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「上司残業でも帰る」新人が急増:上司がハゲかどうかにかかわらず

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はじめに

26日の産経新聞に次のような記事が掲載されました。

www.sankei.com

 これは、公益財団法人日本生産性本部のアンケート結果に基づいたものです。

アンケートによると、「職場の上司や同僚が残業していても、自分の仕事が終わったら帰る」という設問に〇を付けた人は48.7%となり、前年度比+9.9ポイントと急上昇しています。

今年の新入社員は、ダラダラ残業・付き合い残業に否定的な見方をしているようです。

筆者は、これをとても良い傾向だと考えています。

生産性が上がりそうですね。

付き合い残業は、日本型雇用の弊害

一橋大学の小野浩教授は、日本特有の付き合い残業の問題について次のように述べています。

仕事が終わっても職場の雰囲気を気にしたり、上司が残っているから帰宅しない社員が少なくないのは、集団意識が強く、上下関係が厳しい日本社会の弊害である。

早く帰るのは皆に申し訳ないという考え方から発生する「付き合い残業」は日本特有な現象だろう。

 成果・生産性が適切に評価される労働市場では、残業や努力といったシグナルを発しても価値はない。

このため、成果主義導入が先行している欧米の労働市場では、残業=美徳の結びつきは弱く、むしろ仕事を早く切り上げて早い時間に帰宅するようなインセンティブが強く働く。

小野浩(2016)『日本労働研究雑誌』No.677, 21.

「職場の雰囲気を気にしたり」というのは、20世紀型規格大量生産の工業化社会において最適化された画一的労務管理の弊害です。

しかし、このような労務管理は今世紀に入り崩壊しました。

同僚が残っているから帰宅しないという方はそれほど多くないのではないでしょうか。

一方で、上下関係についてはどうでしょうか?

上司が残っているから帰宅しないというのは、年功序列という古い雇用慣行の弊害です。

自分の仕事が終わっているのに帰りたくても帰れないほど苦痛なものはありません。

自席でソリティアに邁進している上司など放っておいて、早々に帰宅し、心身をリフレッシュしましょう。

年功序列雇用システムとは、若い頃低賃金でこき使われ、その分を中高年になって回収するシステムです。

現在、ソリティアをやっている上司は、自分が若い頃低賃金で散々労働投入した分を、取り返そうとしているのでしょう。

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しかし、現在の若い人たちまでこのような歪んだシステムに付き合わされる謂れはありません。

なぜなら、自分たちが中高年になったとき、悠然とソリティアをやっていられるような状態に会社があるとは限らないからです。

みなさん、年金のシステムを思い出してください。

皆さんが納めている年金保険料は、現在のお年寄りの年金の原資として使われています。

決して、自分の口座に貯金として蓄えているわけではありません。

これを世代間扶養と言います。

しかし、少子高齢化の進展を受け、この制度が次第に崩壊に向かっていることは皆さんよくご存じのとおりです。

年功序列賃金体系もこれと同じ原理で成り立っています。

若い社員の、ハイパフォーマンス(高生産性)・ローウェイジ(低賃金)の分が、中高年社員の、ローパフォーマンス(低生産性)・ハイウェイジ(高賃金)の原資として使われています。

勤続年数が長いことだけが取り柄のローパーおじさんが悠然とソリティアを続けていられるのは、年功序列賃金体系という歪んだ賃金制度の下で手厚い保護を受けているからなのです。

しかし、日本は、今から20年以上も前の1995年から、生産年齢人口比率が減少傾向に転じています。

また、日本の総人口も2010年の国勢調査をピークに初めて減少に転じ、労働力不足が盛んに言われています。

若い勤労者がどんどんいなくなったら、年金制度と同様にこのようなシステムが早晩崩壊することは明らかでしょう。

その意味において、今年の日本生産性本部のアンケート結果に現れているように、「上司が残業していても帰る」ことに肯定的な新入社員は、ある意味賢い選択をしているのです。

労働時間と上下関係とを切り離そう

神奈川県横須賀市では、昨年「帰るまで見守る月間」と称するある取り組みを実施しました。

www.mesoscopical.com

これは、「部下の仕事が終わり、部下が全員帰宅するまで、管理職が職場に居残って見届ける」というという取り組みのことです。

しかし、これは、現在の働き方改革の流れに逆行するという意味において2重の過ちを犯しています。

1つは、上司に見つめられたら、部下が仕事に集中できなくなり労働生産性が低下するということです。

労働生産性が低下すれば、当然のことながら、部下自身帰宅が遅くなります。

そしてもう1つは、上司自身も自分の基幹業務が終了しているにもかかわらず、帰宅できないということです。

恐妻家とか家庭に不協和音が鳴り響いているような上司にとっては、場合によっては職場にいた方が心地良いということもあるかもしれませんが、上司の皆が一律にそうであるとも限りません。

