Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

残業代の仕組みを知ることでブラック企業からの被害を未然に防ごう!

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はじめに

 ブラック企業のうち特に悪質なところでは、基本給をも支払わないところがあるかもしれません。しかし、それより圧倒的に多いのは残業代不払いのケースです。ブラック企業についての送検事例等を調べていると、残業代不払いのケースが多いことにも気が付きます。

 先日紹介した、TSUTAYAフランチャイジーの件も、トヨタカローラ北越の件も、いずれも残業代不払いのケースです。 

www.mesoscopical.com 

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 一口に残業代不払いと言っても、固定残業代制を悪用したり、タイムカードを一斉に定時近くの時刻に打刻させたりと、ケースは様々です。今回は、労働基準法において残業代がどのように規定されているのか詳しく紹介し、なぜこのような問題が起きるのか、どのような対策をしたら良いのかについて考えていきたいと思います。

法定労働時間外の賃金は高く設定されている

 皆さんは、法定労働時間における賃金(以下これを通常の賃金と言います)と比べて、残業をしたときに支払われるべき賃金が割高に設定されていることはご存知でしょうか。これを、時間外・休日労働についての割増賃金といいます。

 割増賃金については、労働基準法37条において詳しく規定されています。そもそも割増賃金というのが存在する理由は、長時間労働を抑制するためです。それを逆手にとって、あの手この手を使い支払いを逃れ、その結果長時間労働へと労働者を誘引するのが、いわゆるサービス残業の問題なのです。

 では、いったいどのくらいの時間外・休日労働をすれば、どのくらいの割増率になるのでしょうか。以下、その点についてみていきたいと思います。

労働基準法37条に規定された時間外・休日労働の割増率の詳細

①通常の労働日の割増率について

始業時刻9:00

休憩時間12:00~13:00

終業時刻18:00

 の会社を例にとって考えてみたいと思います。次の図をご覧ください。

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 図の青色の部分を通常の賃金として考えます。18:00以降に労働した場合はまず、25%の割増率が発生します。図の黄色の部分です。この日22:00を超えて引き続き労働した場合、さらに深夜労働による割増率25%(図のオレンジ色の部分)が上乗せされ、通常の1.5倍の賃金になります。ここで、深夜労働とは、午後10時から翌日午前5時までの労働のことをいいます。

②1か月60時間超の時間外労働を行った人がさらに時間外労働を行う場合

 ある労働者Aさんが、月の初日から起算して60時間の時間外労働を行ったとします。Aさんがその月にさらに時間外労働を行う場合、通常の割増率に加え、さらに25%の割増率が上乗せされます。下の図の肌色の部分がこれに相当します。

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 したがってAさんが時間外労働した場合、全体で50%の割増率になります。さらにそれが深夜にまで及んだ場合、深夜労働の割増率25%が上乗せされ、全体で75%の割増率になります。 但し現在、月60時間を超える時間外労働をした場合の割増率は、大企業のみに適用される規定となっています。 

労働基準法138条

中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。

 なお中小企業については、平成34年4月1日から適用されることとなっています。

③週40時間を超える労働を行う場合

 労働基準法32条では、1週間の法定労働時間が40時間と決まっています。そこで、簡単のため1日の所定労働時間8時間、土日休みの会社について考えてみます。月曜日から金曜日までに祝日がなく全て労働日であったと仮定します。このとき、土日のうちどちらかに出勤すれば、週法定労働時間の40時間を超えてしまいます。

 仮にそれが土曜日であったと仮定します。すると、土曜日に行われた労働は全て時間外労働と扱われ、25%の割増率が発生します。もちろん、土曜日を休みとして日曜日に出勤した場合も同じです。この場合の様子を図にしたのが下図になります。

 図のように、この場合も、深夜まで労働が及んだ場合は深夜労働の割増率25%が上乗せされます。

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 また下図のように、1か月60時間超の時間外労働を行った人であれば、さらに25%の割増率が上乗せされるのも②と同様です。

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④休日労働を行う場合

 では、日曜日から土曜日までの1週間で、日曜日も土曜日も出勤した場合はどうなるでしょうか。この場合、そのどちらかの日が休日労働となります。ここでは、日曜日を休日として取り扱います。

 しかし、1週間のうち全ての日を労働日とすると、そのままでは労働基準法違反となってしまいます。なぜなら、労働基準法35条第1項において次のように定められているからです。

労働基準法35条

使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない

2  前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 しかし、第2項の規定にしたがって他の労働日を休日とすれば大丈夫です。これを休日の振替と言います。ただしこの場合、休日労働が行われる日より前に、休日として振り替えられるべき労働日をあらかじめ特定しておく必要があります。 

 さて、休日に労働した場合の割増率はどのようになるでしょうか。労働基準法37条によると、休日労働における割増率は35%です。したがって、休日に労働した場合、下図のようになります。

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 そもそも、休日に労働した場合、時間外労働という概念がありませんので、8時間を超える労働をした場合でも、割増率は35%のままです。月60時間を超える時間外労働をした人に対する規定も適用されません。しかし、深夜に労働が及んだ場合は、深夜労働の割増率の25%が加わり、全体で60%の割増率になります。

まとめ

 以上が、労働基準法37条の時間外・休日労働の割増率の概要です。これまで、割増率で25%・35%と言ってきましたが、この数字は労働基準法で定められた最低ラインであり、これより高いことに越したことはありません。

 ところでみなさんは、上記で注意しなければならないタイミングが4つあるのに気づきましたか?その4つとは次の通りです。

  1. 1日の労働時間が8時間を超えたとき
  2. 1週間の労働時間が40時間を超えたとき
  3. 1か月の時間外労働が60時間を超えたとき(ただし大企業のみ)
  4. 午後10時から翌日の午前5時の間に労働したとき

 これらのときに、ブラック企業においては労働時間の過少申告の圧力が高まる可能性があります。あるいは、これらの時間を基準とした妙なローカルルールがブラック企業には存在することも考えられます。このことに注意をしておけば、サービス残業の被害を未然に防ぐことができます。

 以前紹介した、36協定の延長時間や特別延長時間を知ることに加え、このような時間外・休日労働の原則を知ることで、ブラック企業による被害を未然に防ぐことができます。