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電通事件:電通は36協定が無効なまま従業員に違法残業を強いていた

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はじめに

衝撃的なニュースが舞い込んできました。

digital.asahi.com

広告大手、電通(本社・東京)の違法残業事件で、東京地検は7日、法定労働時間を超えて社員を働かせるために労使が結ぶ「36(サブロク)協定」が労働基準法の要件を満たさず、無効だったと発表した。

 参照元:朝日新聞(2017年7月8日)

これには、筆者は正直驚きました。

まさか、36協定が無効なまま、なおかつ従業員に違法な長時間労働を強いていたとは。

電通が如何に杜撰な労務管理を行ってきたかということの証です。

皆さんは、「労使協定が無効な状態ってどういうこと?」と思われているかもしれません。

そこで、労使協定の有効性について考えます。

労使協定とは?

労使協定とは、

「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」

のことです。

カギ括弧の中のこの文言は、労働基準法の条文の至る所に出てきます。

過半数労働組合とは?

労働者の過半数で組織する労働組合とは、非正規社員も含め、その事業場で直接雇用する労働者の過半数を組合員とする労働組合のことです。

単に過半数労働組合と言ったりします。

たとえば、ある事業場に非正規社員も含め1000人の従業員を直接雇用していたとします。

このうち501人以上を組合員として組織していれば、その組合は過半数労働組合です。

(具体例:ある事業所の従業員1000人のうち、A組合員600名、B組合員300名、非組合員100名であれば、過半数労働組合はA組合ということになります。)

また、同じ会社でも、労使協定は、事業所単位で締結されます。

例えば、従業員数1000人の別の事業所(以下、B事業所という。)では、A組合員300名、B組合員600名、非組合員100名だったとします。

このとき、B事業所の過半数労働組合はB組合ということになります。

このように、事業所に過半数労働組合が存在するときは、その組合が労働者の代表になり、労使協定の締結に関与することになります。

では、従業員数1000人のC事業所において、仮に、A組合員300名、B組合員300名、非組合員400名だったとします。

この場合は、A組合もB組合も労働者の過半数(501人)を下回っており、C事業所では過半数労働組合が存在しないことになります。

このように、過半数労働組合が存在しないときはどうしたら良いでしょうか?

過半数労働組合が存在しないときはどうするか?

このときは、C事業所の従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出することになります。

過半数代表者はあくまでも民主的な手続きによって選出されなければなりません。

民主的とは、誰か候補者を決めて、選挙や挙手などの民主的な手続きに従って選ぶということです。

使用者が一方的に指名したり、懇親会幹事などを形式的に過半数代表者として任命するということは許されません。

また、立候補者が複数人いて、第1回目の手続きで過半数に至らなければ、決選投票などをおこなって、過半数の総意を反映した代表者が選ばれるまで、これを繰り返すことになります。

こうして選ばれた人が過半数代表者になります。

そして、過半数労働組合あるいは過半数代表者と使用者とが書面により協定を締結することによって、初めて有効な労使協定となるのです。

一口に労使協定と言っても色々な種類がある

先述の通り、労使協定と言っても、労働基準法上、いろいろな種類のものが存在します。

最も有名なものが、新聞報道等でよく見かける時間外・休日労働協定です。

この時間外・休日労働協定の法的根拠が労働基準法36条に見られることから、俗に36協定と言ったりします。

その他にもたくさんの種類の労使協定(全14種類)があります。

下記は労使協定のまとめの表です。

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このうち、ダントツで重要なのが時間外・休日労働協定(36協定)です。

電通ではいったいどうなっていたのか?

NHKの報道によると、本社や一部の支社で組合員の数が労使協定を結ぶために必要な社員全体の過半数を下回っていたとのことです。

東京地検が、捜査の過程で発見しました。

つまり、組合員の数がその事業所の全従業員数の過半数に到達していない労働組合が、労使協定に関与していたことになり、この場合、協定自体が無効となります。

電通は、この事態について、「正社員の過半数は労働組合に加入していたものの、有期雇用の社員が増加したため、全体では条件を満たしていなかった」と釈明しています。

先述の通り、過半数労働組合とは、雇用形態にかかわりなく、その事業所で直接雇用される従業員の過半数で組織する労働組合でなければなりません。

したがって、電通の場合のように非組合員が増減する事業所では特に注意が必要です。

例えば、協定締結時には、A組合員600名、B組合員300名、非組合員100名だったとします。

このとき、A組合が過半数労働組合です。

ところが、あるとき200名の非組合員を雇用して、A組合員600名、B組合員300名、非組合員300名になったとします。

その事業所の全従業員数は1200人なので、過半数は601名以上となります。

しかし、A組合もB組合も601名に到達しておらず、過半数労働組合になりません。

この場合は、過半数労働組合が存在しないので、民主的な手続きに従って過半数代表者を選出し、改めて労使協定を締結しないと有効な労使協定とはならないことになります。

電通のように、この状態をそのまま放置しておけば、無効な労使協定となり、捜査当局から指摘を受けることになります。

無効な36協定を放置したまま、従業員に残業させるとどうなるか?

