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仕事上のストレスで精神障害になる人が過去最多(厚生労働省公表)

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はじめに

 昨日、厚生労働省が平成28年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。厚生労働省は、「脳・心臓疾患に関する事案」と「精神障害に関する事案」の2つに大別してそれぞれの労災補償状況について公表しています。このうち、精神障害に関する事案について平成28年度は、労災支給決定件数が498件と過去最多となりました。 これを受け、マスコミ各社が一斉報道しました。そこで、厚生労働省が発表した資料に基づいて、精神障害に関する事案の労災補償状況を詳細に分析します。

 参考資料(厚生労働省『平成28年度精神障害に関する事案の労災補償状況』)

そもそも精神障害による労災とは

 長時間労働やパワハラなど、仕事上の強い心理的負荷(ストレス)によってうつ病などの精神障害を発症した場合、「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて業務上外の判断がなされます。精神障害の発症が業務に起因するものとして取り扱われるには、次の3つの認定要件全てを満たす必要があります。

  1.  対象疾病を発病していること。
  2.  対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
  3.  業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

 対象疾病は、主としてICD-10(国際疾病分類第10版)のF2からF4に分類される精神障害(うつ病など)とされています。

平成28年度精神障害の労災補償状況を詳しく分析する

認定率

 認定率とは、労災支給・不支給の決定があったもののうち、労災支給とされた件数の百分率を意味します。平成28年度の認定率は、36.8%でした(支給498件・不支給857件)。また、支給決定とされた498件のうち、過労自殺は84件でした。

精神障害による労災支給決定件数の年齢構成

 下のグラフは、精神障害による労災支給決定件数(平成28年度)の年齢構成です。

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 40代までは件数増加が見られますが、50代になると急激に件数を減らしています。定年まで10年を切ると先が見通せるということでしょうか。また、60歳以上になるとさらに急激に件数を減らしています。このグラフは、人々に我慢を強いる終身雇用の弊害を非常にわかりやすく表現しています。

 下のグラフは、精神障害による過労自殺認定件数(平成28年度)の年齢構成です。

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 過労自殺についても、精神障害による労災支給決定件数とほぼ同様の傾向を示していますが、20代・30代といった若年者の過労自殺が顕著に表れています。その一方で、60歳以上は0件です。このグラフは、終身雇用が勤労者を苦しめていることを最も端的に表していると言えます。

精神障害による労災支給決定件数ワースト10(都道府県別)

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 労災は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署が支給決定を判断します。必然的に事業所や就業人口が密集する都会が上位に位置します。なお、精神障害による過労自殺認定件数ワースト1の都道府県も東京都(10件)でした。

就業形態別 

労災支給決定件数

 下のグラフは、精神障害による労災支給決定件数を就業形態別に分類したものです。

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 正社員が448件です。一方、契約社員・派遣・パート・アルバイトを非正規社員として一括りにすると、46件となっています。実数にして、正社員は非正規社員の9.7倍となっています。

 その他には、特別加入者等が存在します。特別加入者等とは、本来労災保険に関与しない労働者以外の者を言います。例えば、中小企業の経営者がこれに該当します。特別加入者等については、4件でした。

過労自殺認定件数

 下のグラフは、精神障害による過労自殺認定件数を就業形態別に分類したものです。

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 正社員の過労自殺認定件数は80件です。一方、非正規社員の過労自殺認定件数は4件です。実数にして20倍です。正規・非正規の比率を考慮すれば、正社員は非正社員に比べて、過労自殺に至る確率が12倍ということになります。因みに、昨年度の過労自殺認定件数は、正社員は非正社員に比べて、実数ベースで22倍、確率ベースで13倍となっています。なお、脳・心臓疾患による過労死を含めれば、正社員は非正社員に比べて、実数ベースで30倍、確率ベースで18倍となっています。

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まとめ

 厚生労働省が公表した「過労死等の労災補償状況」を詳しく分析すると、終身雇用の弊害が端的に表れています。1つは、認定件数の年齢構成に現れています。定年が近くなる50代になると件数が急激に減少し、定年を超えるとさらに件数が減少します。

 もう1つは、就業形態別の認定件数に現れています。実数ベースでも確率ベースでも、精神障害による労災支給決定件数や過労死認定件数において、圧倒的に正社員のほうが非正規社員を上回っています。

 正社員は終身雇用を前提としているため、使用者による広範な人事権行使が認められています。正社員は、労働時間・職務内容・勤務地などを無限定とする働き方です。これらによる重圧が、大きな心理的負荷を誘発し、結果として、うつ病などの精神障害に陥りやすくなります。

 今後の日本社会は、生産年齢人口比率の減少に伴って、ますます労働力不足に拍車がかかっていきます。にもかかわらず、生産年齢人口比率が増加していた時代にモデリングされた終身雇用制にこだわっていると、ますます勤労者の心身を疲弊させ、取り返しのつかない事態を招いてしまうでしょう。