ワーク・ライフ・バランスを重視する上司も中にはいるかもしれません。

何れにせよ、労働時間と上下関係を連動させていることに問題があるのです。

その他のアンケート結果について

 勤務時間外に職場の人とつきあうべきかどうかについて

アンケート結果によると、「同僚、上司、部下と勤務時間以外はつきあいたくない」 …20.7%(昨年)→30.8%(今年)(+10.1)でした。

そもそも、同僚・上司・部下は、たまたまある会社に入社してそこに居合わせた人たちです。

したがって、本来は、仕事以外につきあう動機が存在しません。

勤務時間外に職場の人間と付き合うことは、画一的労務管理を基調とした集団意識・同調圧力がなせる弊害です。

同僚、上司、部下と飲みに行って、仕事以外の話に終始することがあるでしょうか?

結局、仕事の話になり、プライベートと仕事との見分けがつかなくなってしまいます。

先ほどの、付き合い残業と同じく、勤務時間外における職縁との切り離しが増加傾向にあることは、心身の健全を保つうえでとても良い傾向と言えるでしょう。

同僚・上司・部下と飲みに行ってもワタミ(改め 「三代目鳥メロ」「ミライザカ」)が儲かるだけです。

 (あるいは、もう少し良いところに飲みに行く人が多いのかもしれません。)

我慢が必要かについて

結果は、「将来のためには今は我慢が必要だ」 …84.2%(昨年)→79.8%(今年)(-4.4)でした。

減少傾向にあることは良いことと思いますが、実数値としてはまだまだ高い傾向にあると思います。

しかし、この設問を見て、何かを思い出しませんか?

先ほど説明した年功序列制です。

  • 将来のため⇒中高年になって、ローパフォーマンス(低生産性)でもハイウェイジ(高賃金)を得るため
  • 今は我慢⇒ハイパフォーマンス(高生産性)でもローウェイジ(低賃金)を受け入れること

と言い換えれば、ぴったり年功序列制に当てはまります。

したがって、「付き合い残業をしない」割合が上昇したことと、「将来のためには今は我慢が必要だ」の割合が減少したことは、つじつまがあっています。

先ほども説明したように、年功序列賃金は年金のシステムと原理が同じです。

今のお年寄りが享受している年金額と同水準の年金を将来享受できると固く信じるのであれば、年功序列賃金に身をゆだねる価値があるでしょう。

しかし、実際そうならないのは、下記のグラフを見れば明らかです。

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日本の人口は、2010年をピークに、その後減少傾向に転じています。 

また、生産年齢(15~64歳)人口比率は、より深刻な状況となっています。

ピーク時の1995年には70%強でしたが、その後減少の一途を辿り、今から33年後の2050年には、50%強にまで落ち込むと見込まれています。

今の新入社員を22歳とすれば、2050年には55歳となり、ちょうど現在のソリティア上司の世代ですよね。

まとめ

日本生産性本部のアンケート結果に、「若いうちは進んで苦労すべきか」という設問に対する新入社員の回答の推移が載せられています。

下記は、高度成長期真っ只中の昭和44年から、平成29年までの当該設問に対する推移です。

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出所:公益財団法人日本生産性本部 平成 29 年度 新入社員「働くことの意識」調査結果

ここ数年、「好んで苦労することはない」が上昇傾向を示し、平成29年の今年過去最高を記録しています。

筆者はこれをとても良い傾向だと思います。

慢性的な人手不足を背景に、今後もこの傾向は続いていくでしょう。

筆者は、このグラフをじっと見ていてある重要な事実に気が付きました。

グラフ中の赤色の「苦労すべきだ」の推移に注目してください。

平成3年から平成24年までの21年間、「苦労すべきだ」の上昇傾向が続いています。

ところで、バブル崩壊は平成3年3月に始まったとされています。

平成24年は民主党政権末期です。

この期間が俗にいう失われた20年という期間です。

そして、失われた20年最終期の平成24年に「苦労すべきだ」が70%とピークを記録しました。

失われた20年間にブラック企業はどんどん増え続け、ピーク時の平成24年ころブラック企業の問題が大きな社会問題としてマスコミ等で報道され始めました。

今は、売り手市場にあるというものの、ブラック企業はあとを絶たず、決して問題が沈静化されたわけではありません。

 

「若いうちは進んで苦労をすべきだ」という回答が0%にならない限り、ブラック企業がなくなることは決してないのです。