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OECD対日経済審査報告:労働者解雇に関する明確なルールを設けるべき

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はじめに

電通支社に対する書類送検が間近と言われています。 

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 厚生労働省は、電通の関西・中部両支社と幹部数人の書類送検を視野に捜査を進めています。

今月中にも労働基準法違反容疑で書類送検が行われる見通しです。

確かに、電通をはじめ違法長時間労働を行うような経営体質は間違っています。

しかし、電通を書類送検しただけで日本の働き方が変わるでしょうか?

筆者は、長時間労働から脱却し日本の働き方を根本から変えるためには、雇用の流動化を進める必要があると考えています。

これは、筆者に限ったことではありません。

海外からも日本に対し、同様の警鐘を鳴らしています。

日本型雇用というガラパゴスな働き方を続けていると、日本は、世界から取り残され、気が付いてみたら取り返しがつかないくらい国際競争力が低下しているでしょう。

グローバル化の波に乗り遅れないために、海外からの警鐘にも謙虚に耳を傾けるべきです。

以下に、海外が日本の雇用・労働政策に対してどういう意見を抱いているのか紹介します。

OECD対日経済審査報告

 2017年4月13日、2017年OECD対日経済審査報告が公表されました。

この報告書は、OECDの経済開発検討委員会(EDRC)というところが発行しています。

EDRCは、OECD加盟各国について約2年周期で、マクロ経済及び構造問題について、審査を実施しています。

 加盟各国及び新規加盟候補国についての審査の結果は、OECDエコノミック・サーベイ(国別審査報告書)という形で、委員会の見解として採択・公表されています。

現在のEDRC議長はWilliam White前国際決済銀行調査局長(カナダ)で、副議長はドイツ、メキシコの方です。

この経済審査報告は、税制・財政・雇用労働など経済政策全般についての審査結果を、委員会の見解として報告したものですが、このうち雇用労働に関わる現状分析と主な提言について紹介したいと思います。

雇用労働政策に関する評価と提言

最低賃金と長時間労働について

賃金を引き上げるため、政府は最低賃金をさらに引き上げるべきである。

最低賃金は、過去4年間に名目で 10%近く引き上げられたが、依然、その水準は中位賃金の 40%と、OECD 諸国の中で最も低い水準にある。

さらに、すべての残業について、労働者に対価が支払われることが、企業に求められるべきである。

2016年9月に、残業をした労働者の 38%は、残業代が支払われていない (Research Institute for the dvancement of Living Standards, 2016)。

過去数十年間、正規雇用者の超過勤務時間数は、上昇トレンドにある。

実際問題として、企業経営者と労働組合は超過勤務時間を無制限として合意することもできる。

政府は、超過勤務時間の拘束的な上限を導入すべきである。

労働者が超過勤務労働を長時間行わなくとも生活ができるよう、超過勤務の上限の議論は、労働生産性のさらなる強調と賃金上昇ととともに行われるべきである。

法的上限により、未払い、未報告の超過勤務問題への対策も必要となろう。

最後に、仕事文化、習慣を変えていくため、政府はよいお手本となるべきである。

OECD Economic Surveys: Japan© OECD 2017

 日本の最低賃金はOECD加盟国の中でも最低レヴェルです。

平成28年度地域別最低賃金は、最高が東京都の932円、最低が宮崎県・沖縄県の714円、全国加重平均で、823円です。

この倍くらいの金額にしないと先進国とは言えないでしょう。

また、サビ残の問題についてはOECDの指摘通りです。

40%近くの人が、残業代が正当に支払われていないというのは衝撃の数字ですね。

長時間残業をしているのは、多くの場合正社員と思われます。

しかし、サビ残の問題を解決しなければ、正社員であっても、時給ベースで換算すれば低賃金で働いているのと変わりありません。

「政府は、超過勤務時間の拘束的な上限を導入すべきである」という指摘については、「月100時間未満」という上っ面の上限設定で政労使の決着を見ました。

これでは、過労死レヴェルと本質的には差は無く、多くの外国人はこの結論に首を傾げていることでしょう。

また、この節の末文は、長時間労働の仕事文化を本腰で変えるのなら、厚生労働省の官僚は率先して、夜遅くまで明々と電気を付けて仕事をしていないでさっさと帰宅しろっていうことを言っています。

