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解雇の金銭解決:日本で解雇規制が強いとされている本質はどこにあるのか?

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はじめに

労働基準法第1条に、

労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

と定められています。

 労働基準法では、労働者が職業生活を営んでいく上で最低限のルールが規定されています。

解雇についても、必要最小限の制限しか加えていません。

したがって、使用者は、その必要最小限のルールさえ守れば、労働者を解雇しても労働基準法違反にはなりません。

ところで、みなさんは、例えば泥棒の被害にあったら警察に駆け込みますよね。

しかしながら、顧客から契約を一方的に打ち切られたと言っても、警察は取り合ってくれません。

なぜなら、警察は民事不介入を原則としているからです。

労働の分野においてもこれと同じです。

例えば、「賃金が全く支払われない」、「残業代を払ってくれない」という事案ならば、労働基準監督官が取り合ってくれます。

なぜなら、これらは最低賃金法や労働基準法に違反し、言うなれば泥棒と同じ行為だからです。

しかしながら、「一方的に会社をクビになった」、「解雇権の濫用だ」と監督署で叫んでも、労働基準法で定められている最低限の義務を使用者が履行している限り、監督官は取り合ってくれません。

なぜなら、雇用契約の一方的な打切りである解雇は民事上のトラブルに該当するからです。

司法警察職員である労働基準監督官は、警察官と同様に民事不介入を原則としています。

この辺りを切り分けて考えないと、解雇というものの本質が理解できないのです。

労働基準法は解雇をどのように制限しているのか?

そもそも労働基準法は労働条件の最低基準である以上、労働基準法上の解雇制限も、みなさんが思っているほど強くないのです。

では、どれくらい弱いか説明します。

解雇制限規定(労働基準法19条)

労働基準法において解雇してはならないとされているのは次の2つの場合です。

  1. 業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業する期間+30日間
  2. 産前産後の女性が休業する期間+30日間

みなさんは、「あれ、これだけ?」と思われるかもしれませんが、労働基準法で解雇を制限しているのはこれだけなのです。 

1について

業務上のけがや職業性の疾病によって、療養のため休業中であるにもかかわらず解雇されたらたまったものではありません。

労働基準法では、業務上のけがや病気のために療養して会社を休んでいる期間と、復帰後30日間は、解雇してはならないことになっています。

しかし、療養期間があまりに長期間にわたり、療養開始から3年を経過した場合においては、平均賃金の1200日分打切補償を支払えば解雇できることになっています。

また、業務上のけがや職業性の疾病によって療養中であっても、休業せず出勤していれば、解雇は制限されません。

平均賃金とは、算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいいます(労働基準法12条)。

なお、私傷病や通勤災害の場合、解雇は制限されないことになっています。

2について

産前産後の休業期間とは次の期間をいいます。

出産予定日より6週間(多胎妊娠の場合にあっては14週間)前以内+産後8週間

この期間に30日を加えた期間は、産前産後の女性を解雇してはなりません

ただし、産前期間中であっても労働者が就労中であれば、解雇は制限されません。

解雇予告手当について

上記の解雇制限規定を除けば、労働基準法は解雇を制限していません。

ただし、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告をしなければなりません

これに対し、解雇予告を行わず即日解雇するのであれば、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません

この時支払われた手当を解雇予告手当といいます。

「14日前の予告+16日分以上の平均賃金」という具合に解雇予告と解雇予告手当を併用することも可能です。

労働基準法上の解雇制限まとめ

上記をまとめると、労働基準法において解雇に関し制限をかけているのは次の4つの場合です。

  1. 業務上のけがや疾病によって休業中でまだ療養開始から3年が経過していない労働者を解雇してはならないこと
  2. 産前産後で休業中の労働者を解雇してはならないこと
  3. 労働者(ただし1・2の場合を除く)を解雇する場合は、少なくとも30日前の解雇予告が必要であること
  4. 30日前未満に解雇予告する場合は、短縮された期間に相当する平均賃金以上の解雇予告手当を支給すること

 1・2の労働者を解雇したり、3・4を遵守しない場合、労働基準法違反となり監督署は使用者を取り締まることができます。

逆に言うと、上記以外の解雇事案については、監督署は取り締まれないということです。

このように、労働基準法における解雇制限規定は思っていたほど強固ではないことがわかります。

解雇権濫用法理とは?

労働基準法において解雇規制は意外と弱いのに、日本では解雇規制が強いといわれる所以はどこにあるのでしょうか?

 先述した通り、使用者は基本的に労働者の解雇権を有しています。

労働基準法で規定された必要最小限のルールさえ守れば、使用者は労働者を解雇しても、処罰されないことになっています。

だからと言って、使用者が労働者の解雇を乱発しても良いものなのでしょうか?

