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働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

派遣社員の皆さん、派遣先から事前面談の求めがあったら即刻辞退しよう!

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労働者派遣の仕組み

 最初に、労働者派遣の仕組みについて説明します。労働者派遣は、労働者派遣法において詳しく規定されています。労働者派遣法を正式には、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下、法という。)といいます。なんだか長ったらしい名称ですね。

 法2条1号に、労働者派遣の定義がなされています。

法2条1号

労働者派遣

自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。

 これだけだと非常にややこしいので、図解して説明します。下の図は、労働者派遣の仕組みを図解したものです。

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 (参照元:厚生労働省ホームページ)

 労働者派遣においては、図のような三角関係が成立しています。派遣労働者と雇用関係にあるのはあくまでも派遣会社です。法2条1号では、「自己の雇用する労働者」の「自己」が、派遣会社を意味しています。派遣会社のことを「派遣元」と言うこともあります。

 法2条1号では、「自己の雇用する労働者」が派遣労働者になります。図から明らかなように、派遣労働者は派遣先と何の雇用関係もありません。したがって、法2条1号の条文では、派遣先を「他人」と表現しています。

 また、派遣会社と派遣先とのあいだで「労働者派遣契約」が締結されています。派遣先は、派遣労働者を指揮命令下に置くためには、「労働者派遣契約」に厳密にしたがわなければなりません。したがって、「労働者派遣契約」に書かれた内容を逸脱して派遣労働者を指揮命令下に置いた場合、法違反になります。

 法2条1号の後半の、「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」とは、「派遣労働者が労働者派遣契約の終了前に、派遣先に直接雇用されることが約束されたものを含まない」という意味です。必然的に、労働者派遣契約の終了と同時に、派遣先からの指揮命令が解除されることを意味しています。

労働者派遣の種類

 労働者派遣には、次の2つの種類があります。

  1. 一般労働者派遣
  2. 特定労働者派遣

一般労働者派遣について

 登録型派遣という名称で言われることが多いと思います。派遣就業を希望する労働者をあらかじめ登録しておき、派遣先から労働者派遣の申し入れがあった場合に、登録労働者の中から、労働者を雇い入れて派遣する形態を言います。

特定労働者派遣について

 常用型派遣という名称で呼ばれることが多いと思います。派遣先から労働者派遣の申し入れの有無にかかわりなく、派遣会社と派遣労働者とのあいだに雇用関係が常に成立しています。

労働者派遣契約とは

 法26条に、労働者派遣契約についての定めがあります。

法26条

 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。

 厚生労働省令で定める事項とは次の項目です

  1. 派遣労働者の従事する業務内容
  2. 派遣労働者の就業場所
  3. 派遣労働者を直接指揮命令する者
  4. 労働者派遣の期間、派遣就業する
  5. 派遣就業の開始・終了時刻、休憩時間
  6. 派遣労働者の安全、衛生の確保に関する事項
  7. 派遣労働者からの苦情の処理に関する事項(苦情の処理方法、処理体制)
  8. 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
  9. 紹介予定派遣に関する事項(※紹介予定派遣である場合のみ)
  10. 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
  11. 4の派遣就業する日以外について就業させることができる日、5の時間以外について就業させることができる時間数(※派遣会社の三六協定の範囲内)
  12. 派遣労働者に利用させることができる派遣先の施設等(ロッカー、食堂、診療所など)
  13. 1の業務が期間制限のない業務の場合は、根拠となる労働者派遣法の条項番号など

 派遣労働者の方は、労働者派遣契約書の内容をしっかりと確認しましょう。また、当該契約書に記載されている業務内容以外の業務を依頼された場合は直ちに拒否しましょう。さらに11号の規定により、派遣労働者にさせることができる時間外労働時間は、派遣元の36協定の範囲内に収めなければならないことになっています。したがって、派遣元の36協定の延長時間を確認するとともに、派遣先から当該延長時間(11号に記載された時間数)を超える時間外労働を依頼されたら直ちに断りましょう。

