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ヤマト運輸パワハラ問題:なぜ日本社会でパワハラがかくも多くなったのか

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長野のヤマト運輸パワハラ問題について

日本の雇用労働分野の深い闇を感じざるをえません。

ヤマト運輸の長野県内の営業所で勤務していた男性従業員が自殺したのは上司からのパワーハラスメントが原因として遺族が会社と上司に損害賠償を求めて長野地裁に提訴しました。

報道によると、2012年秋以降、上司から暴言や暴行を頻繁に受け、14年9月にうつ病を発症。

その後、男性は勤務を継続し15年1月に自殺したとのことです。

男性は、パワハラを受けていた時の様子を録音しており、暴言の数々が報道されています。

また、暴力を受けていたともいいます。

出典:http://mainichi.jp/articles/20170401/ddl/k20/040/173000c

ヤマトのパワハラ問題は他にも

なお、ヤマト運輸のパワハラに関しては、仙台でも起きています。

仙台市内の男性支店長が自殺したのは、長時間労働とパワハラが原因として遺族が会社と上司4人に計約8500万円の損害賠償を求める訴訟に至っています。

www.kahoku.co.jp

 人手不足による過重な業務が背景にあるとは思われますが、だからと言ってパワハラは人間の尊厳を傷つけるものであり決して許されるものではありません。

 なお、これらヤマト運輸のパワハラ事例は、いずれも労働基準監督署から労災が認定されています。

厚生労働省の「パワハラの予防・解決に向けた提言」について

ところで厚生労働省では、都道府県労働局へのパワハラ相談が近年増加傾向にあることを踏まえ、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を2011年7月以降開き、議論を重ねてきました。

2012年3月15日、同会議は「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」をまとめました。

 この提言では、パワーハラスメントを次のように定義しています。

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

 また、パワーハラスメントの行為類型として次の6つを挙げています。

①暴行・傷害(身体的な攻撃)

②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 長野のヤマトの例ですと、報道を見る限りにおいては少なくとも①・②に該当すると思います。

行為類型①~⑥を個々に見てみる

 上記行為類型のうち、筆者は①~②と、③~⑥を違う性質のものに捉えています。

①・②は刑法上の構成要件に該当する違法行為であり決して看過されるものではありません。

③~⑥について考えてみます。

③と⑥に関しては、雇用形態に拘わりなく起こり得る事象であると言えるでしょう。

しかし、④・⑤は、圧倒的に正社員に起こり得る事象だと言えます。

通常、非正社員に関しては、雇用契約上業務内容や勤務地が明確であり、④・⑤を類型とするパワハラは起こりにくく、万が一起きた場合でもその立証が比較的容易です。

一方、正社員の場合、業務の遂行範囲や勤務場所が不明確であり、④・⑤の立証が非常に困難になります。

どこまでが自分の担当するべき業務か曖昧であるため、正当な雇用調整の一環としてなされる場合と懲罰的・恣意的になされる場合との線引きが非常に難しくなります。

これが④・⑤を類型とするパワハラの立証を困難にしている所以です。

 正社員の場合、業務遂行範囲の決定権が使用者(あるいは上司)に強力に付与されているためこのようなことが起こりやすいのです。

正社員はなぜ我慢するのか?

 上記のようなパワーハラスメントを受けた場合、一刻も早く職場から逃れて欲しいと筆者は考えます。

なぜなら、パワーハラスメントを受け続けうつ病などの精神疾患を患った場合、命にかかわるからです。

しかし、なぜ日本では、上記①~⑥のような不条理な行為を受けても我慢してしまうのでしょうか?

それは、日本ではまだ雇用の流動化が不十分で、転職がしにくいからです。

また、長期雇用を前提とすれば、雇用調整を内部労働市場に依存せざるをえません。

したがって、特に正社員に関しては使用者に強大な人事権が移譲されており、上司の命令は絶対的になります。

このような日本型雇用における独特のカルチャーが、パワハラが発生しやすい土壌を育んでいるのです。

日本社会の閉鎖性もパワハラを生む要因

雇用が流動化していないということは、閉鎖的な部分社会が形成されることを意味します。

この閉鎖性が、パワハラを誘発しやすい要因にもなっています。

裁判所を例に考えてみます。

先日、最高裁判所についての記事を書きました。 

www.mesoscopical.com

 最高裁判所で裁判官も務められた瀬木比呂志氏(現 明治大学教授)は、最高裁判所を頂点とする強固なヒエラルキー型人事システムを批判しています。

gendai.ismedia.jp

瀬木氏は、最高裁事務総長が率いる事務局の意に沿わない判決や論文を書いた裁判官に対し、昇進を遅らせる・片田舎に単身赴任させる・再任拒否するなどの嫌がらせが横行していることを指摘しています。

中には、心を病み退官に追い込まれた裁判官もいたそうです。

しかし、この裁判官の事例をパワハラだと誰が認定するのでしょうか?

年功序列型賃金体系もパワハラを誘発しやすい要因

 また、多くの日本企業で採用されている、年功序列型の賃金体系もパワハラを生み出しやすい土壌となります。

年功序列型賃金体系の下では、若年者の賃金が低く抑えられており、中高年になってはじめて勤続年数に応じた分を回収し清算する方法がとられます。

終身雇用が当たり前であった高度成長期では機能していましたが、企業のリストラが相次ぎ、終身雇用が当たり前でなくなった現代では、制度上は残っているものの運用上は有効に機能していません。

正社員が不条理なパワハラに遭っても我慢してしまうのは、辞めることによって生じる経済的損失を回避したいというインセンティブが優先しているためです。

しかし、パワハラに遭いうつ病になるほうが、はるかに経済的損失が大きいのです。

雇用を流動化し、成果に応じた報酬が得られるようになれば、このような不合理なインセンティブも消滅するでしょう。

まとめ

福井弁護士会会長の海道宏実弁護士は、パワハラの原因の一つとして高度経済成長期を経験した人と若者の仕事に対する意識の違いを挙げています。

なるほど、その通りですね。

 高度成長期に若い頃低賃金で働いた分を現在回収している人が、低成長期に低賃金で働いている若者に対し、帰属意識を植え付けようとしたってそりゃ無理でしょう。

 いずれにしても、万が一パワハラにあったら、秒速でその会社から離れましょう。