次の条文をご覧ください。

労働契約法16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 いわゆる解雇権濫用法理を規定した条文です。

労働基準法によると、使用者は基本的に解雇権を有するものの、労働契約法16条によって、「これを濫用してはならない」とされています。

労働者の解雇が解雇権の濫用にあたるかどうかを判断するのは裁判所です。

 でも、「客観的に合理的な理由を欠き」とか「社会通念上相当であると認められない」とか言われても、非常に曖昧ですよね。

このように基準が曖昧なため、個別の事案で労使双方の主張が食い違うのは必至です。

それに加え、裁判官の心証も大いに影響します。

だから、いざ裁判となっても、結果を予測するのは極めて困難なのです。

労働契約法には、解雇権濫用に相当する具体的な基準がどこにも書かれていない

 労働契約法は、平成20年3月から施行された比較的新しい法律です。

労働契約法は、これまでの数々の個別労働紛争事案の判例法理を体系化し条文としてまとめたものです。

しかしながら、この法律の条文には、どのような場合が解雇権の濫用にあたるのか明確な基準が存在しません。

条文そのものが判例法理を体系化したものである以上、過去の判例を頼りにかろうじて予測するより他ないのです。

解雇権の濫用をめぐる大企業と中小企業のダブルスタンダード

実際に使用者が解雇権を濫用したかどうかを認定するためには、民事訴訟に頼るよりほかありません。

民事訴訟に頼れば、長期化は避けられず、結果の予測困難性の問題もつきまといます。

中小ブラック企業の労働者にとっては、長期間裁判で不当解雇を争うというのは大変負担です。

つまり、日本で解雇規制が強いかどうかを決定付けているのは、解雇権の濫用をめぐって使用者と裁判で争う余力があるかどうかということだったのです。

ここに、日本で解雇規制が強いとされる本質が隠されています。

このようにして、解雇権の濫用をめぐって、大企業と中小企業とのダブルスタンダードが形成されていったのです。

しかし、大企業の正社員であっても、原職の使用者と裁判で争う覚悟が本人に無ければ、解雇規制が強いとは言いません。

解雇の基準を曖昧にしたままでは、労働者にとって何の利益にもならない

 我が国においては、仮に裁判において解雇無効と判断されても、公正かつ透明性の高い金銭解決の手段が用意されていません

日本では、1990年代初頭のバブル崩壊後の急激な経済情勢の変化を皮切りに、解雇等の個別労働関係紛争が急増していきました。

それまでは、民事訴訟に頼るほかなく、紛争解決に至るまで長期間を要していました。

これでは労使双方の紛争当事者にとって何のためにもなりません。

そこで、紛争の迅速な解決を目指して、新しい制度として、個別労働紛争解決促進法に基づく「あっせん」や、労働審判が整備されました。

しかしながら、これらの手段によっても、解決方法に公正・客観的な基準が存在しません

したがって、解決の水準や解決に要する時間の予測は極めて困難で、事案や利用する制度に応じて解決内容に大きな差がありました。

そこで、近年盛んに言われているのが、解雇の金銭解決の基準を明確化することです。

これは、労働市場の流動性の高いEU諸国で一般的に導入されている手法です。

 現状では、解雇による金銭補償の基準が曖昧なため、ブラック企業による不当な解雇にあっても泣き寝入りに終わっている場合がほとんどです。

解雇事案における解決金に下限を設定することで、これまで不当解雇にあっても解決金が全く得られなかった労働者に福音がもたらされることになります。

一方で、裁判で使用者と争う余力のある労働者も、金銭補償の基準を明確化することで、長期間に及ぶ裁判が回避されるメリットがあります。

特に、原職に復帰することを希望しない当事者にとっては、迅速に紛争を解決し、転職活動に専念できます。

このように、金銭解雇の基準を明確化することは、ほとんどの労働者にとってメリットがあるのです。

金銭解雇の基準を敢えて曖昧にすることで得をする人はいったい誰なのでしょうか?  

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まとめ

世代間格差を無くし、正規・非正規の壁も取り除き、日本全体として労働生産性を上げるにはどうしたら良いか解決の糸口を探ることこそ喫緊の課題であるはずです。

少子高齢化の現代にあって、高度成長期下の日本型雇用という時代錯誤の成功体験にしがみつき、自らの体制だけを維持しようとする姿勢は、当然非難されてしかるべきでしょう。 

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建設的な議論せずに 反対に終始し、譲歩だけを引き出そうとする姿は、ひたすら瀬戸際外交を繰り広げるどこかの国と何ら変わりはないのです。