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解雇の威嚇の下に加入を強制する労組:何のために存在するのか?

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はじめに

 筆者はこれまで首尾一貫して本サイトにおいて、日本の雇用労働問題の本質は日本型雇用にあると指摘し続けてきました。日本型雇用の根幹をなすものの一つに、企業別労働組合があります。

 筆者はこれまでに、企業別労働組合の問題点についてマスコミ等で扱われることがあまりにも少ないと思っていました。しかし、7月2日の朝日新聞デジタルに、この点について詳細に触れた記事が掲載されました。今回は、この記事に基づいて、日本の企業別労働組合の問題点について再考します。

会社と一体化した大企業の企業別労働組合

「労組なのに会社と同じことを言う。信頼できない」

「結局、労組は会社の味方なんだと思った」

(参照元:『朝日新聞デジタル』2017.07.02

 その通りです。但し、労組にも依ります。ここでいう労組とは、企業別労働組合のことを言っています。彼らは、会社に言いなりの御用組合と化し、当てになりません。

解雇を臭わす三菱電機の労働組合

 三菱電機が労働基準法違反の疑いで今年1月11日神奈川労働局から書類送検されたことは記憶に新しいと思います。

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 これを受け1月19日、三菱電機の柵山正樹社長は謝罪会見を開きました。横浜地検は嫌疑不十分として不起訴処分にしましたが、片岡次席検事は「刑事処分の方がハードルが高く、今回は届かなかった」と述べました。朝日新聞記事(『朝日新聞デジタル』2017.07.02)の最初に出てくるのは、三菱電機の企業別労組についてです。記事によると、かつて三菱電機に勤めていたという男性が同企業別労組から受けた仕打ちは次の通りです。

男性は、長時間労働によるうつ病により、休職した。

⇒人事担当者が社内規則より1年も長い休職期間の期限を当初伝えていた。

⇒その後、人事担当者が誤りに気付き規則通りの休職期間を突然告げた。

⇒男性にとっては寝耳に水で、休職期間を長くしてもらうよう企業別労組に相談した。

⇒同企業別労組の返答:「規則は規則だから延長は難しい」と会社の言いなり

⇒男性は同企業別労組に不信感を抱き、個人加盟の労組に加入した。

⇒そして男性は、同企業別労組を脱退する旨を伝えた。

それに対する同企業別労組の回答:

「当組合を脱退して他の組合に加盟することは、三菱電機社員の地位を失うことにつながる規定となっております」

 「???」の一言です。後述するようにこの回答は公序良俗違反により無効です。ユニオン・ショップ協定を盾に、解雇をちらつかせるとは最低ですね。

ユニオン・ショップ協定とは

 労働組合法7条第1項に次のような定めがあります。

労働組合法7条第1項 

使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。

ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

 上記は、不当労働行為の禁止について定めた条文です。不当労働行為とは、労働者が労働組合の組合員であることや組合に加入したことを理由に使用者が解雇その他不利益な取り扱いをすることを意味します。また、組合への加入を禁じたり、脱退することを雇用条件とすることも不当労働行為に含まれます。

 ここで、条文のただし書きの部分にも注目してください。労働組合法は、過半数労働組合への加入を条件に労働者を雇用する協約を不当労働行為として禁じてはいません。この労働協約のことを、ユニオン・ショップ協定といいます。

 しかし、あくまでもこの条項のただし書きの部分は、過半数労働組合への加入を雇用条件とすることが不当労働行為に当たらないとするものです。「過半数労働組合から脱退した場合、解雇しなければならない」とは条文のどこにも書いてありません。

三井倉庫港運事件(最一小判 平1.12.14)

 ユニオン・ショップ協定が締結された企業別労働組合から脱退し他の組合へ加入したことを理由とする解雇の有効性を争った裁判があります。三井倉庫港運事件です。

事件の概要

  • 上告会社は、参加人組合との間に「上告会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手は、双方が協議して認めた者を除き、すべて参加人組合の組合員でなければならない。上告会社は、上告会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手で、参加人組合に加入しない者及び参加人組合を除名された者を解雇する。との本件ユニオン・ショップ協定を締結していた。
  • 被上告人らは上告会社に勤務する海上コンテナトレーラー運転手であったが、昭和五八年二月二一日午前八時半ころ、参加人組合に対して脱退届を提出して同組合を脱退し、即刻訴外D労働組合E支部に加入し、その旨を同日午前九時一〇分ころ上告会社に通告した。
  • 参加人組合は、同日、上告会社に対し本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇を要求し上告会社は、同日午後六時ころ本件ユニオン・ショップ協定に基づき被上告人らを解雇した。
  • 原審(大阪高裁)は、本件各解雇が解雇権の濫用であって無効と判断したが、会社側は、これを不服とし上告

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

判旨

ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。

したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。

どう読むか

 日本国憲法第28条は、次のように勤労者の団結権を保障しています。

日本国憲法第28条

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

 団結権とは、労働者が労働組合を結成したり、また、それらに参加したりする権利のことをいいます。判旨にあるように、労働者には自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合を選ぼうと、同協定を締結していない労働組合を選ぼうと勝手です。

