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人手不足なのに賃金が上がらない原因は終身雇用制にあった

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はじめに

よく報道などで、深刻な人手不足であるにもかかわらず実質賃金がなかなか上昇しないという声を耳にします。

いったいなぜなのでしょうか?

実質賃金・名目賃金・消費者物価指数の推移

下の図は、平成17年から27年まで10年間の、実質賃金・名目賃金・消費者物価指数の推移です。

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出所:厚生労働省 毎月勤労統計調査平成 27年分結果速報の解説

図から明らかなように、実質賃金は年々下がり続け、平成27年は、10年前の平成17年に比べ、10ポイント近く下げています。

言わば、10年前と比べ1か月分の給料がどこかへ飛んで行ってしまった形になっています。

実質賃金の下降の要因は、アベノミクスが始まる平成25年より以前とそれ以後とで異なっています。

アベノミクス以前は、消費者物価指数はほぼ横ばいで、名目賃金が下がり続けた結果、実質賃金が下降しました。

労働分配率の低下に歯止めがかからなかったことと大いに関係しています。

一方、アベノミクス以後は、名目賃金がほぼ横ばいであるのに対し、消費者物価指数が大きく上昇しました。

消費者物価指数の上昇傾向は、金融緩和により実質的に貨幣価値が下がったことと関係しています。

結果として、実質賃金の大幅な低下に繋がりました。

人手不足なのに賃金が上がらないのはなぜか?

近年、有効求人倍率が上昇し続け、5月30日に厚生労働省が発表した、4月の有効求人倍率は1.48倍とついにバブル期のピーク(1.46倍)を超えました。

これだけ人手不足であるにもかかわらず、実質賃金が低下し続けているのはどうしてでしょうか?

人手不足の状況下で実質賃金が上昇し続けた高度成長期やバブル期といったい何が違うというのでしょうか?

実質賃金の決定要因

古典的な労働市場の考え方では、実質賃金は、労働需要曲線と労働供給曲線の交点(均衡点)で定まるとしていますが、これは常に完全雇用を前提としており、非自発的失業を考慮しない考え方です。

これに対し、ケインズ学派の労働市場モデルでは、実質賃金には下方硬直性があると仮定します。

下方硬直性は、一度ある賃金が成立すると、人手が余っても賃金が下がらない現象です。

なぜなら、賃金を切り下げようとすると、労働者はそれに抵抗し十分な労働を提供しなくなると考えられるからです。

しかし、近年の日本における労働市場は、非常に特異的であり、このケインジアンモデルによっても説明できません。

賃金の上方硬直性について

では、近年雇用情勢が回復し、人手不足であるにも関わらず、実質賃金の上昇の兆しが一向に見られないのはなぜでしょうか?

東京大学の玄田有史教授は、この特異な現象を賃金の上方硬直性という概念を用いて説明しています。

そして、賃金の上方硬直性の原因は日本の構造的問題にあると説明しています。

日本の構造的問題とはいったい何なのでしょうか?

日本の構造的な問題とは?

行動経済学の最近の研究によれば、労働者は、一度決定された賃金水準を下げられることに抵抗を示すことがわかっています。

逆に、賃金水準が下がりさえしなければ上がることにはそれほどこだわらないことが多いとも言われています。

これは、ケインズ学派の説明する賃金の下方硬直性の理論と合致しています。

では、反対に、企業が賃金を上げることについてはどうでしょうか?

ここからが、諸外国には見られない、日本独特の問題点が浮かび上がってきます。

諸外国では、企業の業績が良くなれば、企業は従業員の賃金水準を上げます。

当然のことながら、労働生産性にも影響し、さらなる業績アップも見込めます。

さらに、高い報酬で優秀な人材を雇い、業務量が大幅に増加すれば新たに人を雇用して業務量の分散を図り、既存の従業員を長時間労働の状態から解放します。

しかし、日本では、こういった当たり前のことがどうしてもできない事情があります。

その事情とは、終身雇用・年功序列制です。

日本で業績に連動して賃上げに応じていたらどうなるか

では、終身雇用制が定着した日本において、業績がアップしたからと言って、おいそれと賃上げに応じていたらどんなことが起きるでしょうか?

一度賃上げに応じれば今度は、その水準が既定路線として定着します。

そうすれば、それ以後は、上昇した賃金水準を基準として、賃金の下方硬直性が発生してしまいます。

こんなことがずっと続けられるはずもありません。

どんなに業績が良くても、いつまでもその状態が続く保証がない以上、賃金を上げようがないのです。

終身雇用・年功序列をやめればよいだけ

正社員とは、長期雇用の特約付き労働契約です。

正式には、期間の定めのない労働契約といいます。

年功序列賃金とは、就業規則に定められた規定通りに勤続年数に応じて賃金が決定される仕組みです。

したがって、企業の業績と連動して賃金が下がったりはしません。

高度経済成長期において、終身雇用に経済合理性があったのは、たまたまこの期間は、ほぼ一律に企業の業績が良く、成長し続けることができたためです。

しかし、1990年代前半のバブル崩壊を機に一気にこれらの雇用制度が破綻しました。

資本主義経済のもとでは、儲かっている企業もあればそうでない企業もあることは当たり前です。

したがって資本主義経済下の日本において、皆が一律に儲かっていた高度成長期の制度をごり押しようとすれば、歪みが生じるのは当たり前です。

終身雇用による歪みの内容とは?

終身雇用とはいうものの、解雇が容易でないだけであって、自己都合退職の問題は生じません。

したがって、リーマンショック時に多発した、いわゆる追い出し部屋の問題のように、企業は不況時にはあの手この手で労働者を自己都合退職へと追い込もうとします。

不本意な自己都合退職へと追い込まれるくらいだったら、金銭解雇の基準を明確化し、成長産業へとスムースに労働移動したほうがよっぽど合理的でしょう。

もちろん、労働者を自己都合退職へと追い込むことが極力回避されるべきなのは言うまでもありません。

反対に終身雇用制は、現在のような好景気時には、既存の従業員に極端に過重な業務量を課すことにつながります。

解雇規制を撤廃すれば、既存の従業員の賃金の上方硬直性もなくなり、賃金も上昇するでしょう。

また、新たに従業員も雇うことができ、過重な業務量から解放されることにもつながるでしょう。

まとめ

そもそも終身雇用・年功序列制は、かつて企業の成長が著しいころ、使用者による広範な人事裁量権(ムチ)と引き換えに安定というアメを労働者に与えることで成立したシステムです。

ところが、企業の成長が鈍化した昨今では、このシステムが足かせとなり企業の存続を危ぶませています。

ちなみにパナソニックでは、2010年3月期から2015年3月期に至るまで、連結ベースで13万人従業員が減少したとされています。

パナソニックが13万人の従業員を温存したままで合ったら、今頃は存在していないでしょう。

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