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精神障害による労災認定件数と日経平均株価との意外な関係

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はじめに

 6月30日、厚生労働省が平成28年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。これを受け、過労死等のうち精神障害関する事案について分析をしたところ、終身雇用と過労死とは強い因果関係があることがわかりました。 

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 平成28年度の労災補償状況においてその他に特筆すべきことは、精神障害による労災支給決定件数が498件と過去最多となったことです。では、これまでに労災支給決定件数がどのような上昇トレンドを辿ってきたのでしょうか。そこで、今回は、過去10年間の精神障害による労災支給決定件数のデータに基づき、考察を加えます。

精神障害による労災支給決定件数の推移(過去10年間)

 下の図は、過去10年間の精神障害による労災支給決定件数の推移(2007年度~2016年度)です。

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 リーマンショックの翌年度の2009年度が最低となっています。ところが、2012年度に突然上昇し、以降高止まりの傾向にあります。そして、昨年度、過去最多となる498件の労災支給決定がありました。

支給決定件数の上昇トレンドは何かに類似していないか

 上記棒グラフは、どこかで見たグラフに似ている思いませんか?日経平均株価のチャートです。 

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偶然の一致かどうか確かめてみた

 果たして、両者の上昇トレンドは偶然の一致なのでしょうか?そこで筆者は、上記2つを同じグラフに重ね合わせてみました。その結果が下のグラフです。

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 上の図を詳しく見ると、平成23年度以降は精神障害による労災認定数の変化と株価のトレンドとの間に半年くらいのタイムラグがあるように思われます。例えば、平成23年度から平成24年度の労災認定数は急激に上昇しています。それから約半年後株価の急激な上昇が見られます。(注:上記においては、年度の中心(10月1日)を基準に棒グラフを描いています。半年後の年度末(翌年3月31日)を基準に棒グラフを描くと、株式チャートのトレンドとほぼ一致します。) 

筆者なりに理由を考察してみた

 株価は、多くの変動要因が複雑に絡み合って影響するので、直ちにこれだけをもって両者に相関があるかどうかは筆者にはわかりません。しかし、企業の業績が上向けば、株価が上昇することは揺ぎ無い事実です。

 企業の業績が上向くためには、それだけモノやサービスの売れ行きが良くならなければならないことも揺ぎ無い事実です。多くのモノやサービスを売るためには、それだけ多くの労働投入量が必要となります。労働投入量は、労働者数×労働者一人当たりの労働時間数のことです。

 しかし、日本では労働市場が硬直化しているため、景気変動に伴って柔軟に労働者数を増やすことができません。そのため、内部労働市場の成員たる既存従業員一人当たりの労働時間数を増やすしか他に手立てが無くなります。このことが、長時間労働を誘発し、結果として、精神障害による労災認定件数の増加に繋がっているのではないでしょうか。

まとめ

 以上の議論の裏を返すと、これまでの好景気の背景には、既存従業員の長時間労働による貢献があったのではないでしょうか。しかし、いくら一人当たりの労働時間数を増やす必要があるといっても、それには限りがあります。したがって、これ以上安直に労働時間を増やし続けると、却って労働生産性が低下してしまうので逆効果となります。

一方で、労働者数を増やすことについてはどうでしょうか。「将来の安定のために一生同じ会社で勤め続けたい」という時代錯誤を言っていると、労働市場がさらに硬直化し、内部労働市場でしか雇用調整が図られず、結果として、際限のない長時間労働に苛まれることに繋がります。結果として、長時間労働による精神障害を発症し、本来、安定のためにと切望していた終身雇用が却って、自分の身を苦しめる羽目に陥ります。

 したがって、まずは、硬直した労働市場を改める必要があるでしょう。より多くの人に労働参加をしてもらうことで、一時的には解決に向かいます。しかし、それだけではまだ足りません。今後、生産年齢人口比率の低下は急激に進むとみられ、外部労働市場まで雇用の枠組みを広げ柔軟に労働者数を増やしたとしても、なお限界があります。したがって、今後はいかに労働生産性を高い水準に維持できるかということも重要になってくると思います。その他に、機械化を進展させることもますます重要になってくるでしょう。

 すなわち、生産性の向上による労働時間の縮減によって、精神障害による労災認定件数が減少し、かつ、株価が上昇するという状況(今と逆の相関)が最も理想的なのです。