Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

電通に対する捜査は国策ではない 電通社長、法人としての責任認める

f:id:mesoscopic:20170426175046j:plain

はじめに

www.sankei.com

 産経新聞さん、個人全てを不起訴処分というのは誤報ではないでしょうか?

今回の電通の書類送検に関しては、行為者たる個人も書類送検されています。

参照元:http://osaka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/osaka-roudoukyoku/H29/soken/290425-k.pdf

この、産経新聞の報道があったのは昨日で、電通が書類送検されたのも昨日です。

検察庁は当該個人を即日不起訴処分とはしていないはずです。

また、電通に対する捜査は国策ではありません。

国策捜査とは、国民の意思そっちのけに、権力者が恣意的な捜査をすることをいいます。

電通の捜査は厚生労働省「過重労働撲滅特別対策班」(通称 かとく)だけが望んでいたことではありません。

過重労働の社会的関心の高まりから、違法長時間労働の捜査は国民の多くが望んでいます。

 記事では、「電通に関しては、国策といわれても仕方がないだろう」とする検察幹部の話を伝えています。

では検察は、「我々は国策捜査を一度もやったことが無い」と国民に堂々と胸を張って言えますか?

両罰規定について

 しかし、この産経の記事、国策捜査と言って誤った印象操作をする一方で、一つの重要な側面に着目しています。

それは、労働事件において大企業の上層部を行為者として処罰することがいかに難しいかということです。

行為者として処罰するには、違法性の認識があったかどうかが問われます。

この、違法性の認識を立証することが極めて困難なのです。

労働基準法に次のような規定があります。

労働基準法121条

この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。

2  事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。

 この規定のことを両罰規定と言います。

法人処罰規定について

第1項は、いわゆる法人処罰規定について書かれた条文です。

つまり、労働基準法違反の行為者が、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても罰則が適用されるというものです。

事業主が法人の場合、その代表者が事業主となります。

報道で、「法人としての電通を書類送検」、などと言っているのは、この条項に基づいています。

同条項ただし書きにあるように、法人としての刑事責任を追及するには、法人の代表者が違反防止措置を行ったかどうかが論点になります。

ところが、電通の山本敏博社長が「社員の勤務管理が不十分だった」と法人としての責任を認める説明をしていることがわかりました。

朝日新聞の報道によると、山本社長は36協定違反の違法長時間労働があったことを認め「もっと取るべき対策があった」と話しているそうです。

www.asahi.com

 したがってこの場合、同条第1項の規定にしたがって、電通の刑事処罰が検討されることになります

行為者処罰規定について

 問題は、第2項です。

事業主が当該違反事実に対して違法性の認識があり、必要な防止措置や是正措置を講じなかったり、違反を教唆した場合、事業主も行為者として罰せられます。

例えば、電通の場合、36協定違反の違法長時間労働が行われていることを社長が知りつつもそれを黙認していたり、その実行を決意せしめていた場合、社長が36協定違反の違法長時間労働を実際に指示・命令していなくても行為者と同じ罰則が適用されます。

しかし、 「部下が勝手にやったことだから」とか「そんなことを知っていたら直ちに止めたはずですよ」とか言って知らぬ存ぜぬを押し通されてしまったら、この立証は非常に難しいですよね。

事業主に限らず、行為者がどこまでの範囲にまで及んでいたかという問題でも同様です。

労働基準法違反の直接行為者たる直属の上司が、さらにその上司から指示されて違法長時間労働を指示したことなのか、あるいは、直属上司が忖度して勝手に支持したことなのか、その判別は非常に難しいのです。

 事業主との距離が近い中小零細企業においては事業主に対し行為者としての両罰規定が適用されることがあるかもしれませんが、指揮命令系統が大規模かつ複雑な大企業において、事業主や上層部を行為者として処罰するということは非常に困難なのです。

 大阪労働局は、平成29年4月25日、株式会社電通とほか1名を労働基準法違反の容疑で、大阪地方検察庁に書類送検しましたが、罪条は同法第121 条第1項のみで、同法同条第2項の適用はありませんでした。

つまり、それだけ、事業主を行為者として罰することは非常に困難なのです。

まとめ

 報道の通り、電通の山本社長が法人としての罪を認めたのであればそれは当然のことでしょう。

なぜならば、電通は労働基準監督署による是正勧告を何度も受けていたからです。

これでは、法人としての責任追及を免れないでしょう。

また、高橋まつりさんの過労自死が労災認定されてから、今回の一連の電通事件が報道されるようになりましたが、これだけ大きな問題になったのには理由があります。

それは、電通が同じことを繰り返したからです。

電通では、高橋まつりさんの場合と同じように、過去にも新入社員の過労自死が発生しています。

平成3年8月27日のことです。

遺族が提訴し、最高裁まで争われ、同社が遺族に1億6800万円の賠償金を支払うことで結審しました。

 電通は同じことを繰り返した以上、口先だけの反省では検察官にも裁判官にも通じないでしょう。