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労基署が書類送検したら検察はどれくらいの確率で起訴をするか?

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はじめに 

 厚生労働省労働基準局は労働基準行政の活動状況を報告するため、毎年、労働基準監督年報という報告書を公表しています。ここでは、平成27年労働基準監督年報(第68回)から読み解かれる様々な事実について紹介したいと思います。

労働基準監督年報について

 労働基準監督年報には、労働基準監督署による監督指導の実績が報告されています。そのうち重要な点を紹介します。 

  • 平成27年中の監督実施件数 169,236件
  • うち定期監督 133,116件
  • 申告監督 22,312件
  • 再監督 13,808件

となっています。

 申告監督とは、労働者等からの申告に基づいて実施される監督のことで、定期監督件数の約6分の1に過ぎません。労働者からの申告とは、労働者自らが監督署に出向き、事業所が労働基準法や労働安全衛生法等に違反している事実を監督官に伝え、事業所に監督を実施してもらうようお願いすることを言います。申告は労働者としての当然の権利として労働基準法104条に規定された法律行為です。申告監督の件数を上げれば、監督官も効率よく監督指導を行うことができ、結果としてブラック企業撲滅に繋がります。「この会社ちょっとおかしいな?」と思ったら、監督署に躊躇せずにチクりましょう。 

定期監督等 

 平成27年中に定期監督等を実施した事業場数133,116件のうち何らかの法違反があったものは、92,034件で違反率は69.1%となっています。

 法律条項別の違反率は、

  1. 労働時間30.0%
  2. 安全基準27.7%
  3. 健康診断21.9%
  4. 割増賃金21.1%
  5. 労働条件の明示16.9%
  6. 就業規則11.6%

の順に多くなっています。

 一方申告監督については、新規受理件数の85.1%が賃金不払いのケースです。サビ残等がいかに蔓延しているかがわかります。

司法処分

 平成27年中に、労働基準監督官が司法処分として検察庁に送検した件数は966件で、その内訳は、

  • 労基法違反が402件で全体の41.6%
  • 安衛法違反が550件で全体の56.9%
  • 最賃法違反が14件で全体の1.5%

となっています。

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 送検件数966件のうち、検察官が起訴した件数は404件で、起訴率は42.5%となっています。すなわち、標題の答えは、42.5%(平成27年の場合)です。また、検察官が起訴した404件全てが裁判で有罪となっており、うち懲役1件、正式裁判による罰金3件、略式命令による罰金400件となっています。

 平成27年を含めた直近5年間の起訴率の推移をグラフに表します。

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 平成24年から起訴率が右肩上がりであることがうかがえます。

違法労働の罪での公開裁判が最近増加傾向にある

 起訴率が最近上昇傾向にあるのは、労働基準監督署による捜査の精度が上がったことも考えられますし、ブラック企業を許さないとする検察官の強い意志の表れかもしれません。いずれにしても、ブラック企業撲滅に向けて良い傾向だと思います。

 平成27年に検察官が起訴した404件の事件のうち、400件が略式手続きによるものでした。略式手続きとは、簡易裁判所が管轄する事件で、被疑者がこの手続きを取ることに異議が無く、100万円以下の罰金を科しうる事件に対して取られる手続きのことを言います。略式手続きにおいては、検察官が簡易裁判所に略式起訴し、公判を行わずに裁判所から略式命令が出されます。

 労働基準法の罰則規定は、罰金が100万円以下のものが多く、ほとんどの場合この手続きが取られます。しかし、「裁判所がこの手続きによることが相当でないと思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない」とされています。刑事訴訟法463条にその定めがあります。

大阪簡裁で連発されている略式命令不相当の決定 

 最近、違法な時間外労働などで企業が略式起訴された事件で、大阪簡裁が、略式命令が不相当として、通常の規定による審判をするケースが相次いでいます。通常の規定による審判とは、公開形式による正式な刑事裁判(公判)を意味します。裁判所によるこの流れは、長時間労働などが社会問題となる中、経営者に罪の重さを自覚させようという裁判所の姿勢の表れではないでしょうか。

 大阪簡裁による最近の略式命令不相当の決定をまとめます。

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 このうち、上記2つの事件については、今年1月公判が開かれました。裁判の大まかな流れを示します。

スーパー球出

被告人質問で「私の管理不足。大変申し訳ないと反省しています」と社長が謝罪。

今年2月、罰金100万円、同70万円の判決

ラーメン店店長

今年3月、罰金20万円の判決

サトレストランシステムズについて

 事件の大まかな流れは次の通りです。

  • 2016年9月29日、大阪労働局(かとく)は、「和食さと」「すし半」「さん天」などを展開する飲食チェーン、サトレストランシステムズ(大阪市中央区)を、労働基準法違反容疑で書類送検
  • 容疑は、最長で1カ月111時間~49時間という36協定(延長限度月40時間)違反の長時間労働
  • 2017年2月27日付で、大阪区検はサトレストランシステムズを労働基準法違反の罪で略式起訴
  • 2017年3月6日、大阪簡裁は、この略式起訴を不相当とし、公開形式の刑事裁判を開くことを決定

まとめ

 大阪簡易裁判所が略式命令不相当を連発しているのは、単に罰金命令を出しておしまいとせずにブラック労働を強いる悪徳経営者が本当に反省しているのか被告人質問で確かめたいからだと思います。背景には、長時間労働が大きな社会問題になっていることが考えられます。したがって今後は、大阪簡裁に留まらず全国の裁判所でこういう流れが拡がっていくのではないでしょうか。 

 ブラック企業の社長さん、罰金払っておしまいと思っていたら大間違いですよ。