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有効な36協定を締結せずに時間外・休日労働させると労基法違反になる

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はじめに

 本日、飲食チェーン和食さとなどを運営するサトレストランシステムズの初公判が大阪簡裁で開かれました。大阪区検が今年2月、サトレストランシステムズを従業員に違法な長時間労働をさせていた罪で略式起訴していましたが、大阪簡裁が「略式不相当」と判断し正式な公開形式による刑事裁判を開くことを決定していました。本件に関しては以前記事にしたことがあります。

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 検察側は、「同社は有効な労使協定を締結していなかったにもかかわらず2015年1~11月の間に従業員7人に対し月40時間超の残業をさせた」と冒頭陳述し、罰金50万円を求刑しました。これに対し、サトレストランシステムズの重里政彦社長は起訴内容を認め、「心より反省している。さらなる改善努力を行っていく」と述べました。判決は6月1日に言い渡される見通しです。

有効な36協定を締結しない時間外・休日労働は労働基準法違反

 労使間で36協定を締結せずに使用者が労働者に対し法定労働時間を超える労働を強いる行為は、例えその超過労働分がどんなに短い時間のものであっても、労働基準法違反になります。なぜならば、36協定を労使間で有効に締結し行政官庁に届け出ることによってはじめて、法定労働時間を超える労働(時間外労働)をさせることの免罰的効力が発生するからです。また、労働基準法35条は、毎週少なくとも1回以上あるいは4週間を通じ4日以上休日を与えなければならないと規定しています。つまり36協定は、その定める限りにおいては休日労働をさせても労働基準法35条に違反しないという免罰的効力も有しているのです。

 報道によると、「有効な労使協定を締結していなかった」と検察の冒頭陳述においてありました。では「有効な労使協定」とはどのようなものを意味するのでしょうか。今回は、この点について考えます。

労使協定とは

 労使協定の定義は次の通りです。

当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定

 この文言は、労働基準法の条文の至る所で出てきます。時間外休日労働について規定した労働基準法36条にも、同じ文言が出てきます。数ある労使協定のうち労働基準法36条の、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」のことを特別に36協定と言います。

事業場とは

 36協定は、事業場を単位として締結することが必要です。事業場とは、労働基準法における適用事業の単位のことを言います。

平成11年3月31日基発第168号

 事業とは、必ずしも経営上一体をなす支店、工場等を統合した全事業を指すものではなく、一定の場所において相関連する組織のもとに行として継続的に行われる作業の一体をいうものである。

 したがって、一の事業であるか否かは、主として場所的観念によって決定すべきものであり、同一の場所にあるものは原則として分割されることなく一個の事業とされ、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とされる。

 上記の解釈例規によれば、ある会社で本社・支社・工場・営業所などがそれぞれ別の場所に存在した場合、それぞれが一つの事業とみなされます。したがって、36協定も、原則として本社・支社・工場・営業所それぞれの事業所において別々に締結する必要があります。

事業の適用単位の例外

 このように事業の適用単位は場所的概念で決定されますが、次のような例外があります。

①同一の場所にある事業の例外

 同一の場所にあっても、著しく労働の態様が異なり、従事労働者や労務管理等が明確に区分され、主部門と切り離して適用することが労働基準法上適切に運用できる場合は、一の独立の事業とされます(例:工場内の診療所・社員食堂など)。

②場所的に分散している事業の例外

 一方、規模が非常に小さく、一の事業という程度の独立性のないものについては、直近上位の機構に一括されます(例:新聞社の通信部など)。

 事業の適用単位の例外に該当するか否かは、規模・労働の態様・事務能力等を勘案して個別に判断する必要があるので、不明であればあらかじめ労働基準監督署に確認する必要があります。

本社一括届け出について

 このように、36協定はそれぞれの事業場において締結される必要がありますが、届け出自体は本社が一括して、本社の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出ることもできます(厚生労働省:36協定の本社一括届け出について)。ただし、協定事項のうち、「事業の種類」・「事業の名称」・「事業の所在地」・「労働者数」以外の事項が同一のものに限られます。したがって、締結当事者が労働組合の場合、各事業場の労働者の過半数で組織された労働組合である必要があります。

