Mesoscopic Systems

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会社説明会でメモ片手にひたすら頷く行為はヘッドバンギングと同じ

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日本型雇用と「シューカツ」

 皆さんは、ヘッドバンギングという言葉はご存知でしょうか。ウィキペディアには次のような説明がなされています。 

 ヘッドバンギング (英: head-banging) とは主にロック、ヘヴィメタル、ハードコアなどのギグ、ライヴコンサートで見られる共鳴的動作の一つ。リズムに合わせて、頭を激しく上下に振る動作である。しばしば略してヘドバンとも呼ばれる。

 黒髪で似たようなスーツを着こなし、説明会の最前列でメモを片手に共感アッピールをひたすら醸しだすためにヘッドバンギング…このおなじみのシューカツの光景を異様に感じたことはないですか。他国に類を見ないシューカツ生のこの行動特性は、日本型雇用と深く関わりがあります。今回は、この点について考えます。

「シューカツ」とは

シューカツ→就職活動の略

  一般的に言って就職活動は職業に就くための活動をいいますが、日本では多くの場合、新規学卒予定者が企業とあらかじめコンタクトを取りメンバーシップに加えてもらうための活動をいいます。すなわち、日本における「シューカツ」は、厳密には就職活動のことを言わず、就社活動を意味します。

 実は、シューカツと日本型雇用とは深い関りがあります。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は、日本の「シューカツ」について次のような解説をしています。

 特定の職務について技能を有する者を必要のつど募集、採用するという本来のあり方は影を潜め、企業の命令に従ってどんな仕事でもこなせる潜在能力を有する若者を在学中に選考し、学校卒業時点で一括して採用するという、諸外国に例を見ない特殊な慣行が一般化した。

 この新卒一括採用制度においては、学生は特定の職務に関する職業能力をその資格などによって示すという他国で一般的なやり方がとれないため、ひたすら「熱意」と「素質」を訴えるほかない。

 近年の大学生は卒業の 1 年以上前から「シューカツ(就職活動)」に励むが、それはいかなる意味でも「職(ジョブ)」に「就」くための活動ではなく、会「社」に「入」ってメンバーシップを得るための「入社活動」でしかない。

(出所:『産業競争力会議雇用・人材分科会ヒアリング用資料』2013.11.05

 これ以上ないくらいの的を射た表現の数々です。浜口氏が指摘している通り、諸外国では、ある職種において欠員あるいは補充要員が発生するたびに、その職種において特定の技能・技術を有する人材を採用するために求人をかけます。一方、我が国の新卒一括採用市場においては、特定の職務遂行能力や資格がほとんど考慮されません。

正社員の採用にはジョブ・ディスクリプションが存在しない

 日本では、大企業正社員を中心にメンバーシップ制を採用しています。そして、メンバーシップへの入口はほぼ一律に新規学卒者に開かれています。その帰結として、他国では類を見ない「新卒一括採用」という特異な採用形式を日本はとっています。

 日本の大企業のほとんどは、未だ日本型雇用という雇用慣行を継続しています。日本型雇用のもとで正社員は、勤務地・仕事内容・労働時間・出向先を無限定とする包括的労働契約を使用者と締結します。したがって、正社員の採用に関して明確なジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が存在しません。職務内容も限定されずジョブ・ディスクリプションも存在しない以上、特定の職務に関する専門性が問われないのはある意味自然なことなのです。 

「シューカツ」では何を選考基準にしているのか

 特定の職務に関する専門知識・技術・技能・資格など客観的指標を判断要素にしないのであれば、企業はいったい何を見て採否を判断しているのでしょうか。それは、使用者からの一方的な人事権行使に対するストレス耐性が強いか弱いかです。すなわち、ストレス耐性という曖昧な評価基準で採否を決定付けています。選考過程において、ストレス耐性が他の候補者より優に存するとみなされたとき、採用に至ります。

 しかしながら、医学的な見地から実際にストレス耐性が強いか否かについては考慮されません。あくまでも、面接官がそのように判断したならばの話です。医者でないのにストレス耐性を客観的に定量化できるでしょうか。すなわち、この曖昧な評価基準こそがミスマッチの要因となっているのです。 

なぜストレス耐性を最重要視するのか

 パナソニックの大リストラに象徴されるように、終身雇用はもはや絵に描いた餅になってしまっています。 

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 しかし、大企業正社員の採用活動においては、未だ終身雇用を前提にしています。終身雇用を前提とすれば内部労働市場による雇用調整に頼らなければならないので、使用者による人事権行使に唯々諾々と従う従業員が必要となります。大企業ほど、配転や異動が多く、広範囲の勤務地・職務などへの対応能力が必要となってきます。これらに対し、我慢強い従業員が欲しいだけなのです。

改めて「シューカツ」を振り返る

 以上の観点を踏まえると、「シューカツ」の一種独特の異様な風景にも理由があることがわかります。説明会における「ヘッドバンギング」を例に考えてみます。

 一口に説明会と言っても、会社説明会に限らずIR説明会や行政担当者説明会などいろいろなものが存在します。IR説明会や行政担当者説明会において、説明者に対し自分がストレス耐性が強い事をアピールする必要はありません。会社説明会におけるヘッドバンギングは、ストレス耐性のシグナルが条件反射となって現れたに過ぎないのです。すなわち、会社説明会でヘッドバンギングをする原理は梅干を見ただけでつばが出てくる原理と何ら変わりはないのです。

まとめ

 一口にストレス耐性と言っても、どれくらいの不条理まで耐えうるかは実際に経験してみないとわかりません。本来就職活動は、自分の適性に合致した職業を選択する活動であるはずです。欧米のように、インターンシップ等でまずはどこかで働いてみて次第に自分の適性を見極めていくほうが「職に就く」という意味においては適切でしょう。万が一、合わなければ別の会社に移るか別の職業を選択すればよいだけです。

 就職とは、どこでどんな仕事をやらされるかわからないけれど還暦までとらえあずは働ける会社をどこか一つ選ぶことではありません。「パブロフの犬」がえさを得ても、それを就職とは決して言わないのです。