Mesoscopic Systems

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大阪府寝屋川市がPC強制終了型残業抑止システムを導入し絶大な効果

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はじめに

 働き方改革を受け、長時間労働抑止に向けて様々な取り組みが全国でなされています。下記は、その一例です。

www.sankei.com

 大阪府寝屋川市は7月から、長時間労働の是正に役立てるため、一部の部署で、終業の予定時間から10分が経過すれば、自動的に業務用パソコンの電源がオフになるシステムを導入する(参照元:『産経新聞』2017.06.27)。

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 寝屋川市が導入した残業抑止システム(参照元:『産経新聞』2017.06.27

 筆者は、この写真を見て、富士通エフサスの「IDリンク・マネージャー 長時間残業抑止」と気が付きました。「IDリンク・マネージャー 長時間残業抑止」については、以前記事にしたことがあります。 

www.mesoscopical.com

 しかし今回のように、実際の導入事例について新聞記事を目にしたのは初めてです。このシステムにおいて残業をするためには、PC上で事前申請をし上司から承認を得る必要があります。事前申請した延長時間を過ぎれば、10分後に、強制的にPCがシャットダウンする仕組みになっています。

 寝屋川市の始業・終業時刻は、それぞれ午前9時・午後5時半だそうです。したがって、残業申請をしなければ、終業時刻から10分後の午後5時40分にPCがシャットダウンします。また、このシステムは、勤怠管理がPC起動時間と連動しており、客観的な労働時間の把握にもつながります。

 しかし、道路標識と見紛うばかりのエクスクラメーション・マークを画面いっぱいに表記するのはやめたほうが良いと思います。可愛いカエルのイラストにするとか、もっと気持ちよく帰れるようなデザインに変更したほうが良いと思います。この辺りはまだまだ改良の余地はあるでしょう。 

残業禁止をデフォルトとすることが唯一の解決策

 写真を見ると、PC画面中央に「OOさん あなたの本日の勤務予定時間は、9:00~17:30分です。勤務予定時間を過ぎていますのですみやかに業務を終了し退出してください。」との警告メッセージが発せられていることがわかります。これは、使用者からの明示的な残業禁止命令を基本とするものです。そして、上司に申請すれば、当該残業禁止命令が解除される仕組みになっています。

 筆者は、明示的な残業禁止命令こそが長時間労働抑制のための唯一の方法だと思っています。記事によると、市の職員のうち9割が業務用PCを用いて仕事をしているそうです。このようにVDT作業を主体とする職場では有効な手立てとなると思います。

寝屋川市とは対照的な横須賀市の「帰るまで見守る月間」

 以前、次のような記事も書いたことがあります。

www.mesoscopical.com

 この記事は、神奈川県横須賀市が実施した「帰るまで見守る月間」と称する残業抑制のための取り組みについて述べています。「帰るまで見守る月間」は、部下が全員帰るまで課長らが(居)残り、残業の状況を確認する試みのことです。

 しかし、「帰るまで見守る月間」は長時間労働抑止のための取り組みとして有効に機能しないと考えます。なぜなら、これは、上司が部下をただ見守っているだけであり、残業禁止をデフォルトとしていないからです。それどころか、これでは、上司が自分自身の基幹的業務を終えていても「見守る」という(不要な)周辺業務のために帰れないことになってしまいます。部下も、上司に「じっと見つめられている」と、労働生産性が低下して帰宅時間が遅くなってしまいます。「見守る」などという余計な仕事は、寝屋川市のように機械にやらせればよいのです。

その他の残業抑止システム

 その他の残業抑止システムの一つに、株式会社アイキューブドシステムズが開発した「ワークスマート」というものがあります。

www.i3-systems.com

 会社から供与されたスマホを携帯していて、それに基づいて仕事をすることが多い方に有効なシステムです。外回り営業や出張の多い方に有効と言えるでしょう。このシステムでは、残業申請しない限り業務時間外にスマホから社内システムにアクセスできないような仕組みになっています。結果として、正確な労働時間が把握でき、持ち帰り隠れ残業の撲滅にも繋がります。

まとめ

 そもそも労働基準法は、残業(正確には法定労働時間を超える労働)自体を禁止しています。労働基準法32条の規定により、使用者が労働者に対し1日8時間を超える労働をさせると労働基準法違反となります。しかし実際には、多くの皆さんは残業をしていると思います。にもかかわらず、使用者が労働基準法違反で罰せられることがないのは、使用者が行政官庁においてある特別な手続きをしているからです。それが、新聞報道等でよく出てくる36協定と呼ばれるものです。

 36協定はいわゆる労使協定の一種で、労働時間の延長に関し、使用者と労働者の代表との間で交わされる約束事(協定)です。ちなみに労働者の代表とは、会社に労働組合が存在する場合はその労働組合、労働組合が存在しなければ労働者の過半数を代表する者を意味します。約束事の内容を労働基準監督署に届け出ることによって初めて、労働者に延長時間に限り残業をさせてもよいという仕組みになっています。もちろん、あらかじめ役所に届け出た延長時間をも超える残業をさせた場合、違法残業となり、使用者は労働基準法違反により処罰されることになります。電通事件が典型例です。

 したがって、本来は禁止であったものを行政手続きによって一定時間までの免罰的効果が与えられている以上、会社での労務管理においても残業は基本的に禁止とすべきです。富士通エフサスの「IDリンク・マネージャー 長時間残業抑止」や株式会社アイキューブドシステムズの「ワークスマート」のように、業務時間外アクセスを物理的に遮断し、使用者に対して承認の観念を容れることによって残業が許されるというサービスが次々と開発されていることはとても良い傾向であると言えます。

つまり、基本的に不可のものを上司が積極的にじっと見つめちゃならんのです。