 最高裁は、特定の労働組合が、ユニオン・ショップを盾に、「組合を脱退したらクビなるぞ」と解雇の威嚇の下に加入を強制することは、団結権の正当な行使を侵害していることになり許されないとしています。したがって、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合が、「当該組合を脱退し、他の組合に加入したり又は新たな労働組合を結成したりする場合、解雇しなければならない」と協定に定めることは、民法の公序良俗違反に当たり無効と判示しています。

釣った魚に餌をやらぬとはこのこと

釣った魚に餌はやらぬ

つったさかなにえさはやらぬ

親しい間柄になったあとは、相手の機嫌をとる必要はないということ。

 三菱電機のように大企業では多くの場合、使用者とユニオン・ショップ協定を締結した企業別労組が結成されています。したがって、このような企業の正規従業員となるためには、当該企業別労組への加入が要件とされます。

 最高裁が判示するように、ユニオン・ショップ協定は、労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものです。したがって、強制加入させて組織拡大強化の目的さえ果たしてしまえば、後はいざ知らずという場合が多いのです。

 彼らは、春闘における賃金交渉など集団的労使交渉には心血を注ぎますが、長時間労働やパワハラなどの個別労働紛争に関しては、「どこ吹く風」という対応が多いのです。

基本的に強制加入で、入れてしまったらあとは知らん顔

これを「釣った魚に餌はやらぬ」と言わずして何と言うのでしょうか。

ユニオン・ショップ制は終身雇用による弊害の縮図

 筆者はこれまで連合系の企業別労働組合を批判してきました。当然のことですが、憲法で保障された団結権などの労働基本権まで否定しているわけではありません。あくまでも、ユニオン・ショップ協定を基調とし、使用者と一体化することで御用組合と化した企業別労働組合のあり方を批判しています。

 最近、パワハラが大きな社会問題となっています。平成29年6月16日に厚生労働省が発表した、「平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、全国の労働相談コーナーに寄せられた個別労働紛争相談255,460件のうち、「職場のいじめ・嫌がらせ」に関する相談が70,917件とダントツで1位となっています。なぜこんなにもパワハラ等「職場のいじめ・嫌がらせ」が急増したのでしょうか?

 パワハラの最大の原因は、職場に同質性を求めること、すなわちメンバーシップ制を基調とした労務管理にあります。

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 メンバーシップ制を基調とした労務管理の背景に、ユニオン・ショップ協定があることはいうまでもありません。朝日新聞の記事の中にも次のような記述が見られます。

 過労死やパワハラを巡る事件で、企業内労組が被害者や遺族を支援している例は少ない。

 組合員全体の賃金や雇用の確保に関心を払っても、働き手個人の悩みに深く寄り添う企業内労組は多くない。

(参照元:『朝日新聞デジタル』2017.07.02

  企業別労組は、賃金や雇用の確保のバーターとして使用者からの無制限の人事権行使を認めてしまっているのだから、上記のように「釣った魚に餌はやらぬ」になってしまうのでしょう。つまり、使用者にとって、労働者に愛社精神や忠誠心を植え付けるための最大のステークホルダーは企業別労組だったんです。

労働者に対し忠誠心を植え付けるために労組幹部がパワハラに加担した例もある

 労働者に寄り添うどころか、逆に、労働組合の幹部が、自ら率先して労働者に執拗なパワーハラスメントを行い、PTSDを発症させ休職に追いやった事件があります。社会福祉法人看護師精神障害発症事件(名古屋地判 平17.4.27)です。

 事の発端は、女性看護師(原告)が労働組合を脱退して個人加盟のユニオンに加入したことにあります。

 先ほどの最高裁判例にもあるように、これは憲法で保障された団結権の正当な行使であり、どの労組を選択しようと労働者の自由です。ところが、労働組合の幹部(被告C,D)は使用者が同席する会議の場で、「法人の理念に批判的」と攻撃するなどしたため、女性看護師(原告)はPTSDを発症し休職を余儀なくされました。

 名古屋地裁は、「原告の人格権を侵害する不法行為にあたる」として、法人および被告に対し慰謝料500万円の支払いを命ずる判決を下しました。

まとめ

 未だに、終身雇用を安定的な働き方だと考える人たちが存在すると聞きます。確かに、「年功序列賃金体系の下で定年まで雇用が約束されている」という点だけを抽出すれば、安定的と考えてもやむを得ないでしょう。しかし、物事を片側だけから見て判断してはいけません。

 およそ、終身雇用で働くということは、一つの会社に絶対の忠誠心を誓い、使用者による無制限の人事権発動を許し、約40年間耐えなければならないことも同時に意味しています。また、長時間労働やパワハラなどの個別労働紛争に至った場合は、企業別労組は賃上げや雇用確保など集団的労使交渉が運動の方向性になっているため、協力してくれません。したがって企業内では孤立無援となります。

 そういう負の側面もちゃんと理解した上で、それでもなお終身雇用を安定的と考えるのであれば、それはそれで本人の選択の自由です。