事前面談の禁止

 派遣労働者の皆さんの中に、派遣先への就業前「事前面談」・「事前面接」・「仕事紹介」・「顔合わせ」という名目で、派遣先を訪れた方はいないでしょうか。派遣労働者自らが希望する場合を除けば、これらの行為に何ら法的根拠はなく禁止されています。派遣先・派遣元双方とも、派遣労働者に対し、これらの行為を求めることも禁止されています。したがって、派遣労働者の皆さんは、これらの行為を求められた際は断固として拒否しましょう。

 派遣先および派遣元に対しては、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」および「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」において次のように規定されています。

派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止

派遣先は 、紹介予定派遣の場合を除き、派遣元事業主が当該派遣先の指揮命令の下に就業 させようとする労働者について、労働者派遣に先立って面接すること派遣先に対して当該 労働者に係る履歴書を送付させることのほか、若年者に限ることとすること等派遣労働者 を特定することを目的とする行為を行わないこと。なお、派遣労働者又は派遣労働者とな ろうとする者が、自らの判断の下に派遣就業開始前の事業所訪問若しくは履歴書の送付又は派遣就業期間中の履歴書の送付を行うことは、派遣先によって派遣労働者を特定するこ とを目的とする行為が行われたことには該当せず、実施可能であるが、派遣先は、派遣元事業主又は派遣労働者若しくは派遣労働者となろうとする者に対してこれらの行為を求めないこととする等、派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止に触れないよう十分留意すること。 

派遣労働者を特定することを目的とする行為に対する協力の禁止等

派遣元事業主は、紹介予定派遣の場合を除き、派遣先による派遣労働者を特定することを目的とする行為に協力してはならないこと。なお、派 遣労働者等が、自らの判断の下に派遣就業開始前の事業所訪問若しくは履歴書の送付又は派遣就業期間中の履歴書の送付を行うことは、派遣先によって派遣労働者を特定することを目的とする行為が行われたことには該当せず、実施可能であるが、派遣元事業主は、派遣労働者等に対してこれらの行為を求めないこととする等、派遣労働者を特定することを目的とする行為への協力の禁止に触れないよう十分留意すること。

 このように、派遣労働者自らの意思に基づかない派遣就業開始前の事業所訪問は、派遣労働者の特定行為に該当し、法律で禁止されています(ただし紹介予定派遣を除く)。派遣先に対し派遣労働者を特定した上で当該労働者を配置する行為は、職業安定法44条で禁止されている、労働者供給事業に該当し、同法64条9号において、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金という罰則規定が設けられています。

派遣労働者の特定行為とは 

 では、派遣労働者の特定行為とは具体的にどのようなものが該当するか見ていきましょう。

  1. 派遣先が派遣労働者に対し面接を行い選別すること
  2. 派遣先が派遣労働者に対し選考試験を行い選別すること
  3. 派遣先が派遣元に対し履歴書や職務経歴書・スキルシートなどを要求し選別すること
  4. 派遣先が派遣元に対し年齢や性別の要件を付したうえで労働者派遣を依頼すること

 職業安定法に違反する反社会的行為に派遣労働者自らが協力しても何のメリットもありません。 派遣労働者の方は、1・2を要求された場合無条件で断りましょう。また、3・4については、労働者派遣法に違反する派遣依頼の事実を知ったり、派遣労働者の承諾なく派遣先の求めに応じて、派遣元が派遣先に対し勝手に履歴書や職務経歴書・スキルシート等の資料を派遣先に送付していることを知った場合は、直ちに最寄りの都道府県労働局に相談してください。

 担当部局は、各都道府県労働局内に設置された需給調整事業関係業務担当窓口になります。下記は、同窓口の連絡先のリンクです。

www.mhlw.go.jp

 労働局が行政指導を行った場合は、検察庁への刑事告発を依頼するか、または、自らが証拠資料を添えて検察庁へ刑事告発あるいは刑事告訴することが肝要です。

まとめ

 労働者派遣とは、派遣労働者から一定期間役務の提供を受けるだけであって、派遣先が当該労働者を雇用する責務は何らありません。その代わりに、労働者派遣法の立法趣旨からいって、派遣先が派遣労働者の選考に関与する権限も与えられていません。 何らの責任(雇用責務)を果たさない赤の他人が、あれこれと権利だけ主張(選別行為)するというのはあまりにも虫が良すぎませんか。

 労働者供給事業を助長させるような反社会的行為はいい加減やめてもらいたいですね。