける人は、上記の他に、農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者断続的労働に従事する者などがいます。

みなし労働時間制を受ける人について

いわゆる裁量労働制の適用を受ける人たちです。

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。

このような人たちは、もともと残業代が出ないので、高プロの導入によってあまり影響を受けません。

高プロが導入されて割を食うのはいったい誰なのか?

したがって、高プロが導入されて割を食う可能性があるのは、年収1075万円以上で、対象業務に就いている人でなおかつ導入前までは労働時間管理の対象となっていた人たちです。

しかし、上記の人たち全てが、高プロの導入によって割を食うわけではありません。

時間型報酬と成果型報酬について

そもそも、労働時間管理の対象労働者が賃金を支払われることは、労働時間に応じて賃金が支払われることを意味します。

労働時間管理の対象労働者には、賃金の時間単価がそれぞれ定められています。

その月に投入した労働時間数に時間単価を乗じたものに、残業の割増賃金を加えたものが、その月の給料になります。

では、その労働者を労働時間管理の対象から外す場合、何かを基準にしてその労働者に賃金を支払わなければなりません。

その基準とは、会社への貢献量すなわち成果です。

成果を現す指標として付加価値があります。

成果型報酬の下では、付加価値以上の給料が支払われることはあり得ません。

すなわち、もし自分が捻出した付加価値以上の給料をもらっているとしたら、その労働者は、給料をもらい過ぎていることになります。

実は、高プロの導入によって、一番割を食うのは、このように給料が過払いの状態になっている労働者なのです。

では、給料が過払いの状態とはいったいどういうことなのかについてもう少し深く考えてみます。

年功序列賃金とは?

以前、次のような記事を書いたことがあります。  

www.mesoscopical.com

これは、日銀のレポートから、年功序列賃金の賃金構造について着目し、生産性と賃金との関係について論じた記事です。

みなさんは、年功序列賃金制とは、勤続年数に応じて賃金が上昇していく制度だと思っていませんか?

実は、これは全くの誤解です。

年功序列賃金制とは、賃金から自身の生産性を引いたものが勤続年数に応じて上昇していく制度です。

もう少し詳しく説明します。

賃金カーブと生産性カーブ

年功序列賃金制の下では、新入社員は、自身の生産性より賃金がかなり低く設定されています。

したがって、賃金から生産性を引いたものを差分と定義すると、差分はマイナスからスタートです。

しかし、勤続年数に応じて、差分は徐々に埋まっていき、ある年齢に達したら、ちょうど0に到達します。

この時の年齢を損益分岐点と呼ぶことにします。

一般的に言うと、損益分岐点は40代前半とされています。

そして、さらに勤続年数を積み重ねれば、差分はプラスに転じ、その絶対値も徐々に大きくなっていきます。

そして、定年時に、差分が最大値を示します。

これが、年功序列賃金の本質です。

下の図が、その概念図です。

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 したがって、給料が過払いの状態になっている人とは、差分がプラスにある中高年労働者ということになります。

なぜこのようなことが起きるのか?

そもそも給料が過払いの状態がなぜ発生してしまうのでしょうか?

それは、生産性カーブと賃金カーブとがぴったり重なっていないことに起因しています。

では、逆に、両者がぴったりと重なっていたとします。

そうすれば、若年労働者も中高年労働者もどの年齢層においても、生産性に応じて給与が支払われていることになり、過少払いも過払いも生じません。

言わば、成果に応じて報酬が支払われているということになります。

つまり、成果型報酬とは、生産性カーブと賃金カーブがぴったり重なるような賃金体系のことなのです。

下の図は、成果型報酬の概念図です。

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高プロは日本における成果型報酬の定着への第一歩

ということは、高プロは、日本における成果型報酬の定着への第一歩となるということです。

現在、給料が過払いの状態にある中高年労働者に対して、自身の生産性に応じた給料が支払われるようになります。

では、過払いを解消することによって発生した原資はどのように扱われるべきでしょうか?

筆者は、過払い分を解消することで発生した原資を、若年労働者に所得移転させるべきと考えています。

こうすることで、若年層にも自身の生産性に見合った正当な賃金が支払われることになり、成果型報酬の定着に繋がります。

そうすれば、生産性カーブと賃金カーブとがぴったり重なることになり、年功序列賃金制が崩壊します。

年功序列賃金制が崩壊すれば一つの会社に長く留まるインセンティブが消滅する

年功序列賃金制が崩壊すれば、どの年代においても自身の生産性に見合った賃金が支払われることになります。

そうすれば、一つの会社に長く留まって、若い頃安月給に甘んじていた分を中高年になってから回収するというインセンティブも消滅します。

労働者は、転職しやすくなり、雇用も流動化します。

ここに、労働者にとって最大のメリットがあると筆者は考えています。

終身雇用・年功序列こそが、使用者による無制限の人事権行使を容認し、正規社員にとっては、長時間労働やパワハラの温床となり、非正規社員にとっては、同一労働・同一賃金の実現を妨げているとこれまで筆者は何度も主張してきました。

高プロの導入は、小さな一歩のように思えますが、労働政策全体としては、非常に重要な意味を持っているのです。

まとめ

以上をまとめると、高プロで割を食う人とは、これまで労働時間管理の対象とされてきた人で、年功序列賃金の下で年収が1075万円以上あり、対象業務に就いている中高年労働者です。

大企業などで、勤続年数が長い事だけが取り柄で、管理職ほどの職位に就いていないものの給料だけが高い中高年労働者が、もし、対象業務に就いていれば、高プロで割を食うことになります。

しかし、その分を若い労働者に所得移転させれば、日本独特の歪んだ賃金カーブが修正され、労働市場全体の正常化に寄与します。

中高年労働者に過払い給与を発生せしめるような賃金体系の維持に、若い人までもが協力する謂れはありません。

いち早く成果型報酬体系を導入した方が、結果として自分たちのためになるということが理解されるときが、早晩訪れるでしょう。