Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

過労社会:労働時間を適切に把握する方法について(パソコン編)

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はじめに

 前回は、適切な労働時間把握のグローバルルールである、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」についてお話ししました。 

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 同ガイドラインは、使用者が労働時間把握の方法として自己申告制を採用していたとしても、入退場記録やパソコン使用時間の記録など客観的データとの整合性を検証しなければならないと規定しています。したがって前回では、「自己申告データとパソコン使用時間等客観的データとの照合を使用者に依頼しましょう」というところまでお話ししました。

 労働者の労働時間の把握は、本来は使用者の責務です。 しかし、みなさんが照合を依頼しても、使用者が一向にやってくれなかったらどうしたら良いでしょうか。入退場記録については、使用者か人事管理部門が把握しているものなので、提供してくれるかどうかわかりません。事業所によってはそのようなもの自体が存在しないところもあるかもしれません。

 しかし、もしみなさんが自分専用の業務用パソコンを使用者から供与されていれば、労働時間把握の客観的資料としてパソコン起動時間を活用することができます。パソコンの起動・終了時刻ならばみなさん自身が調べることができます。今回は、この方法について説明します。

イベントビューアーについて

 VDT作業を中心としている方は、朝職場に来たらパソコンに電源を入れ、業務が終了したらパソコンの電源を消して帰宅する方が多いと思います。実は、これらの時刻はOSがWindowsの場合、イベントビューアー内のWindowsログ(イベントログ)というところに格納されています。イベントビューアーは、Windows標準装備の管理ツールです。以下、イベントビューアーを用いて、これらの時刻を調べる方法について説明します。(ここでは、OSのバージョンがWindows10であるものとします。)

イベントビューアーによるパソコン起動・終了時刻の取得方法

 まず、左下のスタートボタンf:id:mesoscopic:20170407051434p:plainを右クリックしてください。すると、次のようなリストが現れます。

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 [イベントビューアー(V)]をクリックすると、イベントビューア―が立ち上がります。次に、左側のコンソールツリーの[システム]を選択します。

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 すると中央の画面に、そのコンピューターで発生した様々なイベントの発生時刻とその種類のリストが表示されます。(ここでは、画面を省略しています。)発生イベントのうち、起動・終了イベントだけをフィルタリングするために、右側の[操作] メニューの [現在のログをフィルター] をクリックします。

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 すると、次のようなフィルター処理ツールが立ち上がります。 

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 フィルター処理ツール中央の[イベント ID] ボックスに、7001-7002と入力し、OKを押します。すると、フィルタリング処理が実行され、起動・終了に関するイベントログだけが抽出されます。

 次に、抽出したイベントログをファイルに保存する方法を説明します。再び、右側の操作メニューに注目します。

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 [フィルターされたログファイルの名前を付けて保存]をクリックし、適当な名前を付けて保存します。このときのファイル拡張子は、.evtx(イベントファイル拡張子)です。以上が、イベントビューア―によるパソコン起動・終了時間の取得方法です。このイベントファイルを、適宜上書き保存し、毎日のパソコン起動・終了時間の確認として活用すると良いでしょう。なお、他のOSの場合や、イベントビューア―のより詳細な操作方法については、こちらを参照してください。

労働基準法における労働時間とは

 ここで、もう一度、労働時間の大原則に立ち戻ってみましょう。 次をご覧ください。

三菱重工長崎造船所賃金カット事件

平成12年3月9日  最高裁判所第一小法廷判決

 労働基準法三二条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。

 このように、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと解することができるか否かにより判断されます。したがって、会社にどんな珍妙なルールが存在していたとしても、その定めのいかんにより決定されるものではないのです。

まとめ

 イベントビューア―による方法は、パソコン起動時間という一つの有力な客観的資料を提供してくれます。パソコン起動時間は、自己申告による時間と実際に労働した時間との乖離が著しい時の有力な傍証となりえます。しかし、上記の判例にあるように、そもそも労働時間とは使用者の指揮命令下にあるかどうかで判断されます。裏を返すと、単に業務用パソコンが起動していた時間をもって直ちに労働時間であるとはみなせないことを意味します。したがって、パソコン起動時間という客観的データに併せて、当該時間に具体的に何をしていたのかという記録も必要となります。

 そのため、1日のうち何時ころどのような業務を行っていたのかをノートやメモ帳に具体的に記載しておくことも重要なのです。