締結当事者について

労働組合について

 労働組合とは労働組合法2条に規定される団体又はその連合団体のことをいいます。36協定締結当事者が労働組合の場合、全ての事業場においてその労働組合が当該事業場の労働者数の過半数を組織している必要があります。仮に、一部の事業場において、過半数を組織する労働組合がない場合は、その事業場の労働者の過半数を代表するものを選任する必要があります。

労働者の過半数を代表する者について

 労働者の過半数を代表する者については、次の要件を満たす必要があります。

労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと

 労働基準法における管理監督者とは、使用者と一体不可分の関係の立場にある人たちのことをいい、労働時間管理の適用除外とされています。管理監督者が労働者の過半数を代表する者として36協定の締結当事者に選任されることは法の趣旨に反しふさわしくないので、過半数代表者の選任対象から除外されているのです。管理監督者等については次の記事に詳細を記述していますので参考にしてください。 

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過半数代表者の選出方法について

 過半数代表者の選出にあたっては、労働者の過半数がその人を支持していることを明らかにする必要があります(例:投票、挙手など)。また、選出にあたっては、正社員・契約社員・パート・アルバイトに関わりなく直接雇用をされている限り、その事業場における全ての労働者が手続きに参加できるようにする必要があります。

 事業主が特定の労働者を過半数代表者に指名することは、使用者の意向が反映したものになるので、その手続きは無効と判断されます。また、社内親睦会幹事を自動的に過半数代表者にした場合も、親睦会と36協定とは別の話ですので、その手続きは無効です。

派遣労働者について

 派遣労働者を36協定により時間外・休日労働させる場合、派遣元事業場の使用者が36協定を締結する必要があります。この場合、派遣中の派遣労働者を含め派遣元の全ての労働者の過半数の同意を得る必要があります。なお、派遣先において36協定を締結する際は、派遣労働者をその数には含めないことになっています。

協定内容について

 協定内容については、労働基準法施行規則に詳しい定めがあります。

労働基準法施行規則16条  

使用者は、法第三十六条第一項 の協定をする場合には、時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数並びに一日及び一日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日について、協定しなければならない。

2 前項の協定(労働協約による場合を除く。)には、有効期間の定めをするものとする。

 労使で協定すべき内容は、次の通りです。

  • 具体的事由
  • 業務の種類
  • 労働者の数
  • 一日及び一日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日

 「一日を超える一定の期間」とは、具体的には、1日を超え3か月以内の期間及び1年間です。

有効期限について

 36協定には有効期限の定めが必要です。有効期限の長さには特に制限はありませんが、1年以内が望ましいとされています。また、36協定の有効期間について自動更新が為されている場合であっても、更新の際、労使の締結当事者いずれからも異議申し立てがなかったことを示す書面を労働基準監督署長に提出する必要があります。但し、労働協約による場合は労働組合法15条の規定が適用され、有効期間を必ずしも定めなくてもよいこととされています。

その他

 労働基準法13条の規定によれば、労働基準法に定める基準に達しない労働契約は無効とされます。したがって、36協定を締結せずに時間外・休日労働をさせることは、仮に労働者が合意したとしても無効です。また、36協定の内容は労働者に周知させられなければなりません(労働基準法106条)。さらに、就業規則や労働協約等に36協定の定めるところにより労働させることのできる規定がなければ、労働者が時間外・休日労働を行う民事上の義務も発生しません。

 以上のように、36協定の締結の際には非常に細かな規定がたくさんあります。その他にもたくさんの細かい定めがあります。上記のような手続きに厳密に従って36協定を締結しなければ、有効とは判断されません。

まとめ

 筆者は和食さとに何度も足を運んだことがあります。サービスも行き届いていて美味しいと思ったからです。しかし、サトレストランシステムズの労働基準法違反を知ってから、和食さとには足を運ばなくなりました。サトレストランシステムズの社長は「さらなる改善努力を行っていく」と反省の弁を述べました。従業員が違法残業のもとで働かされていたかと思うと、食事をしても全然楽しめないので改善努力を怠らないでください。