労働市場の改革について

労働市場の二極化を打破するためには、労働者解雇に関する明確なルールを設けることを含め、正規雇用労働者の雇用保護を減らす、非正規労働者の社会保険の適用範囲と職業訓練を拡大し、最低賃金を引き上げるといった包括的な戦略が必要である(OECD,2015a)。

雇用保護の改革の難しさを考えると、日本はイタリアの取った手法、つまり、新たな労働者には単一の契約を導入する一方で、現存の雇用者の既存の権利は適用除外にするという手法に従うべきである (OECD, 2017d)。

OECD Economic Surveys: Japan© OECD 2017

 この点については、筆者も本サイトで何度もその必要性について言及してきました。

 下記は、日銀レポートに基づいて、解雇規制緩和によって高い雇用者保護が維持されるという客観的証拠について記した記事です。

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 労働市場の二極化は労働生産性の低下に大きく寄与するため、早速改めるべきでしょう。

この節の末文が面白い指摘だと思います。

解雇規制緩和というと何かと既存の権利を有した雇用者からの大いなる反発が考えられます。

それならいっそのことそういう人は適用除外にしてそのままでいてもらったらいいという指摘です。

今後の持続可能性を考えたら、そこまでしてでも解雇規制緩和は導入すべきということですね。

生産性向上と企業の退出政策の促進について

企業間の格差の拡大は、パフォーマンスの悪い企業が市場にいつまでも居残り、非生産的な活動に資源を閉じ込めてしまうことにより、一部説明できる。

2013年には、少なくとも3年間、金利支払いを行うのに十分な利益を上げられていないということで定義される、生き残れない企業(non-viable firm)が日本には数多く存在した。

そうした会社の生き残りにより、生産性は低下し、市場を混雑したものにしている。

日本では、2008年から2013年の間こうした企業の存在により、投資と雇用は、それぞれ累積で 2½%、¾%低下したと推計され、それによって健全な企業の拡大は阻害されてきた(Adalet McGowan et al., 2016)。

生き残れない企業の存在は、他の先進国の約半分の水準に過ぎない日本の低い廃業率を反映している。

 日本の企業破産制度は非常に効率的である一方(World Bank, 2017)、個人保証の幅広い利用と個人の破産制度の厳格性は、企業の退出の重大な障害となっている

中小企業の約 60%は、経営者の個人保証に拠っており、このうち 10.5%が第三者による個人保証の提供を受けている (Uesugi, 2010)。

78%のケースで、個人保証の額は、経営者の資産を超過している (Mitsubishi UFJ Consulting, 2010)。

生き残れない企業の秩序ある退出は、債権者、債務者の双方に対して法廷外での解決を促す『経営者保証に関するガイドライン』の活用を通じ、関係者間の協調がさらに図られることにより促進されるだろう。

 OECD Economic Surveys: Japan© OECD 2017

 日本においてブラック企業の問題が後を絶たない隠された理由のうちの一つです。

筆者はこれまでに、ブラック企業の問題が後を絶たない理由として、

  1. 入社に至るまでブラック企業であることの予見困難性
  2. 労働基準監督官の数の絶対的な不足
  3. 労働者が労働法の知識に欠けていること

の3つを挙げていました。

OECDレポートに記述されたこの重要な事実は、ブラック企業をなかなか市場から退出させられない日本独特の構造的な問題を示唆しています。

上記では、パフォーマンスの悪い企業(すなわちブラック企業)が市場にいつまでも居残り続けるのは、個人保証の幅広い利用と個人の破産制度の厳格性に起因していると言及しています。

生産性を上げるためには産業の新陳代謝を促進すべきですが、そのためには、パフォーマンスの悪い企業はどんどん潰れる必要があります。

しかし、厳格な個人信用保証制度と破産制度を改めなければ、ブラック企業はいつまでも居座り続け、結果として新規イノベーションも起こらず、生産性は低いままでしょう。

まとめ

OECD対日経済審査報告は、我々に非常に良い指摘の数々を与えてくれます。

筆者の意見もこれらの提言とほぼ同じですね。

OECDの指摘通り、終身雇用をはじめとする日本的雇用慣行は制度疲労を起こし、もはや臨界点にまで達しています。

 

日本型雇用慣行を維持したまま国際競争を勝ち抜けると信じることは、日本製の液晶やガラケーが未だ世界で売れると信じることと何ら差は無いのです。