今回の一連の電通事件では、高橋まつりさんをはじめ、従業員に36協定で定めた延長時間の限度を超える時間外労働をさせていたとして、労働基準法違反に問われ、法人としての電通が略式起訴されました。

これに加え、東京地検の指摘により36協定そのものが無効であったことが新たに発覚しました。

このように、無効な36協定を放置したまま、労働者に時間外労働をさせた場合はどのようになるでしょうか?

この場合は、労働者に1分でも時間外労働をさせたら、労働基準法32条違反になります。

なぜなら、無効な36協定ということは、36協定を締結していないのと同じ状態だからです。

そもそも、労働者に時間外労働(労働基準法32条で規定する法定労働時間を超える労働)をさせること自体、労働基準法で禁止されています。

しかし、労使間で有効な協定を締結し労働基準監督署に届け出ることによってはじめて、本来は法律で禁止されていることの免罰的効果が与えられ、時間外労働をさせてもよいことになります。

ただし、たとえ有効な協定が締結されていても、あらかじめ設定しておいた延長時間の限度は絶対に超えてはなりません。

電通では、当該延長時間の限度を50時間と設定していたようです。

電通では、高橋まつりさんなど社員4人にこれを超える時間外労働をさせていたとして、労働基準法32条違反の罪で、東京地検が略式起訴しました。

これに加え電通では、無効な36協定のまま違法な長時間労働をさせていました。

その意味において、電通は2重の罪を犯していたことになります。

正規社員のみならず非正規社員の意向もガン無視していた電通

電通は、「有期雇用の社員が増加したため全体では条件を満たしていなかった」と説明しています。

これは、いったいどういうことでしょうか?

これは、有期雇用などの非正規社員は電通の企業別労働組合に加入させてもらえず排除されていたことを意味しています。

もし、非正規社員も企業別労働組合に加入することが許されていれば、当該組合の組合員数が過半数を下回ることは無かったはずです。

しかし、一般的に、大企業における企業別労働組合では、多くの場合、ユニオン・ショップ制と呼ばれる制度が導入されています。

ユニオン・ショップ制とは、企業別労働組合が、その企業の正規従業員に対しては加入を強制する一方で、有期雇用などの非正規社員に対しては加入させないとするものです。

およそ、有期雇用の社員は多くの場合、雇用契約期間を満了すれば、その企業を去っていきます。

正規従業員の賃金や雇用の確保などの集団的労使交渉には心血を注ぐ一方で、有期雇用の契約社員には加入を拒否し彼らの意見を代弁しようとしない態度の表れが、ユニオン・ショップ制なのです。

これが同一労働・同一賃金の実現を阻害し、正規・非正規間の賃金格差を拡大させていることは、火を見るより明らかでしょう。

また、ユニオン・ショップ制を基調として、正規従業員のみで組織された企業別労働組合は、正規従業員のワーク・ライフ・バランスをも阻害しています。

先述の通り、企業別労働組合は、正規従業員の賃金や雇用の確保を組合運動の方向性に掲げており、これが長い歴史的闘争の過程を経て、解雇権濫用法理という判例法理を形成していきました。

解雇権濫用法理とは、従業員が検察から起訴され裁判で有罪が確定するなど、よほどのことがない限り解雇されることはないという強固な解雇規制です。

したがって、今回、検察から起訴猶予となった高橋まつりさんの上司も、おそらく解雇されることはないでしょう。

一方で、企業別労働組合は、本来、労働者の意見を代弁するべき立場にありながら、長時間労働やパワハラなど個別労働紛争に関しては、ほとんど関心を示しません

なぜならば、彼らは、終身雇用や年功序列賃金と引き換えに、使用者による無制限の人事権行使を容認したからです。

この、無制限の人事権行使が、異常な時間外労働・パワハラとなって顕在化したことが、現在大きな社会問題となっているのです。

すなわち、企業別労働組合は、非正規社員の意向を代弁しないのはおろか、正規社員の意向も決して代弁しようとしないのです。

 なお、企業別労働組合の多くに見られるいわゆる労使協調路線の弊害については、次の記事をぜひ参照ください。

企業別労働組合が使用者と一体化し、正規従業員の雇用や賃金の確保すらもはや見失いつつある現状がよくわかります。

www.mesoscopical.com

この記事は、使用者との個別労働紛争の対応に非協力的であったため、組合員が企業別労働組合を脱退する旨を伝えたところ、当該組合が解雇をちらつかせてきたという事例を紹介しています。

www.mesoscopical.com

この記事は、組合員の時間外労働の割増賃金の請求に関して、企業別労働組合が使用者の立場に立って愛社精神を押し付け、当該請求を断念するよう懲戒をちらつかせてきたという事例を紹介しています。

まとめ

以上のように、終身雇用・年功序列賃金といった旧態依然とした日本型雇用、企業別労働組合の運動の方向性は、非正規社員にとっては同一労働・同一賃金を阻害し、正規社員にとっては、ワーク・ライフ・バランスを阻害しているのは明らかです。 

電通事件は、それが最も顕著な形で現れた事件だったのです。