Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

徹底分析:出版社のブラック労働

f:id:mesoscopic:20170323060112j:plain

はじめに

写真の吹き出しは松下幸之助の言葉です。

松下幸之助の名言・格言|無理をしてはいけない

昨日の産経新聞に、「逃げ込んだトイレの個室、探し回る編集長の怒鳴り声…電通だけでない、“デスマ”映画地でいく出版社のブラックな実態」と題する、ブラック労働の紹介記事が載っていました。

www.sankei.com

 この記事は雇用・労働のあり方やブラック労働を分析する上で非常に示唆に富む素晴らしい記事です。

みなさんに紹介するとともに、ブラック労働の徹底分析をしたいと思います。

老舗出版社の元編集マン、初田宗久さんの言葉から

老舗出版社の元編集マン、初田宗久さんは現在中国のメーカーに就職し、得意の中国語を活かした仕事をされているといいます。

出版社でブラック労働をしていた当時を振り返り、上海での今の暮らしのほうが楽しいと初田さんは言っています。

初田さんの言葉から、ブラック労働について考えます。

 月刊誌の締め切り前の深夜残業や徹夜が増え続ける状況に、しだいに体調を崩すようになっていた。

 まず、交代制の勤務でもない限り、徹夜で仕事をしている時点で、その職場は異常です。

一度でもそのようなことがあれば、その職場を離れることを検討すべきでしょう。

前回、マズローの欲求段階説について解説しました。 

www.mesoscopical.com

 このような状態が続くと、睡眠の確保という生命維持のために必要な生理的欲求が充足できなくなり、そもそも仕事をしている意味がありません。

 「『何か売れるアイデアを出せ!』と上司に怒鳴られましたが、一度落ち始めた部数は、どんな企画や特集を打ち出しても食い止めることはできませんでした」

 沈みゆく泥船にしがみつく必要性は全くありません。

直ちに救命ボートで逃げ出すのが適当だと思います。

凋落の一途をたどる業績を、ブラック労働で何とか食い止めようとする会社は、いっそのこと潰れてもらったほうが社会の健全性を保つうえで重要です。

第一、「睡眠欲」という生理的欲求が満たされないままに良いアイディアなど浮かぶはずもありません。

 入社して11年。初田さんは男性ビジネス誌の売り上げ不振の責任を取らされ、廃刊寸前のアダルト誌の編集担当に左遷させられた

正社員において特有の現象である雇用調整を名目とした恣意的な人事です。

通常の内部労働市場による雇用調整であれば、業績の悪い部署から良い部署への人事異動が為されるはずです。

業績の悪い部署から、さらに業績の悪い部署への人事異動は、使用者による懲罰的意味合いも込めた明らかな恣意的人事です。

これを俗に、「左遷」と言います。

左遷は、解雇規制の強固な日本独特の現象と言えるでしょう。

正社員は、定年までの雇用が保障されている代わりに、このような恣意的な人事も甘んじて受けなければならないのです。

初田さんはなぜすぐに逃げ出せなかったのか?

ところで、典型的なブラック労働とわかっていながら、初田さんは会社を辞める決断をなかなか下せなかったそうです。なぜでしょうか?

 雑誌が廃刊になったら、担当の編集者はその責任を取らされ、雑誌の配送センターがある“埼玉の倉庫送り”というパターンが編集部内の常識でした。窓際族送り、つまり事実上のリストラ勧告です。過労死か窓際か。そんな恐怖心で編集マンたちは働かされていたのです

 何度もこのサイトで解説しているように、正社員として入社する以上、使用者は配転命令権という人事権を取得しています。

配転(配置転換)とは、業務内容の変更および勤務地の変更の双方を含む概念です。

正社員は、入社時に使用者によって定年までの雇用が保障される代わりに使用者による配転命令を受け入れるというコミットメントの交換がなされています。

したがって、配置転換を受け入れない労働者は使用者の立場からすれば信義則違反になり解雇の対象となりえます。

それだけ、正社員にとって配転命令は絶対的なのです。

配置転換と労働生産性低下との関連

ところで、これを労働生産性という点から鑑みてみましょう。

そもそも、編集者が配送業務をこなすというのは労働生産性の観点から不利に作用するのは明らかです。

編集者は編集業務、配送者は配送業務をするのが常識でしょう。

たった1社の枠組みの中で、無理やり雇用調整を行おうとするからこのような歪みが生じるのです。

雇用を流動化し、外部労働市場まで雇用の枠組みを広げれば、それぞれが得意分野を生かした業務に就くことができることは明らかでしょう。

合成の誤謬について

過労死も窓際も絶対に嫌ですが、40歳のアダルト誌の編集マンが、今、出版社を辞めても再就職できるのか…。みんな、そんな恐怖心を抱える“負のスパイラル”に陥ってしまうのです

 合成の誤謬の典型例です。

「果たして再就職できるのか…」というのは、ただそう思わされているだけです。実際は違います。

「会社を辞めても再就職できるのか」という恐怖心がさらに恐怖心を増幅させているだけなのです。

 合成の誤謬に貯蓄のパラドックスというのがあります。

将来が不安だから皆が貯蓄をしたら、企業の業績が下がり、給料が減って、結局貯蓄を取り崩さなければならないという現象です。

ブラック労働はこれに類似しています。

劣悪な労働環境を我慢すればするほど、さらに劣悪な労働環境を引き起こします。

したがって、ブラック労働に遭遇したら、一刻も早く辞めてしまえばよいのです。

決して定年までの雇用保障に拘ってはならないのです。

もはや終身雇用は事実上崩壊しています。

もちろん使用者もそのことには気づいているはずです。

しかし、使用者は、人々にそのことが知られることを最も恐れています。

なぜなら、正社員という会社に忠誠心が高い従業員を従属させておいたほうが、経営が楽だからです。

 

つまり、正社員という就業形態は、もはや幻想と化した終身雇用をちらつかされながら、経営者の掌の上でコロコロと転がされている働き方なのです。